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    shiiiii587

    頭悪いえろばっか。

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    shiiiii587

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    現パロ炭魘♀。交際期間0日で結婚を決めた話。

    ##魘

    糸し糸しと言う心 ガラガラ、ガラガラ。アスファルトの上をキャリーケースのタイヤが転がる。時折小石に躓くが、持ち主の女性は決して気にはせずに前しか向かない。
     黒いワンピースを靡かせ、踵の高い白いパンプスで地面を踏む。まとめられた髪に挿さる簪の飾りがしゃらんと音を立てて揺れた。ディップアートで作られた緑とオレンジ色の四角い飾りは、太陽の光を受けて輝く。その鮮やかさが黒と白で彩られた彼女によく似合う。現に、彼女を放っておけない男達がその下心を隠さずに声を掛けてきた。しかし、彼女はそれらに応える事は無かった。
     声を掛けられる事を煩わしく感じる。彼女は目についた喫茶店に入る事にした。入店を告げる鐘の音に、店員がすぐさまやって来て彼女を案内した。大荷物である彼女に配慮して奥まった広い席だった。
     「ウィンナーコーヒー」
     適当に入ったがなかなか良い店だ、と無料サービスのレモン水を飲みながら思った。
     注文した品を待ちつつ、スマートフォンを取り出す。ずらりと並ぶ着信履歴。全て同じ人物から。それは全て彼女の父親からだった。
     お待たせしました、と目の前に置かれたコーヒーの為に、スマートフォンをテーブルの上に置いた。
     「(何度連絡したって絶対帰らないんだから)」
     コーヒーを啜り、発端となった数時間前を思い出す。


    ◆◆◆◆◆


     「次の週末は空けておけ。お前の見合いが決まった。まぁ、実質結婚前提見合いだ。故に、顔合わせの様なもの。お前もよく知っている相手だ」
     父はそう言いながら見合い写真を彼女に渡した。きっと相手にも彼女の写真がいっているだろう。確かに、写真の男性は彼女もよく知っている。彼女も世話になっている華道の先生の息子さん。
     「お父様、見合いなど初めて聞きましたが」
     「今言ったからな」
     この父は一度決めたら揺らがないのを彼女は知っている。その信念があるからこそ、代々続く大病院の院長を務めながらも不動産業、果ては議員など手広く開拓出来たのだろう。そして、全て成功してきた。
     いつもそうだ。父の言う事に思う事はあれど、成功を収めたと言う実績の為に何も言えない。ちらりと父の傍らに立つ秘書を見た。黒いスーツ。長い髪を一つに結ってサングラスをしている。髪やサングラスから覗く痣を見つめていたら、彼はそっと頷いた。
     「お父様。私がお父様のお部屋に来たのは見合い話を聞く為ではありません」
     「ほう。何だ」
     「病院を、…辞めさせて下さい」
     「何?」
     ぴくり、と父の表情が動いた。
     「元々、お父様の紹介で入った職場です。常駐しているカウンセラーは少なくはないですし、私がいなくなっても…」
     「駄目だ」
     紅い瞳が、彼女を捉えた。五十をとうに過ぎているとは思えない、父の若々しい瞳が娘の翠色の瞳を見つめる。父の睨みは相手を確かに怯ませる。だが、彼女は彼の血の繋がった娘。何も怖くはない。父は娘をそれはもう溺愛していた。目に入れても痛くないと言わんばかりに。それもそうだろう。彼女の母は彼女が産まれてすぐに亡くなった。産後の容態が思わしくなかったのだ。一人親、しかも男親で妻の面影を残す彼女を育ててきた。極力自らの手で。
     彼女には年の離れた兄もいるが、父の影響か、兄にも大層可愛がられた。そんな愛を一心に受けた彼女は、美しく聡明に成長した。父や兄の影響で医学にも興味を持ったが、彼女はより興味を惹かれた心理学を学んだ。大学卒業後は父に言われるがままに、父の病院に就職した。
     それが良くなかった。
     先輩や同僚は院長の娘である彼女をまるで腫れ物を扱うかの様に接した。彼女から積極的に話し掛けてもよそよそしく、彼女が孤立するのに時間は掛からなかった。
     『院長の娘。しかも由緒正しき家の令嬢に粗相をしたら、どうなるかわからない』
     そう言う事だ。
     だから「病院を辞めたい」と言いに来たのに、いきなり見合い話を進められて、しかも結婚はもう決まってて、やっぱり病院は辞められなくて。
     「魘夢」
     父が、彼女の名前を呼んだ。「魘される夢」など、到底自分の子供につける名前ではないが、それなりの意味があった。
     彼女の―魘夢の母親は彼女を産んですぐに亡くなった。そして、魘夢自身も産まれた時はとても危ない状態だった。もしかしたら娘も失うかもしれない。そう思った父はあえて良くない名をつける事で、娘があの世に連れて逝かれない様にと願いを込めた。迷信じみた話だが、当時はなりふり構っていられなかった。
     名前の由来からもわかる様に、父は魘夢を愛している。
     「お前を私の病院で働かせているのは、何かあった時に私が動ける様にする為だ」
     「もうほいほい誘拐される歳でもありませんし、そこの巌勝さんに護身術も教わりました」
     「だからと言って油断は出来ん。良いか?お前の為だ」
     「では、結婚も私の為ですか?」
     「そうだ」
     父の知り合いの息子で、何かあった時に父の耳に入りやすい。そんな人物。
     実家の事もあるが、父は敵が多かった。そんな人物が溺愛する娘など、弱点でしかない。幼い頃は何度も誘拐され、故に誰も信じる事が出来ず、父や兄、秘書の巌勝にしか懐かなかった。成長するにつれ、相手が危ないか否かの判断が出来る様になったのでもう然程気にはしていない。
     「自分の夫は自分で見つけます。お父様だって自分でお母様と結婚したではありませんか。麗さんとも結婚を前提に交際中だとか」
     「……とにかく。お前は狙われやすい。私が信用のおける人物と結婚しなさい。そうすれば仕事を辞める事も許そう」
     「『俺』だって普通の恋愛がしたい」
     娘の口調が変わった事に、父は気が付いた。魘夢はこちらが素なのだ。男所帯で育った故に口調が男に寄ってしまう。人前や父と話す時は淑やかにと教育されているが、素が出てきたと言う事は彼女の言葉は全て本心なのだろう。
     がたり、と椅子から立ち上がり魘夢の頭を撫でた。妻の忘れ形見の可愛い娘。ますます妻に似てきた。彼とて出来るなら娘には友人を作って、恋愛をして、幸せに暮らして欲しい。だが、周囲を捻じ伏せる力を持つ自分と違って娘はか弱い。
     「わかってくれ。お前の為だ」
     俯いて、何も言わなくなってしまった魘夢に諦めたのかと思った。
     「巌勝、この子を部屋まで送れ」
     「はい」
     俯いているが為に表情は見えないが、落ち込んでいる。巌勝は彼女の背中に手を添え、エスコートした。何かを決心した様な表情の彼女には気が付かず。


    ◆◆◆◆◆


     それからは早かった。キャリーケースに着替えや通帳など、とりあえず何でも詰めた。個人の銀行口座を持っていた為、暫くは金に困らない。
     こんな家、出てってやる。
     そうして家を出た。彼女がいなくなった事に気が付いた父から絶えず着信が来るが、全て無視。着信拒否に設定してメッセージアプリもブロックした。仕事も、退職代行サービスを使って退職届を出した。
     行く宛はない。暫くビジネスホテルやネットカフェに寝泊まりするつもりだった。物思いに耽っている内に温くなったコーヒーを飲み干した。
     あまり長居も出来ない。支払いを済ませて店を出た。日はもう傾いていて帰宅する人達がいる。その波とは反対に歩みを進めた。
     行き着いたその商店街はもうピークを過ぎたのか、人通りは殆ど無かった。ビジネスホテルやネットカフェが集中している駅前に行くには、この商店街を通るのが早い。
     「…っ、いたっ」
     何かに足を取られた。よく見たらヒール部分が折れている。折れたヒールを持って途方にくれていたら、冷たい水がその手に落ちた。
     「嘘…」
     ぽつぽつと大粒の雨が落ちてきた。すぐに雨は土砂降りとなり、容赦なく魘夢の身体を濡らした。慌てて立ち上がり、キャリーケースを引いて屋根のある所を探す。殆どの店が閉まっている商店街では見つけるのも大変。漸く見つけたのはとあるパン屋だった。店は閉まっているが店先の軒下が広い。一先ずそこに避難する事にした。
     「傘…折り畳み持ってなかったかなぁ…」
     鞄の中を漁るがそれらしい物は無い。それに、今更だ。この雨は止むだろうか。暫く待って止む気配が無かったら、濡れながらにでも泊まれる場所を探そう。身体が冷えて寒い。身震いしながら、雨空を見つめる。



     「…あれ?誰かいる」
     閉店後の作業をしていたら、店の前に誰か立っているのに気が付いた。女性だ。いきなり雨が降ったし、雨宿りだろう。ショーウィンドウ越しからは大きな荷物が見えた。
     「心配だなぁ…。母ちゃん!タオル頂戴!」
     住居となっている店の奥に向かって声を上げた。すぐに母がバスタオルを持って来てくれた。
     「どうしたの?炭治郎」
     炭治郎、と母に呼ばれた彼は店先にいる女性について話した。
     「もし良かったら家に入って貰いなさい」
     母はそう言って、再び店の奥に戻った。
     炭治郎はタオルを持って『CLOSE』の札を掛けた扉を開く。扉は音を立てて開いた。よもや、開くとは思っていなかった女性は驚いて炭治郎を見た。
     目が合った。
     女性の、魘夢の翡翠の瞳と炭治郎の赫い瞳。
     心臓が跳ねる。今までにない高揚感。目を逸らす事が出来なかった。先に言葉を掛けたのは炭治郎だった。
     「け、結婚して下さい!」
     「喜んで!」
     手を取り合い、握る。まるで愛する恋人と再会をしたかの様な感覚だ。互いにずっと探していた気がする。
     炭治郎は水が滴る彼女に我に返ると、手を離し、小脇に挟んでいたタオルを彼女の頭の上に乗せた。髪を拭く為に乗せたが、白いタオルはまるでウェディングベールのよう。そのまま吸い込まれる様に、二人は口付けを交わした。




     家の中に入れて貰い、炭治郎の家族の計らいで温かいお風呂に入れた。芯まで冷えていたから、正直助かった。身体を洗う事が出来てよかったと思う。湯船に入ると入浴剤の柚子の香りが更に広がった。
     「(に、しても…いきなり求婚されて…俺もすぐに承諾しちゃって…。でも、嫌じゃなかったし…結婚するなら彼しかありえない…)」
     困っていたところを優しくされたから、つい反射的に返事をしてしまったのかと思い返すが、何度考えても『初めて会った名も知らない異性』に惚れた自分がいる。
     胸が高鳴り、彼と共に居たいと思った。彼に触れられたい、彼に抱かれたい、彼に孕まされたい。ずくり、と腹の奥が疼く。
     「(ヤバイ…欲情してる…。人様の家のお風呂で…はしたない…)」
     はぁ、と吐き出された熱い息は震えていた。そっと、自身の豊満な胸を触る。
     「ふ、んん…っ」
     甘い声が洩れて、はっとする。何てことを。しかも貸して貰っている風呂で。ばしゃりとお湯を顔に浴びせて、深呼吸をした。


     「お風呂、ありがとうございました」
     借りたタオルで髪を拭きながら、魘夢は炭治郎の母親に言った。下着の替えや他の着替えは家を出る時に詰めて来たから良かった。
     「あたたまったかしら?」
     「はい」
     座るように促されて、用意された座布団に正座をする。温かい緑茶も出され、慌てて頭を下げる。申し訳なさがあるから。
     「大きな荷物を抱えて…旅行か何かかしら?」
     「…いえ、その…私、実家住みだったのですが、家を出まして…」
     「一人暮らしをするつもりだったの?」
     「わかりません。多分、私はそのつもりだったと思います。だけど…住む所はまだ決めてませんでした」
     言葉にすればする程、自分は甘いと自覚した。何の目的もなく、ただ父親から離れたくて家を出て仕事も勝手に辞めた。挙げ句には知らない家に上がり込んで。
     「炭治郎から聞いたわ。ごめんなさいね。いきなりプロポーズしたって」
     どうやら彼は母親に全て話したらしい。そして、魘夢は初めて炭治郎の名前を知った。やっと名前を知った様な間柄。
     「貴女はどうしたいかしら?」
     「え?」
     「行くあてが無いならうちで住み込みで働いてみない?結婚するなら、炭治郎の事を知るのも良いと思うの」
     「い、良い…のですか?」
     「炭治郎が選んだ娘だもの」
     悪い娘じゃないわ。
     この人達は自分を知らないから。だから、まっさらな状態で見てくれる。それが嬉しい。三つ指をついて、頭を下げた。
     「鬼舞辻魘夢と申します。不束者ですが、よろしくお願い致します」
     彼女が、あの『鬼舞辻無惨』の娘であると初めて知った。


    ◆◆◆◆◆


     魘夢の仕事は主に接客、販売。おすすめを教えたりもした。美しい容姿は勿論、彼女の笑顔は評判になり、パン屋の看板娘へとなるのに時間は掛からなかった。
     元々は炭治郎の弟妹達も店を手伝っていたが、それぞれ学校等があり手伝える時間が減っていたのだと言う。それに、家の手伝いとは別にアルバイトをしていたりと、本当に色々。だから、彼女が来て助かったと、炭治郎達の母の葵枝は言った。
     葵枝は炭治郎と魘夢の結婚を認めた。それはあっさりと。二人は婚姻届も書いたが、提出だけはまだしていない。魘夢の父親の存在があったから。
     「お父さんに認めて貰って、それから籍を入れよう」
     炭治郎はそう言った。しかし、魘夢は一切父に連絡を取っていない。父も、よもや自分の娘が商店街のパン屋に居るとは思っていないだろう。
     「お父様は家柄を気にする様な方でないけど、気に食わない相手はとことん追い詰めるタイプ。だから敵が多くて、お父様を諫める事が出来るのは耀哉叔父様くらいかも」
     炭治郎と一緒の部屋で、寝る準備をしている時、彼女が言った。竈門家は大家族で、魘夢の部屋を新しく作る事は出来ない。結局、夫婦になるのだからと長男で現在の家長である為に一人部屋を充てがわれていた炭治郎と同じ部屋になった。
     「耀哉、さん?って?」
     「産屋敷耀哉。産屋敷って聞いた事あるでしょ?そこの当主でお父様の双子の弟。鬼舞辻は産屋敷の分家なんだ」
     「お兄さんが本家を継ぐんじゃないんだ?」
     「お父様は鬼舞辻が合ってたみたい。だからそっちの養子に。本家、分家とは言っても規模は同じくらいだし、ただの区別だよね。双子の兄弟どちらも当主になれるように」
     聞けば聞く程、炭治郎と魘夢は住む世界が違っていた。炭治郎は別に逆玉を狙っていた訳ではないが、周囲にはどう思われてしまうのだろう。
     「炭治郎は婿養子になる訳じゃないし、気にしなくて良いよ。跡取りはお兄様がいるし」
     「お兄さんもいるのか!?」
     「今、アメリカでお医者様してる」
     本当に、自分は彼女に釣り合うだろうか。一目惚れして、突発的にプロポーズをした。彼女はそれを受けてくれたけど、本来であれば町のパン屋の嫁ではなく、それ相応の結婚相手がいた筈。
     炭治郎の考えを読み取ったのか、魘夢は炭治郎に抱きつき、頬を膨らませた。
     「俺は炭治郎が良いの」
     「っ…」
     可愛い。贔屓目なしに見ても可愛い。下ろした長い髪は少し湿っている。ヘアオイルだろうか。花の香りがした。化粧などしなくても美しい顔立ち。見ようによっては幼い少女にも、気高い淑女にも見える。
     小さな顎に手を添えると、魘夢も何をするのかわかったらしく、そっと目を閉じた。
     「んっ…」
     小さく高い声が洩れる。きゅっと炭治郎の服を握る魘夢を、そのままゆっくり押し倒した。すぐに離された唇が名残惜しい。
     「魘夢…」
     「ぁ…待って…っ」
     魘夢の白い首筋を、炭治郎はかさついた唇で啄む。音を立てて、赤く花を咲かす。吸い付く度に、魘夢の身体が震えた。
     「たんじろぉ…ぁ、やんっ」
     「明日は首を隠す服を着て貰わないとな」
     二人はまだ清い関係だった。理由はいくつか。炭治郎の家族も住むこの家で、男女の営みは気が引けたから。まだ、結婚を魘夢の父に認めて貰っていないから。だけど一番は、二人共経験がないから。だから、それ以上先に進まない。
     まだ、それで良い。
     「貴方に出会えて良かった。愛してる、炭治郎」
     「俺も、君を見つけられて良かった。愛してる、魘夢」
     明日は定休日。少し寝坊して、デートに行こう。出会ったばかりの二人には、沢山の時間が必要だから。


     糸し糸しと言う心。
     それすなわち、戀と呼ぶ。
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