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    shiiiii587

    頭悪いえろばっか。

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    shiiiii587

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    人間に戻った魘夢が人間になろうとする話。炭魘♀。ぬるい嘔吐表現あり。

    ##魘♀

    ひとくち、どうぞ。鬼の始祖を倒し、悲しみの連鎖を断ち切った。それから、すぐには家には帰る事は出来なかった。当たり前だ。あれだけの死闘を繰り広げて、無傷な訳がない。結局、鬼殺隊が解散しても蝶屋敷は忙しかった。負傷した隊士は通常の病院では、診て貰えない。
    炭治郎とて例外ではなく。
    一度失い形だけとなった左手。そして、形だけだった右目。もう、右目は形だけではない。貰った。愛しい女性が、自らの目を抉り、彼に渡した。
    それ以来、彼女から笑顔が消えた。



    ―怪我の具合が良くなった炭治郎が毎日訪れる部屋があった。部屋には毎回鍵が掛かっていて、簡単には開かない。そもそも、部屋の主は誰も招かない。入れるのは蝶屋敷の少女達と、炭治郎のみ。その炭治郎だって入れる様になったのは、つい最近の事。
    自らの目玉を抉り取った彼女は、一生残る傷を負った。もう鬼ではない彼女は、自身の顔の傷に絶望し、扉を閉ざした。誰にも己の顔を見られたくないと言って。
    彼女が目を抉ったのは、炭治郎の為。無惨の血に侵され、失った炭治郎の視界を彼女は取り戻した。

    「経過は良好、とは言えない。ただの人間なら死んでいても可笑しくない傷だ。加えて、人間の食べ物に慣らしている最中で栄養が圧倒的に足りない」

    愈史郎はそう言っていた。
    珠世の薬で人間に戻った魘夢が苦戦したのは食事だった。人の身体では今までの様な食事は出来ない。しかし、鬼は人間の食べ物を口にすると吐き出してしまうという体質だった。彼女の身体はまだ、食物を受け付けない。
    生きる為に必要な栄養を取れなくなった。だからだろうか。眠る事が多くなった。今日も部屋の扉を叩いて声をかけるが、応答はない。預かった鍵で扉を開ける。

    「魘夢…?」

    扉を閉めたらすぐに鍵を。
    薄暗い部屋の中、置かれた寝台で眠る彼女が居た。枕に深く頭を沈めて、規則正しい寝息を立てている。彼女の胸元が上下する度に安心した。彼女は生きている、と。
    部屋の隅にあった椅子を寝台の横に持ってきた。座って、眺める。まだ痛々しい包帯は取れない。取れたとして、傷跡は一生残るし、そんな自分の顔を見る度に彼女は泣くのだろう。
    彼女の髪を掬い、落とした。それがきっかけか否か、彼女に睫毛が揺れ、ゆっくりと片方の目がその色を見せた。

    「……炭治郎」
    「ごめん、起こした?」
    「平気。起きたかった」

    身体を起こそうとする魘夢の身体を支える為に手を出したが、制された。魘夢は一人で起き上がり、炭治郎の方を見た。

    「……炭治郎、毎日来なくて良いよ。お前もまだ…」
    「俺がしたいんだ。それに、殆ど良くなってる」

    むんっ、と腕を突き上げて彼女に見せつける。魘夢は笑ってはいたが、何処か冷めている様にも思えた。
    元気がないのは明らか。食事が一番の苦痛になっている彼女は、誰が見ても痩せこけているとわかる。浮き出た鎖骨、棒の様な腕。足もそうだろう。人間に戻った当初は、月の物も来ていたらしい。が、栄養不足で止まってしまったと、彼女が言っていた。片目の傷も良くない。
    炭治郎は魘夢を連れて帰るつもりだ。だが、今の彼女では山での生活に耐えられない。医者だってすぐには呼べないのだから。

    「食事はどう?食べられそうか?」
    「……少しは、口に。でも、…吐いちゃった。ごめん……」

    ならば、今回も栄養剤を打って誤魔化したのだろう。少しずつ食べられる様になったとは、愈史郎に聞いたが本当に、ほんの少し。害は無い筈なのに、彼女自身がまだ苦手意識を持っている。
    何か、彼女の為に出来ないか。自分であまり言うものではないが、彼女は炭治郎を信頼している。盲目的と言っても良い。

    「俺も手伝うよ。アオイさんに頼んで君の食べる物は俺が作らせて貰う様にする。粥くらいなら片腕だけでも出来る」

    せめて、自分が手伝う事で助けにならないかと思った。魘夢は驚いていたが、嫌だとは言わなかった。
    彼女の細く白い手を取ってじっと、見つめる。魘夢は繋いでいない方の手で、炭治郎の顔に触れた。額の大きな痣。丸くて赫い瞳を縁取る目元。そして、自分と同じ翠色の。

    「炭治郎…炭治郎、好き。お前に相応しくなくても、お前と居たい」
    「魘夢…」

    互いの唇が重なるのは自然な事だった。啄む様な、初心な恋人同士の口付けから段々と深く。舌を絡ませあって、存在を確かめる。息が出来なくても、二人一緒なら。


    ◆◆◆◆◆


    「良いと思います。塩と梅干しは魘夢さんの体調に合わせて下さい。小皿に分けときますね」
    「ありがとう、アオイさん」
    「私もお部屋まで行きます。片手でこの量は大変でしょうから」

    粥が入った土鍋と取り分け用の茶碗。小皿と匙を盆に乗せて炭治郎とアオイは、魘夢の部屋に向かう。部屋の扉を叩いて、鍵を開ける。眠っている彼女を見て、アオイは机の準備をしてそぉっと部屋から出ていった。寝台横につけられた机に盆を置いて、魘夢が最初から用意してくれていた椅子に座る。
    粥は熱いから、彼女が起きた頃には丁度良いだろう。これまで彼女の寝顔を見る事はなく、この先もそうだと思っていた。普段は大人の女性で、自分達を見守ってくれていた。そんな彼女の寝顔はとても幼い。

    「起こしてくれても良いのに」

    片方の目で、炭治郎を見据えて起き上がりながら彼女は言った。君の寝顔を見ていたかったから、なんて素直に言ったらきっと彼女は怒るだろう。炭治郎は「よく寝ていたから」と言った。
    土鍋の蓋を開けると湯気が立ち上る。魘夢は少し緊張した面持ちで見ていた。

    「手伝って貰ったけど、俺が作ったんだ。一応、味を変えられる様に色々持ってきたけど、まずはそのまま食べてみよう」

    茶碗に少量よそい、更に匙で掬う。ふーふーと息を吹きかけてある程度冷ました。それを魘夢の口元に。魘夢は少し目を泳がせた後、口を開けた。
    匙が離れる。米粒が殆ど残っていない粥を咀嚼して、飲み込む。……まずは一口。
    魘夢の様子を見ながらそれを繰り返す。机に置いたままの茶碗から粥がみるみる減っていく。少し、味付けを変えてみても大丈夫かな、と炭治郎が考えた時だった。
    魘夢が口元を押さえて餌付き始めたのは。

    「魘夢!」
    「う゛ぅ…ぐっ…」

    押さえた手指の隙間からぼたぼたと垂れるもの。消化しきれていないそれを、彼女は吐き出す。耐えているつもりだが、全くの無意味。
    結局、取り入れた粥は何の栄養にもならなかった。吐き出して一番驚いていたのは魘夢だった。呆然と、吐瀉物で汚れた自身の手を見つめていた。見開いた片目を炭治郎に向ける。顔色が悪い。

    「あ、あぁ……ちが、違うの…炭治郎、違うの…食べるから、ちゃんと…」
    「魘夢?ま…」
    「食べられるから…たべっ…」
    「っ!?、魘夢!」

    怯えた様に呟く魘夢は吐瀉物で汚れた自身の手を舐め始めた。炭治郎は自分が汚れるのも厭わず、大声を出して魘夢を抱き締めた。震えている彼女を落ち着かせる為に、強く、強く。
    彼女の喉が鳴り、また吐き出すのだとわかった。それでも炭治郎は離さない。もう、人間の食物は彼女にとって害はない。味もするし、食事を楽しむ事だって出来る。
    慣れないだけ。

    「大丈夫だ、大丈夫だから。全部出して良い。少し焦り過ぎたな」

    ごめん、と炭治郎が謝る。顔は見えないが泣き声と嗚咽を洩らす音がする。小さな子供みたいに泣き喚く彼女を、ただひたすらに抱き締めて、髪を撫でた。






    鼻腔を甘い香りがくすぐる。あんこともち米。おはぎだ。禰豆子は上機嫌に出来上がったおはぎを炭治郎に差し出した。

    「不死川さんお墨付きだよ」

    ふふん、と得意気に言う可愛い妹に頬が緩むが、善逸は炭治郎の比ではない程緩んでいた。
    料理上手な妹特製のおはぎを味わいつつ、別室にいる彼女にも食べさせてやりたいと思った。だが、粥を食むので精一杯な彼女にもち米は些か大変だろう。

    「美味しく出来たのは良いんだけど、あんこが中途半端に残っちゃったの。お汁粉にする程でもないし…」

    どうしようかな、と洩らす禰豆子に、炭治郎は思い付いた。おはぎ用に潰した餡であれば、彼女も口に出来るのではと。量も少ない方が良い。炭治郎は事情を話して、残ったあんこを貰える事になった。
    早速、魘夢の元へ向かう。甘い物は食べやすいと聞くし、一気に取れる熱量も高い。一口だけでも食べる事が出来れば、それは前進だ。
    片手で全てを済ませなければいけない炭治郎が扉の前で四苦八苦していると、内側からがちゃりと音がした。扉が開き、小さな隙間から魘夢の翠色が見えた。

    「魘夢!寝てなきゃ駄目だろ!」
    「だって、何かがちゃがちゃ聞こえたし…入って」

    廊下に誰もいない事を確認してから、炭治郎は彼女に出迎えられた。
    彼が持つ物に気が付いた魘夢は少し、顔を顰める。今日も今日とて、ろくな食事は出来なかった。いっその事、前みたいに彼の精を代わりに出来たらどれだけ楽か。
    炭治郎を寝台に座らせ、彼女も隣に座った。

    「今日は何を?」
    「甘いあんこ!禰豆子がおはぎを作った時に出た余り物だけど……」

    くん、と鼻を動かす。甘い香り。何だか、食欲が湧きそうな……。
    炭治郎に向けて口を開いた。「食べさせて」と。彼女からそう伝えてくるのは珍しい。炭治郎は喜んで餡を掬い、彼女に食べさせた。

    「……、美味しい」
    「…え?魘夢、今…なんて…」
    「え?美味しい、な…って思って…」

    今まで余裕がなく、食事をするだけで精一杯だった魘夢の口から出た言葉。ぽつんと洩れた言葉は、間違いなく本心。彼女が、人間の食物を美味しいと言った。
    先程よりは少し多めに掬い、また食べさせた。魘夢は迷いなく口を開けて…。

    「(笑ってる…きちんと食べて、美味しいって言って…笑ってる)」

    餌付く様子もない。炭治郎が口元に持って行く度に、口を開けて食べている。
    からん、と乾いた音で全て食べたのだとわかった。魘夢は口元を拭い、水を飲んでいる。全部食べた。少量とは言え、今まで殆ど味のない粥でさえ半分も食べられず、すぐに吐き出してしまった彼女が。
    嬉しくなって押し倒してしまったのは、仕方無いと思うから許して欲しい。
    そうして、魘夢が甘い物が好きとわかってから、炭治郎は色々な本を読み漁った。聞いたことも見たこともない外国のお菓子。材料自体が高価な物もあったが、輝利哉が「彼女が慣れる為なら」と買い揃えてくれもした。作るのは炭治郎の役目。両手を使う時は禰豆子にも手伝って貰った。出来上った菓子を見ても実物を見たことがないから、合っているのかもわからない。だけど、魘夢は喜んで食べてくれた。そうして、食べる事に慣れてきた彼女は、甘い菓子以外も吐き出さずに食べる様になった。
    今日も、彼女は炭治郎が作った菓子を食べる。卵と牛乳を使ったプリン。表面は凸凹している。

    「炭治郎の好きな食べ物ってなぁに?」 

    匙を一度置いて、魘夢が言った。

    「俺の?タラの芽。山菜なんだけど、よく採ってて…それが好き」
    「それってどうやって食べるの?」
    「お浸しとか天ぷらとか、和え物も美味しいよ」

    炭治郎が言うと、魘夢は何かを考え出した。結論に至ったのか、炭治郎に向き合って言った。

    「じゃあ、今度は俺が作ってあげる。炭治郎の好物」

    待っててね。
    片目を細めて、彼女は笑った。


    ◆◆◆◆◆


    からころ、からころ。口の中で転がす甘い菓子が音を立てた。じんわり溶けて味が広がる。食べ過ぎは良くないから一日二個。これは今日の最後、二個目。
    夫は町に行く度に彼女の好物を買ってきた。だから、彼女も夫の好きな物を用意する。春に旬を迎える山菜を採り、今日はどう調理しようかと義妹と考えて、夫に喜んで貰う。料理は得意では無かったが、沢山練習した。失敗だってした。約束したから、頑張った。
    帳簿を付け終えた頃、夫が部屋に入ってきた。

    「まだ起きてたのか、魘夢」

    それはこちらの台詞だ。毎朝早いのだから、なるべく早く休んで欲しい。
    彼は彼女の側にあった包みを見つけた。彼女の好きな菓子の包み紙。

    「食べていたのか」
    「頭使ってたからね。飲み込むのが勿体無くてまだ口の中にあるけど」

    口元を手で隠しながら言う。ゆっくり味わっているらしく、彼女は小さな一粒に時間をかける。

    「魘夢」
    「ん?…っんん!」

    彼女の手を取り、無防備になった唇を奪う。舌を差し込むと甘ったるい感覚にくらくらした。小さな甘い塊を舌で奪い、自分の口内に持っていった。
    魘夢の大好きなキャラメルは、夫である炭治郎の口の中。暫く息を整えていた魘夢は我に返ると、頬を膨らました。どうやら好物を奪ってしまった故にお姫様は大層ご立腹になられた様だ。

    「ごめん、怒った?」
    「知らない。もう」
    「ごめん。嬉しくなって、つい」
    「……嬉しいって、何が?」

    炭治郎は別の包み紙を弄りながら、教えてくれた。嬉しくてたまらない事実。

    「君が、食べる事に慣れてくれた事。大好きになったキャラメルを食べている事。俺の好物を作ってくれる事。全部」

    包みから出したキャラメルを口に含んで、また口付けを交わす。彼女の口内にキャラメルを移して、自分の舌と彼女の舌で溶かす。さっきよりも甘ったるい。喉にへばり付くこの甘さが心地良い。必然と、唾液が溢れる。

    「んむ…んっ、ぁ…ふぁ…」

    口の端から零れる唾液も甘くあまく。甘いままに魘夢を押し倒す。
    一日二個。決めていたのに。
    じゅるっと音を立てて唇が離れた時には、魘夢の頬はほんのり紅く染まっていた。

    「三個、食べちゃった…」
    「良いよ。今日くらい」

    その言葉に安心したのか、炭治郎は首に腕を絡めて、魘夢は笑う。キャラメルみたいに甘ったるい囁き。

    「あいつらも、坊やももう寝たよ」









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