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    yukarixxx000

    @yukarixxx000
    二次創作が好きなオタク。大体男同士カプを書いてます。
    ※ポイピクにアップした作品は後日ピクシブにも投稿します。

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    yukarixxx000

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    浜辺でBBQするキネ。
    キの片思いと見せかけて両片思いです。

    ひまわりは知らない 金網の上で、たくさんの肉や野菜がジュウジュウと景気の良い音を立てている。焦げ目の付いた食材たちからは煙と共に香ばしいにおいが立ち上り、空っぽの腹が待ちきれないとばかりにぐううと鳴った。
     バーベキューというのはただでさえごちそうに見えるのに、浜辺の陽光の下では余計に美味そうに思われた。快晴のビーチは食材の焼ける音と人々の歓声とで賑やかになっている。誰も彼も眼前の肉の虜になっていて、波音やキャモメの鳴き声に意識を向けるヤツはひとりもいない。かく言うオレも、海には一瞥もくれないで、先程からずっと肉が焼ける様子を見守っている。人間、食欲には敵わないのだ。
     オレはうきうきしながらトングを手にし、良い具合に焼けている肉を見繕って皿の上に載せた。アツアツの肉は見るからに美味そうだ。においも上等である。輝かんばかりの魅力を放つ肉を前にすると、一刻も早く頬張りたいと気が急いた。けれど、オレが食べるよりも先に、この肉をくれてやりたいヤツがいる。
    「ほら、ネズ、食べなよ!」
     隣に佇むネズに皿を差し出すと、ネズは目をぱちくりとさせて、それから、呆れたような顔をした。
    「どうしてそこでおれに寄越すんです。まずおまえが食べなよ」
     どうしてって、ネズが好きだから、まずネズに美味いものを食べさせたかったんだけど――なんて本音を馬鹿正直に告げることはできない。今現在、絶賛片思い中なのである。
     ネズはオレのことを親しい友人と思ってくれているらしかったが、恋愛感情を抱いている気配はまるでなかった。そんな状態で告白しても結果は目に見えている。ネズがオレを恋愛対象として考えてくれるようになるまでは、この気持ちに気付かれるわけにはいかないのだ。
     オレはにっこりと笑って、「バーベキューの誘いに乗ってくれたの嬉しかったから、なんつーの、そのお礼に?」と誤魔化した。
    「お礼って……おれがここにいることで、おまえにメリットもないでしょうよ」
    「あるぜ。ネズがいてくれると楽しい、っていうか、嬉しい」
     怪訝な顔をするネズに、笑顔できっぱり答えてみせる。嘘偽りのない正直な気持ちだった。
     今日のバーベキューは、オレとルリナが中心となり、各ジムに所属するトレーナーを集めて開催したものだ。簡単に言えば親睦会である。この手のイベントはこれまでに何度も開かれていて、オレは自分が幹事ではなくとも積極的に参加していた。他人と関わるのも、楽しいイベントも好きなのだ。
     けれどネズの参加率はお世辞にも良いとは言えなかった。酒の席であれば顔を見せてくれるのだが、バーベキューだのボウリングだのというアクティブなイベントには「行けたら行く」と言っておいて結局参加しないのだ。けれどネズの性格や嗜好は皆知っていたし、無理強いしては意味が無いと思って、誰もネズを責めなかったし強要はしなかった。
     だから今回も、オレ自ら声をかけておきながら、きっとネズは来ないだろうなと思っていたのだ。燦々と日光が降り注ぐ浜辺のバーベキューなど、ネズにとってはなんら魅力を感じない催しに違いない。そう思って駄目元で誘ったのに、驚くことにネズは姿を現した。浜辺にやって来たネズを見て、オレだけでなく参加者の誰もが目を丸くしたので、ネズは居心地悪そうに顔を背けたのだった。
    「おまえ、おれが来たのを見て驚いてたじゃねえですか。自分から誘ったくせに、変なものを見たような顔しやがって。頼むから来てくれって言ったの、そっちでしょうに。付き合いが悪すぎてもよくないし、たまには顔を出すかと思って、いつも以上に気合を入れて日焼け対策してまでやって来たって言うのに」
     ネズが不貞腐れた声で言う。皆に驚愕の表情を向けられて、いささかへそを曲げてしまったらしい。珍しくネズが誘いに応じてくれたというのに、嫌な思いをさせたのでは申し訳ない。好きなひとの不機嫌な姿というのは、見ていて悲しいものだし。
     オレは「ごめんな、だってネズがバーベキューに参加するなんて始めてだったからよ」と謝りながら、ネズのための皿に肉を追加した。ついでに野菜も盛る。
    「来てほしいと思ったけど、来てくれるとは思ってなかったから。そのぶん、嬉しいんだよ」
     ネズに改めて皿を差し出す。ネズはためらいながらも受け取ってくれた。
    「……すみません」
    「え、何で謝るの」
    「その……おまえがそこまで、おれの参加を望んでいるとは知らなくて……そうとは知らず、これまで参加せずにいて、悪いことしたなと……」
     ネズは苦々しい顔で、呻くように謝罪した。ネズなりに良心が痛んだのだろう。けれどもネズに謝られるのも、ネズに罪悪感を抱かせるのも、オレの望むところではない。
    「気に病む必要ないんだぜ。そんな申し訳なさそうな顔しないでくれよ」
     オレは努めて優しい声でネズに言う。
    「せっかく来てくれたんだから、今日は楽しんでほしいんだよな。このバーベキューが、ネズにとって良い思い出になればいいと思ってる。だからほら、そんな暗い顔するより、笑ってくれよ」
     オレは自分の皿にも肉を盛る。ジューシーなにおいをさせる肉にかぶりつくと、口の中いっぱいに濃厚な肉汁が広がった。あまりの美味さに思わず笑顔になってしまう。肉自体が高級だというのもあるが、浜辺でバーベキューをしているというシチュエーションも、肉をより美味く思わせてくれるのだろう。
    「ネズも肉食べなよ! 一発で笑顔になれるぜ!」
     ネズは困ったような顔のまま、口を大きく開けて肉に食らいついた。とたん、その瞳が輝く。笑顔にはならなかったものの、大きく見開かれた目には喜びの光が宿り、頬は紅潮し、顔いっぱいに歓喜がまぶされた。そんな表情を見ればオレまで嬉しくなる。好きなひとが喜んでいる姿こそ、何よりの栄養だ。
    「う……っまいですね、この肉」
    「だろ? 美味いだろ? カブさんの知り合いが特別にくれたらしいぜ」
    「カブさんの功績じゃねえですか。どうしておまえが得意げだよ」
    「ネズが食った肉を焼いたのはオレさまだろ?」
    「焼くなんて誰にでもできるでしょ」
    「いやいや、焼くにも技術は必要なのよ。オレの友だち、何を焼いても焦がすほどの料理音痴がいるからな」
    「そりゃとんでもねえお友だちがいたもんですね……」
     オレたちは他愛ない話を続けながら肉と野菜、特に肉を重点的に味わった。オレも人に比べてたくさん食べるが、ネズも痩せた体に反して健啖家だ。皿に載せた肉と野菜はあっという間に無くなり、網の上も空になる。
     新しく肉を焼こうとトングに手を伸ばすが、オレよりも先にネズの手がトングを攫った。
    「お返しに、今度はおれが焼きますよ」
     そう言うとネズは網の上にてきぱきと肉と野菜を載せてゆく。肉の方をずっと多く載せているのだから、ネズも結構な肉食だ。
    「優しいじゃん、ありがと」
    「気を遣われてばかりじゃ落ち着きません」
     ネズはつんと澄ました顔でそっけない返事をする。それでも、オレは嬉しかった。
     優しくしてもらえたこともだが、ネズがオレのために料理してくれる――料理と言っても肉と野菜を焼くだけの単純な行為だが、ネズがオレが食べるものをこしらえてくれることに変わりはない。ネズに肉を食わせるのも楽しいが、ネズに肉を食わせてもらえるのも嬉しいと思う。いつかバーベキューではなく、もっと凝った手作り料理を食べさせてやったり、食べさせてもらえたらいいな、なんてことも考えた。
    「何にやけてるんですか。そんなに肉が好きですか?」
     ネズに怪訝な顔を向けられて、初めて自分の頬がだらしなく緩んでいたことに気付く。オレは慌てて、「いや、ネズが優しいから嬉しくって」と言った。言った後で、これはちょっと言い過ぎだったかな、オレの想いに気付かれたかな、と少し不安になる。
     だが、ネズはオレの言葉に疑問を抱く素振りもなく、ふうん、という顔で小さく頷いただけだった。オレは内心ほっと胸を撫で下ろす。オレの魅力をアピールしたり、ネズに好印象を与える振る舞いをすることは大事だが、恋心に気付かれてしまうのはまずい。その塩梅が難しいのだが、いまのはセーフだったようだ。よかった。
    「……なら、もっと……してやりますよ」
    「え? 何? 悪い、聞こえなかった」
    「……いえ、何でもありません。忘れてください」
    「えー、なにそれ、気になるじゃん」
    「いいから気にしないでください」
     そんな押し問答をしているうちに肉が焼けた。ネズが「ん」と手を差し出してくるので、その手の上にオレの皿を載せる。ネズは更に肉を盛るとオレに返した。
     いそいそと肉に噛みつく。ネズが焼いてくれた肉、ネズが寄越してくれた肉だと思うと、ますます美味しく感じられた。
    「ふっは、肉食ったとたんすげえ笑顔」
     肉を食べるオレを見て、ネズがおかしそうに笑う。
    「肉が美味くてそんなに嬉しいですか」
    「うん、嬉しい」
    「おまえも肉が好きですねえ」
    「うん、好き」
     ほんとうは、肉の美味さじゃなくてネズの優しさが嬉しいのだし、好きなのは肉じゃなくネズだ。そんなオレの気持ちも知らないでいるネズは、「まあおれも好きですけど」と言って肉を食べ始める。「おれも好き」というのが、「おれもおまえが好き」という意味での言葉なら、どんなにか幸せだろう。そんな夢を見てしまうオレがいた。
    「ふふ」
     ふいにネズが笑った。とても楽しそうな笑い方だった。
    「うん? どうした、ネズ?」
    「いや、実は今日、ここに来るかどうか迷ったんですけどね……」
     ネズは肉を食べるのを止めてオレを見た。可憐ながらも悪戯っぽい瞳にまっすぐに見つめられて、どきりとする。
    「こんなに笑うおまえを見られたんだから、来て正解だったな、と思って」
    「……へっ」
    「おまえの笑顔、景気がいいからね。いつも明るい方ばっかり見てるという感じがして、悪くねえですよ。ひまわりみたいだなっていつも思います」
     まさかネズがそんなことを思っているとも、それを言葉にして伝えられるとも思っていなかったので、オレは酷くうろたえた。しかし動揺するオレを放っておいて、ネズは平然と食事を再開した。なんだか置いてけぼりにされた気がする。
     混乱した頭で、ネズの言葉を咀嚼する。ネズの言うことは、つまり、オレの笑顔が好きだということだ。それって、すごいことじゃないだろうか。ネズはもしかして、オレが想定しているよりも、ずっとオレを好きでいてくれるんじゃないだろうか。そう考えるとふつふつと喜びが湧いて来て、あっという間に頭の中が沸騰した。凄まじい高揚感があり、心臓がどくどくと早鐘を打つ。歓喜も高揚もオレの思考力を鈍らせて、混乱が収まらない。
    「ね、ネズは、明るい方を見てねえの?」
     混乱のあまり、変なことを訊いてしまった。
     だがネズは不審がるでもなく、「前は、暗い方ばっかり見てたかね」と事も無げに答える。
    「でも最近は、ひまわりを見てます」
    「えっ」
    「……なんてね」
     ネズはそこでべえ、と舌を出してみせた。
     からかわれたのだと気付いて、ようやく混乱が収まり、心臓も落ち着き始める。
    「もー、急に変なこと言わないでくれよー。心臓に悪い」
    「くくっ、すいません、おまえからかうと面白いからさ」
    「面白がらないでくれよー」
     ネズを軽く小突いてやるも、ネズは反省の色を見せることなく、けらけら笑うばかりだった。まあネズが楽しそうだからいいか、と思い、再び肉を食べ始める。オレの笑顔が好きだというのが冗談だったのは、ものすごく残念だけれども。
    「キバナ―、ちょっと来てー!」
     と、ルリナがオレを呼ぶ声が聞こえた。
    「おう、いま行くー! 悪いネズ、ちょっと行ってくるわ」
    「行ってらっしゃい。おまえのぶんの肉もちゃんとおれが食べておきますよ」
    「いやそこは食わずに残しといてくれよ!」
    「冗談です、冗談」
    「冗談ばっかり言いやがって、こんにゃろー」
     オレはネズに背を向けて、ルリナのもとへと駆けてゆく。太陽の方に向かって走る。
     そんなオレの背中を見つめるネズのまなざしが愛に満ちている、そのことを、オレはまだ知らない。ネズは冗談でなくオレの笑顔を愛しているということだって、知らない。今日この日を境にネズがやたらとオレに優しくなった理由も、やけにオレに肉を食わせようとするようになった理由も、しばらくは知ることがない。そういった諸々のこと、ネズがオレにどんな想いを寄せているかという真実をオレが知るのは、ずっと先のことなのだ。
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