晋陽・蛮獣退治後 ―北峰・晋陽付近。
ずぅん、と最後の死霊騎士が倒れた。倒された蛮獣たちが核にしていたタオを残して光の粒となって空へと消えていく。
戦闘が終わり安堵した面々が近くの仲間と雑談に入る中、それをじぃっと眺めている榴花紅色髪の女の後ろから男が一人近寄る。
「なに、ぼぅっと見ているんだ嬋玉。見てて寒いし、依頼された群れは倒し終わったから暫く戦闘もないだろうから羽織っとけ」
ないよりマシだろ、と嬋玉の肩に石黄色の直領半臂がばさりと被せられる。
ぶっきらぼうではあるがなんだかんだ自分には甘い幼馴染を揶揄おうと石黄色の布地をついと持ち上げながら男を見上げる。
「腕の部分、なくて風入ってくるけど?あまり意味ないわよ、天化」
くすくすと笑っている嬋玉を見下ろし、自分でも理解しているのでばつが悪そうに視線をそらす。
「…ちっ。じゃあ、返せよ」
「嫌よ、寒いもの。貸そうと思って掛けてくれたんでしょ?」
小さく舌打ちをしながら自身の半臂を取り返そうと手を伸ばすが、ひらりと身を躱す嬋玉に近寄るが直領の領を握り締めて手放さずに笑いかける。
「なら、黙って羽織っていろよ」
「ふふふ、ありがとね天化」
「おう、どういたしまして。…ところで嬋玉」
「なぁに?」
そんな年下の幼馴染に取り返すことを諦めて隣に並び、ふと過去に彼女が羽織っていた竹月色の外套のことを思い出す。
「お前、三年前に羽織ってた外套…今は羽織ってないのか」
「ん、あれ?あれはね、お父様から羽織って欲しいって頼まれていたから羽織ってたのよ。だって、あれ、戦場で羽織ってると邪魔なんだもの」
過去に見た外套は似合ってはいたが裾が地面に引きずられていて戦場を駆ける彼女の邪魔になっていそうだな、と三年前の再会時に思ったことを思い出す。
「だから、界牌関の司令に任命された時に羽織るの止めたのよ」
「なるほどな。でも、見てて寒いからなんとかしてくれ」
「晋陽に気に入った羽織があればね」
「…まったく。ほら、とっとと行くぞ」
「はぁい」
*
いつの間にか手を止めて二人を見ていた子牙は近くにいた楊戩に近寄り、二人に聞こえないように小声で話しかける。
「…なぁ、楊戩。あの二人って…」
「子牙くん、いらぬ質問をしては面倒ごとを引き寄せるだけですよ」
「…確かにな!それより俺もさすがに寒いし、花鈴なんて寒すぎて晋陽の宿から出て来ないから早く戻ろうぜ!」
「そうですね。それよりも君も花鈴くんと同じような恰好だと思いますよ。防寒具を必要分揃えなければいけませんね」
二人の脳裏には北峰地方について早々に寒さで動けなくなった妖魔の少女を思い出す。細い足や薄い体を寒風に晒し、ぶるぶると震えていたことを思い出した子牙は己の寒さを思い出し、ぶるりと震える。楊戩はこれから必要になりそうな防寒具の数を頭に浮かべながら晋陽へと足を向ける。