# あの子は今夜も だれかのしたで ないているの◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
幼い頃からフェイスは、向けられる視線に敏感だ。
周囲の人間はいつも、うっとりとした表情でフェイスの両親と、兄の顔を見る。まるで国立美術館での芸術鑑賞を楽しむかのように。
それから少しだけ視線を下げて、9歳離れた兄の後ろで顔を半分隠しているフェイスを視界に入れると、みな一様に息を呑むのだ。
音の波に揺蕩うことを好むフェイスにとって、自身の顔を見た直後に漏れ聞こえる感嘆のため息はただの雑音でしかなかったが、僅かでも不埒な考えを抱く者など許さないと、いつだって手を握ってくれる存在がそばにいた。
「俺のそばから、決して離れてはいけない。守れるな? フェイス」
両親に促されて出席させられるよくわからないパーティーは、フェイスだけのヒーローをひとりじめできる時間でもあった。
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