糸し糸しと言う心 ガラガラ、ガラガラ。アスファルトの上をキャリーケースのタイヤが転がる。時折小石に躓くが、持ち主の女性は決して気にはせずに前しか向かない。
黒いワンピースを靡かせ、踵の高い白いパンプスで地面を踏む。まとめられた髪に挿さる簪の飾りがしゃらんと音を立てて揺れた。ディップアートで作られた緑とオレンジ色の四角い飾りは、太陽の光を受けて輝く。その鮮やかさが黒と白で彩られた彼女によく似合う。現に、彼女を放っておけない男達がその下心を隠さずに声を掛けてきた。しかし、彼女はそれらに応える事は無かった。
声を掛けられる事を煩わしく感じる。彼女は目についた喫茶店に入る事にした。入店を告げる鐘の音に、店員がすぐさまやって来て彼女を案内した。大荷物である彼女に配慮して奥まった広い席だった。
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