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    shiiiii587

    頭悪いえろばっか。

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    shiiiii587

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    炭魘♀夫婦。炭が亡くなる前と後の話。二人の子供がめっちゃ喋る。

    ##魘♀

    花をください痣の代償。大きな力の裏には何かある。
    そんなもの、信じられなかった。信じたくなかった。全ての戦いが終わり、自分は完全ではないが人間に戻った。正式に結婚して、彼によく似た男の子を産んだ。ずっと焦がれていた。彼の妻になることに。ずっと憧れていた。彼の子を産むことに。


    なのに。


    「炭治郎は、二十五の歳になるまでに死ぬ」

    愈史郎から、そう告げられた。腕の中で可愛い息子が眠っている。すぴ、と鼻の詰まった音がした。

    「子供が産まれたばかりなんだよ」 
    「どうして、」 
    「禰豆子の嫁入りも決まって、炭治郎凄く嬉しそうで」
    「子供が、産まれたばかりなの」 

    空っぽの瞳は何も映さない。子供を抱く手が震える。この子が起きてしまう。冷静にならなければ。

    「何も今日明日死ぬ訳じゃない。…子供との思い出ぐらいは、作れるだろ」
    「過去じゃ意味がない」

    彼とこの子ともっと、当たり前の家族になりたかっただけなのに。

    「(あ、違う)」

    なれないんだ。自分は、その当たり前を馬鹿にした。だから、彼は死ぬんだ。この子が大人になって、お嫁さんを貰う姿を、見られないんだ。
    ぽつり、と愛らしい頬に何か垂れた。雫。その雫はぽつぽつと雨のように降り注ぐ。雫に驚き、起きた赤子が泣き出した。けど誰も、あやす事が出来ない。

    「…ごめんね。俺のせいだ。ごめんね」

    泣き喚く我が子を抱き締め、彼女はそう繰り返す。愈史郎は口を開こうとしたが、結局、何も言わずにその口を閉じた。何を言っても、彼女の求めるものではない。
    ─炭治郎が家に帰ると、愈史郎と入れ違いになった。愈史郎は一言「すまない」と言うと、茶々丸と共に、夜の山に消えた。
    首を傾げながら家に入ると、禰豆子が炭治郎と魘夢の子をあやしていた。

    「おかえり、お兄ちゃん」
    「ただいま…魘夢は…?」

    魘夢の所在を聞くと、禰豆子はあー…と言葉を探し、小さな声で教えてくれた。本当に小さな声で。

    「お義姉ちゃん、ちょっと体調崩しちゃって……お布団にも行けなかったの」

    善逸と伊之助が彼女を夫婦の寝室に運んだと言う。心配だ。やはり慣れない山での生活は、彼女には辛かったか。家事も子育ても、彼女は一度もやった事がなかったのだから。

    「ほら、お兄ちゃん。心配なのはわかるけど、お兄ちゃんはちゃんとご飯食べてお風呂入って!この子は私達が見とくから、今夜はお義姉ちゃんの傍にいて」

    ね?と兄の子を抱き締め、禰豆子は笑った。確かに、彼女を心配するあまり自分も気を病んでは意味がない。
    禰豆子に背中を押され、まずは風呂場へと向かった。





    「魘夢」

    夜の匂いが濃くなった。時計の針は天辺にある。静かに襖を開け、彼女の名前を呼んだ。部屋に充満する、悲しみの匂い。彼女はまた、自分を責めている。
    布団を捲ると、妻は泣き腫らした目で見つめていた。眼帯を取らなかったからか、湿っている。眼帯の紐に手をかければ、簡単にそれは取れた。露になる出鱈目に走った傷。閉ざされて一生開くことのない右目。

    「何が君を辛くさせる?」

    その問いに、彼女は沈黙を貫く。
    魘夢の髪を掬い、口付けをする。艷やかな髪はさらさらと炭治郎の手から溢れた。

    「俺は、君を幸せに出来ない?」

    今度は別の問いを。 

    「……いのち、が。いのちが、あなたのいのちが、おわるの?」

    掠れた声は何とか形を作った。作ったと同時に、真っ赤に腫れた目から雫が垂れた。

    「嫌。炭治郎、嫌…」

    炭治郎の手を握り締め、祈るように言葉を洩らした。あぁ、彼女は知ってしまったのか。愈史郎のあの謝罪はきっと、これを意味した。
    誰も悪くない。いつかは言わなければならない事。

    「ごめんなさい…ごめんなさい…。俺のせいだ…俺が、俺が…」
    「魘夢、違うよ」 

    責めないで欲しい。君は、笑った顔の方が素敵だ。
    なんて、言って何になる。彼女の欲しい言葉は自身を称賛するものじゃない。愛する夫が短命でないと、まだまだ生きていられると、そんな確固たる言葉が欲しい。
    震える彼女を両手で抱き締めたい。片手では彼女を溢してしまう。

    「いかないで、炭治郎…。置いて、いかないで……」
    「魘夢」
    「俺も、連れていって…」

    連れて逝けるものなら、連れて逝きたい。だが、自分達が死んでは残される子供が可哀想だ。あの子は、関係ない。

    「魘夢、愛してる。ずっと、君を」

    答えの代わりに、愛の言葉を。そのまま彼女の唇を塞いだ。魘夢を腕の中に閉じ込めて、更に深く求める。炭治郎の手を握っていた魘夢だが炭治郎の動きについていく様に、その手を離して今度は彼の胸元に。もっと、と。もっと触れていたいと、言っている。心臓の音が、そう言っている。

    「愛してる、炭治郎…逝かないで…」

    愛しい妻を腕の中に閉じ込めて眠る。後、何回。こうする事が出来るのだろうか。後、何回。可愛い息子の頭を撫でる事が出来るのだろうか。

    「炭治郎…」
    「ん?」
    「…呼んだだけ」

    炭治郎の胸元に顔を埋める様。目を瞑り、擦り寄る。

    「魘夢」
    「なぁに?」
    「呼んだだけ」

    解かれた髪は長く長く。黒い海を作っていた。この海に溺れてしまえたら。

    「…あの子が大きくなったら、神楽を教えようと思う」
    「ヒノカミ神楽?」
    「うん。あれは、絶やしちゃいけない」
    「もう、戦う必要ないのに?」
    「それでも、だ」

    抱き締める力を強める。魘夢はただそれを受け入れる。

    「ヒノカミ神楽を舞っている間、誰かが力を貸してくれている気がしてた。父さんだったり、縁壱さんだったり。今まで受け継いで来てくれた人達がいた」
    「だから、大丈夫」
    「俺はずっと居るよ」

    また泣いてしまった魘夢をあやす様に。優しく、優しく扱う。
    あぁ、死にたくないなぁ。


    ◆◆◆◆◆


    ばたばたと騒がしく走り回る音がする。こんな天気の良い日は、あの子が元気に走り回るから。

    「こら、ばたばたしない。父様が寝てるだろ」

    足音を立てていた張本人に直接叱りつける。叱られた少年は、少々興奮した様子だった。

    「母様!あのね!神楽、ヒノカミ神楽!全部上手に出来たの!父様にも見て貰いたい!」

    捲し立てる子供の額を弾く。

    「父様は寝てるの。後で母様が見てあげるから」
    「やだ!父様がいい!」

    強情な子だ。誰に似たのだろう。
    葉のついた木の棒を握り締め、父でなければ嫌だと駄々をこねる我が子にどうしたものかと困る。この子が我儘を言うのは珍しい。

    「魘夢、良いよ。俺が見る」
    「炭治郎、でも」

    横になっていた筈の炭治郎が起き上がっていた。今日は体調良いから、と笑う炭治郎に魘夢も根負けした。彼も強情。

    「俺も昔、木の棒をああやって見立てて神楽を舞って遊んだよ」

    耳元で言う炭治郎に、はぁと溜息が洩れる。父親に見て貰えるとわかった子供は嬉しそうにはしゃいでいる。ぱんぱん、と魘夢は手を叩き、子供に言った。

    「ほら、お姉様にも見せてあげなさい」

    姉の話が出ると子供はまた、家の中を走る。その背中に向かって再度注意をするが、子供は聞かないだろう。
    やはり、少しは厳しくした方が良いかもしれない。

    「あの子は君に似て賢いから、もう神楽を舞えるようになった」
    「……急ぎすぎだよ」

    筋肉が落ちた腕に、自身の腕を絡める。幼いあの子は父親から教えられた神楽を習得した。まだ荒削りだが、この先幾度となく舞うのだから大丈夫だろう。だが、それは、つまり…。

    「嫌だよ、炭治郎」

    彼の死期が近い。子供は前では決して見せない弱い姿。あの子の前では強い母でいなければ。

    「嫌、嫌。炭治郎、俺の命をあげる。だから、お願い…」

    手が震える。
    自分が生きるより、炭治郎が生きた方がずっと良い。眼だって彼に差し出せた。なら、命だって。 

    「あの子には父親が必要なの。俺じゃ駄目。炭治郎、お願い…俺が代わりに…」

    弱々しく、けど強い。そんな力で抱き締められた。炭治郎に、まだこんな力が残っていたのか。恐る恐る彼の背中に手を添える。あたたかい。生きている。愛しい。それだけで良いのに。

    「母親だって必要だ」

    かさついた唇に息も言葉も奪われた。遠くで父親を呼ぶ声がする。
    愛する夫。彼が眠ったのは、憎らしい程、天気の良い朝だった。日に日に起きている時間より眠っている時間が多くなる炭治郎を、寝室に残して家事をするのは当たり前になっていた。陽射しがある時は率先して子供が手伝ってくれた。母の病気を理解しているから。

    「母様、お姉様の今日のお洋服どうしよう」 

    姉と慕う、母によく似た人形を抱き締めてその子は言った。魘夢は膝を曲げ、目線を合わせる。

    「お姉様は何が着たいって?」
    「んっと……母様が一昨日作ったの!」
    「じゃあ、お着替えを手伝ってあげて。それが終わったら干したお布団を父様の所に」 
    「はーい!」

    あの子には炭焼きをやらせるべきか、それとも……。家の事を考えれば炭焼きを継がせるべきだが、あの子はどうしたいのだろう。そろそろ學校の事も視野に入れなければ。
    確か、この辺にはあまりなかった筈だ。少し金はかかるが、あの子が行きたいのであれば寄宿舎がある所に…。悶々と頭を捻っていると「母様」と呼ばれた。
    先程とは違う服を着た人形を抱き締めた我が子が立っていた。

    「どうしたの?お布団、交換出来た?」
    「父様、起きない…」
    「……え?」
    「父様に起きてって言ったのに、起きない…」

    サァ、と血の気が引いた。普段、あれだけ家の中を走るなと言っているのに今は自分が走っている。
    夫婦の寝室の襖を乱暴に開ける。母の取り乱した姿に、少年は尋常じゃない気配を感じ取った。

    「炭治郎、炭治郎!」

    固く目を閉ざす彼の名を呼ぶ。何度も何度も。身体を揺すり、起きてくれと言う。

    「いや、いやぁ…!炭治郎…!」

    涙が溢れる。その雫が炭治郎の顔に垂れ、炭治郎は薄く目を開いた。

    「……え、んむ」
    「いや…たんじろぉ…おいて、いかないで…!」
    「……ごめん」

    弱々しく、彼女を抱き締める。

    「おいで」

    唖然としていた我が子を呼ぶ。少年はゆっくり、父に向かい、抱き着いた。

    「…お前が母様を守るんだ。出来るか?」
    「……うん」
    「母様はお日様が苦手だから、気を付けてあげて」
    「…うん」
    「神楽の練習は毎日すること」
    「うん」
    「この耳飾りを失くさないこと」
    「うん」
    「母様を、許すこと」 

    最後だけ、よくわからなかった。父親の顔を見ようと顔を上げた。父は植物みたいに、優しく笑ってた。

    「魘夢、君を愛してる」
    「っ、愛してる、炭治郎…」

    そう言って、口付けを交わす両親はきらきらしていて、綺麗だった。


    ◆◆◆◆◆


    ──仏壇に飾ってある写真を手に取り、撫でる。写真の中の人物は変わらぬ笑顔を向けてくれている。 

    「…あの子が、もうすぐお前の歳を越すよ」

    写真を抱き締め、呟く。若くして死んだ夫。子供は適正の年齢になったら、すぐに寄宿學校に入れた。炭焼きは、嫁に行った禰豆子や善逸、伊之助らが手伝いに来てくれた。
    一番の成績で卒業したあの子は、仕事を見つけ、婚約者も出来た。蝶の飾りがよく似合う女性を連れて来た時、心底安堵した。

    「魘夢、大丈夫?」

    初めて会った時は少女だった彼女も今や、年相応の美しさを持つ女性。写真を戻し、声の人物に向き合う。

    「平気。何?カナヲ」
    「式の前に会いに行ってあげて」
    「……うん」

    昼間外に出られない自分は出席しないと言ったのに、新婦側の母親であるカナヲが「なら夜にやろう」と言った。何を言っているのかと思ったが、カナヲも彼女の娘も本気だった。

    「頑張って育ててきたんだから」

    そう、言われたけど。段々、炭治郎に似てきたあの子を見るのが辛くて追い出す様に學校に入れた。恨まれはしても、感謝される覚えはない。
    カナヲに半ば無理矢理手を引っ張られる。

    「……あの子の奥さんが、カナヲの娘で良かった」

    カナヲの娘も、彼の息子も、それぞれ生き写しの様にそっくりだ。きっと自分がいなかったら、炭治郎の妻となっていたのはカナヲだろう。

    「あの子、炭治郎にそっくりでさ。性格も。石頭なとこも遺伝してた。俺にはちっとも似てなくて、本当……良かったよ」

    鬼であったが故に、魘夢自身の血は薄かったのかもしれない。彼女の身体は炭治郎から分けられたもので出来ていたから。

    「頭が良いところは魘夢に似たんじゃない?」
    「ふふ、確かに炭治郎はあまり賢くはなかったかな」
    「魘夢、貴女はずっと綺麗。出会った頃のまま。だから、心配なの。貴女が取り残されてしまう事が」

    寿命が違うと、いつからか理解していた。息子に身長を抜かされても、良くしてくれた町の人が死んでも。自分の容姿はずっと変わらなかった。 
    炭治郎が痣の代償で死ななくても、結局自分は取り残される。 

    「…もう、良いかなって。可愛い嫁さんも貰ったし、俺があの子に出来る事はないよ」
    「何でそんな事言うんだ」

    彼によく似た声にはっとし、振り返る。
    いつかの彼にそっくり。自分達が小さな結婚式を上げた時と。立派な紋付き袴を着て、彼と同じ瞳をして。

    「母様は昔からそうだ。俺には何も教えてくれない、勝手に決める。この世の悪い事は全部自分のせい」
    「…やめなさい」
    「學校だって、俺が行きたいってわかってたから入れたんじゃないか」
    「やめて」 
    「母様がそんなんだと、俺はずっと父様との約束を守れない」
    「黙りなさい!民尾!」

    はぁはぁ、と肩で息をする。

    「っ…こんな日に、喧嘩したくない」

    顔を伏せ、目を逸らす。
    息子の言いたい事はわかる。だが、自分の母親が人喰い鬼だったと知ってどうする。自分の母親が他と違うのは、人間じゃなかったから。今更教える気などない。



    「俺、母様が少し違うって知ってたよ」



    それは、一番聞きたくなかった言葉。つい、耳を塞ぐ。

    「母様はいつも綺麗で、頭も良くて、品があって、自慢だった。でも、俺がどれだけ成長しても母様はずっとその姿のまま」
    「だから、わかったんだ」
    「母様は俺とは少し違うんだって。きっと父様が言ってたのは、この事だと思う」

    嫌だ。もうやめて。
    この子には知られたくなかった。

    「母様は、鬼だったの?」

    全てが音を立てて崩れる。
    あぁ、もう、無理だ。自分はもう此処には居られない。もう、この子とは。
    涙が溢れる。化粧が落ちるとか、どうでも良かった。控え目に引いた紅を噛む。立っていられなくて、その場にへたり込んだ。

    「ぁ、あ…あぁ…っ!」

    声を上げて、みっともなく泣いた。鋭い子だ。きっとどこかで疑惑があったのだろう。そして、年月を経て確信へと変わった。自分の両親が何者なのか、彼には知る権利があった。それが、母親を追い詰めるとわかっていても。
    両手で顔を覆い、泣く母親をそっと抱き締めた。いつも母がやってくれた様に。

    「母様、俺は母様に生きて欲しい。父様の分も。ねぇ、俺は孫の顔を母様に見せたいよ」
    「っ、まだ…母と呼ぶの…?」
    「『母様を許すこと』、約束したから」

    優しく笑う顔は、炭治郎に瓜二つ。
    不安な時、いつも笑って支えてくれた彼の顔が。

    「あ…あぁ…!たんじろぉ…!」

    時の流れが違うから気付かなかった。我が子はもう、大人だ。












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