勝つつもりしかない ジムチャレンジに出る前に、相棒をふたり増やした。ズルッグにグレッグル。モルペコはアニキに捕まえてもらった子だけど、新しい相棒たちは自分でゲットした。自分の夢を叶えるために旅に出るのだから、そのパートナーは自分の力で仲間にしたかったのだ。
あたしが新入りのふたりを紹介すると、アニキは「いいポケモンたちだね」と褒めてくれた。あたしは得意気に笑って「当然、あたしが選んだ子たちだもん」と答えた。ズルッグもグレッグルも、誇らしげに胸を張ってみせた。
「頼もしい仲間がこんなにいるけん、ジムチャレンジの旅もへっちゃらだよ。だからアニキは心配しないでいいからね。町のこととジムのことと、あと自分のことを考えてて」
「はいはい、わかってますよ」
アニキは二つ返事で答えたけど、口ではそう言いながら、いざあたしが旅に出たら、ちょくちょく電話をかけてくるだろうな、と思った。でも案外、ちっとも連絡してくれないってこともありえる。アニキは根が真面目だから、いくら実の兄妹のやり取りとはいえ、ジムリーダーがジムチャレンジャーと私的に関わるのはよくない、とか考えるかも。
あたしが旅に出るなんて――何カ月もアニキから離れているなんて、生まれて初めてのことだ。初めてだから、アニキがどういう行動を取るかわからない。不安なような、楽しみなような、不思議な感じがした。
と、アニキの後ろから、ズルズキンが顔をのぞかせた。アニキの頼もしい相棒のひとりだ。
ズルズキンはあたしのズルッグをじっと見つめている。ズルッグは気圧されながらも、負けじと睨み返している。負けるもんか、舐められてたまるか、と言わんばかりのいかめしい表情だ。いいぞ、それでこそあたしの相棒、とあたしは心の中でガッツポーズを決めた。
アニキはズルズキンとズルッグを見て、ふ、と笑った。
「早くも意識し合ってますね、こいつら」
「あたしのズルッグも、かっこいいズルズキンになるよ。アニキのズルズキンよりずーっといかしたヤツになるんだから」
「まあまあまあ、ずいぶんとでかいことを言いますね」
アニキは、今度はにやりと笑った。不敵で、意地悪で、でもすごく楽しそうな笑み。
「ズルッグを仲間にしたのは、おれのところにズルズキンがいるからですか?」
「もちろん。アニキと同じポケモンでアニキを倒すって、燃えるでしょ」
「更にでかいこと言いやがる。怖いもの知らずだね」
「だってあたし、アニキの妹やけん。アニキだって、これぐらい生意気なチャレンジャーにバトル挑まれたほうが燃えるくせに」
「その通り」
あたしが挑戦的なまなざしを向けても、アニキは顔をしかめない。不機嫌になるどころか、心底から愉快そうににやにや笑ってみせる。
「言っておきますけどね、アニキのまねっこじゃ勝てませんよ」
「わかっとる。マリィはマリィのスタイルを探すけん、楽しみにしててよ」
「そりゃあもう、楽しみ過ぎていまから夜も眠れませんよ」
「いや夜はちゃんと寝て」
ズルズキンとズルッグがにらみ合いを続け、ばちばちと火花を散らす横で、アニキとあたしはあくタイプらしい笑顔を向け合う。あたしのズルッグがズルズキンになってアニキをぶっとばす日が、待ち遠しくてならなかった。