はじまりside.B
昔から好奇の目で見られることが多かった
物心がつく頃には母さんのするようなファッションやメイクに興味があったし
大きくなるにつれて自分の趣味趣向が周りの人とは違うことにも気付いて
—実際に恋にも落ちた
所謂、性的マイノリティってやつ
世の中的には思想や価値観の自由を謳っているけれど、こんな片田舎じゃ、偏見や軽蔑のオンパレード、町中を歩いているだけで、ひそひそと噂話をされた
ほんと、不自由な世界
そんな時、母さんが再婚することになった……チャンスだと思ったわ
なんてったって再婚相手の住む場所は百万の夢が叶う街ーニューミリオンだったんですもの
9月—アカデミー入学式
懐かしい思い出に浸っていたら、セレモニーはいつの間にか終わっていて、学生番号順に割り振られた講義室に移ったアタシたちはオリエンテーションを受けていた
「なぁ、あの向こうの席のピンク髪、めちゃくちゃ美人じゃね?声かけてみよーぜ。」
「ばっか!お前、制服見てないのかよ!?あいつ男だぞ!」
「げっマジかよ!?ナイわ……」
また始まった
ヒーローを目指す学舎になら少しはまともな人間が居ると思っていたけど、どこへ行っても結局はこうなのね
ヒーローには出自も経歴も関係ないって、そうは言ってもここには沢山の偏見が溢れてる
強者と弱者がいる
何の平等も無いわ
何で私はヒーローを目指しちゃったのかしら
side.J
俺は昔から体が強かった
病気はもちろん、風邪すら一度も引いたことがないし、痛みにも鈍感だった
勉強も出来たし、運動も得意だった、興味は無かったが異性にも同性にも好かれていた、全てが俺の思う通りだった
何の浮き沈みもない毎日
心底退屈だった
ヒーローを目指したのも至極簡単なことだ
偶々、いじめの現場に遭遇して、退屈だったし態度のムカつく奴だったから、そいつらを全員殴り倒したら、正義のヒーローだと持て囃された
その呼び名は一つも嬉しくなかったが、殴り殴られた時の感触は悪く無かった、あの瞬間だけ退屈を忘れられた
このスリルを味わえるのならヒーローになってもいいかと思った
だが実際にアカデミーに入ってみるとそこはやはり退屈な場所だった
平和な街に暮らす平凡な奴らばっかりの生ぬるい箱の中はやっぱり心底退屈だ
こんなものかと思ったら登校する気も失せた
しかしその1年後、俺は運命の出会いを果たす
ビアンキに出会って俺の人生は大きく変わった
いや、俺の人生の全てがビアンキになったんだ
ああ、ビアンキ、ビアンキ、その名を口にするだけで、全身が喜び震える、こんなのは生まれて初めてだ
ビアンキ……俺の最愛の人