香水 どうぞ、と言われて渡されたのは香水瓶だった。その中で揺れる薄紫色の液体はどこか渡してきた本人を模したような妖しさを孕んでいる。
「なんだ、これは」
「身につけていただかなくても結構です」
まるで答えになってはいなかったが、これ以上尋ねても無意味に思え、押し付けられるままに受け取った。瓶に貼られたラベルをよくよく見るとアルファベットで弥鱈の名前が書かれている。
「……私の、香りだそうです」
消え入りそうな声で単語を一つ一つゆっくりと話す様は自信がないように見えるが、この男に限っては俺を貶める演技である可能性も否めない。こいつは前科があるからな、と心臓にほど近いところに手を置くと、ズンと重い痛みが蘇るような気がした。
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