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    417fgo

    @417fgo

    よねくらしいな。20↑。
    CP:テスデイ、ジュオカル(ジュナカル)、カドアナカド、ポルカス、ぐだ攻めなど
    内容:パロディ・クロスオーバー、軽度のエログロホラーなど

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    417fgo

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    7主従で本編中にあったかもしれないやりとり。
    Twitter/pixivにも上げたショートショート。

    「以前も話したと思うが『天使』は、世間一般に言う"天使"とは、全く違うものを呼ぶための名だ」
     デイビット・ゼム・ヴォイドは同じ話は二度しない男だ。勿論、本人にもそう言われたので、テスカトリポカは笑って「より深く、詳細に話せってことさ」と付け加えた。
     密林でのフィールドワークから戻ってきた男を捕まえて、神は晩酌の供をさせていた。次の冥界行のために一分一秒も惜しいのだろう。無駄を嫌う男には少し嫌な顔をされたが、続けてタスクをこなすよりは休養が必要そうに見えたし、後に埋め合わせをすると言えばこれを承諾した。
    「わざわざ『天使』と呼ぶのはやはり……」
    「ヤツらは耳の良いモノ、目の良いモノも多い。名前を付ければ気付かれるし、名前を知れば正気ではいられないとも言われている。だから別のテクスチャを被せるしかない……どんなに抗ったところで、全てを知るモノからは誤魔化せないがな」
    「そりゃそうだ。で? オマエはソイツらとのパスが"繋がっちまった"んだろう?」
     ロックグラスを持った手で、神は男——その背後の暗闇——を指差す。氷がグラスの内壁を叩く音がする。夜闇に男の金髪は、炎のように浮かび上がっている。
     デイビット・ゼム・ヴォイドはかつて、『天使の遺物』によって作り替えられた男だ。人間の姿形をしているがヒトとは呼べない。異常な洞察力、異常な視座を持ち、異常な方法で物事を記録する。
     そして138億光年以上先、2017年の人類には観測不可能な、光も届かぬ遠い過去——宇宙の外と繋がっている。闇を司るテスカトリポカでさえ知らぬ、暗黒星からの影を使役して敵と相対するのだ。カーンの王カマソッソは男を"合わせ鏡"に喩えた。
    「そうらしい。……いや、よく分かっていないと言った方が正しい。"道"が繋がっているのか、何かを吐き出す孔なのか。具体的にどういった送受があるのか。オレは何かに操られているのか。散々調べられはしたが」
     嘆息して目を伏せる男。渦巻く紫はいつだって虚空を見詰めるようだ。表情の少ない男の沈黙からは、その心中を読み取ることは難しい。その手に持ったグラスの結露が、大きな滴を落として床に黒々としたシミを作る。
     神は煙草に火を点けると短く煙を吐いた。組んでいた長い脚に肘をつき身を乗り出すと、ふいにニヤリと三日月のように笑う。
    「もし仮に、ヤツらとオマエを繋ぐための"何か"が埋め込まれているというのなら、オマエを生きたまま腑分けして、探し出してやることもできるがね」
     傾げられた金の滝の奥から、色眼鏡を貫いて鋭く光る眼が覗く。まるで獣のように。
     神の物騒な提案に男は大きく瞬きをしたが、小さく頭を振ってこれを退ける。
    「その必要はない。中を掻き回しても、何も出てこなかったからな」
    「何だ、つまらん」
    「そもそも探し出す必要もない。何か企んでいることでも?」
     まるで子供が他人の悪戯を咎める時のように、男の表情にほんの少しの喜色が滲む。
    「いや、ただの好奇心だ。ただ興味があるというだけさ。気にするな」
     神は危害を加える気はないとでも言うように両手を挙げ、背凭れに身を投げる。
     その性質上、言葉を捻じ曲げる可能性は十分にあるが、それでも戦場で武器を取り上げるような真似はしないだろう。何者にも捉えられない自由で気紛れな神は、殊戦いと交わした約定に関しては信じられると言える。気に留める必要もないだろうと、男は薄くなった酒を呷った。
    「……悪いが時間だ」
    「何だ、もう終いか。次はもう少し付き合えよ、兄弟」
    「次も5分だ。じゃあな」
     空いたグラスを卓に置き、男は立ち上がった。慣れないお喋りに随分と付き合ったものだ。黒のトレンチを翻して男は去っていく。その背に声こそかけないが、未練がましく彼の臓腑を掬い取るように、神は虚空をその白い指で掻いた。
     外宇宙と繋がっているのは肉体か、それとも精神か、魂か。それ以外にも時計塔の魔術師が解き明かせなかった多くの謎を抱えた男だ。その全てを暴いてこそ全能だと、神はサングラスの奥で目を細める。

    ——いずれお前を楽園に招くことがあれば、その休息の邪魔となるものは全て、この俺が取り上げてやらんとな。

     気に入りの戦士が夜闇に消えていくのを見送り、吸い込んだ煙を細く長く吐き出すと、神は目を閉じた。
     ミクトランの静寂が、夜を満たしていく。
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