縋りつく熱ぴと、と背中に温かいものが触れる。
ヒューは特段驚くことなく、ああまたかと、その熱源のしたいようにさせた。背中越しに触れるのはキャットの背中だ。ベッドに胡座をかいて座るヒューは、やや首を回して様子を確認した。
膝を抱えて俯く小さな頭。わずかに震える細い肩は、まだまだ成長途中の少年の身体だ。
時刻はとうに日付が変わる頃。そんな夜更けに職人頭であるヒューの部屋に、ノックもなくやって来るのはただひとりだ。時折、こうしてやって来ては何も言わず、ただヒューの側に居座る。
その始まりは、彼の過去を知って以降だったように思うが、明確にいつだったのかヒューはすでに覚えていない。それくらい前のことだ。
当初、あまりに自由な振る舞いに叱ろうかとも考えたが、夜に現れるキャットは不思議としおらしく、そんな気はすぐに失せた。しかもそれは無意識のようで、子供が親を求めるように、ぴとりと身体を寄せてくるのだ。
昼に何かあったのだろう、といったことにヒューはしばらくして気付いた。誰のことも信じない、何者も寄せ付けない、そんなキャットもまだほんの子供だ。何かに縋って安心したいのだろう。その縋る相手として選ばれたことは、実のところヒューは少しだけ嬉しかった。
「どうした…眠れないのか?」
「……」
返事をしないことは知っている。それでも話しかけるのは、その方がキャットが安心するだろうと思ったからだ。ぽつり、ぽつりとヒューは取り留めもないことを話題にしては、夜の空間に音を作る。
キャットは、満足したようにすんなりと退室する日もある。そうじゃないときは、そのまま部屋にいて朝まで眠ってしまうこともあった。
あるとき、ヒューはほんの出来心で、その細い身体を暴いたことがあった。
夜更けにやって来る、青年になりかけの未発達で柔らかな身体。キャットに興味があるとかないとか、そういう以前の問題だ。男ばかりの職人生活の中で、そういうものはおそろしく魅力的に映った。
組み敷いても、ほとんど抵抗を見せることがないのをいい事に、最後までことを進めた。慣れぬ情事に痛がる仕草もあったが、か細く濡れた声は艶を帯びて、ヒューの耳元をくすぐった。吐息を混ぜるような口付けも、首に回される腕も、ヒューの心を満たすには十分だった。
何より、普段は「おい」や「てめぇ」としか言わない減らず口の唇から、熱に浮かされたように「ヒュー」と何度も呼ばれるのは心地良かった。
そんな夜を幾度か過ごしても、気にすることなくキャットはやって来る。初めはこの行為に何か意味を持たせるつもりはなかった。
今日はすぐに戻るだろうか?
朝までここで眠るのだろうか?
それとも夜の相手をしてくれるのだろうか?
それなのにヒューにとって、キャットの夜の訪いは、そう心安らかではなくなっていた。甘えるのも素っ気なくするのも自由。その相手は自分だけなのか、それとも安らぎを求める相手は他にいるのか。ヒューはまだ尋ねたことはない。
背中越しの温もりは、今日も熱い。
ヒュー自身はすでに手放せそうにないが、この猫はいったいいつまで自分に縋ってくれるのだろうか。
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