くわの実のジャムを 大きな鍋をのぞき込むと、血のように赤黒い液体が、グツグツと煮立っていた。底が焦げ付かないよう、シチロウが木べらでゆっくりとかき混ぜるたび、半端に崩れた果肉が水面から顔を出す。黒に近い深いワインレッド色の果肉は、砂糖によって吐き出された同色の液体の中では明確な選別がつかず、なにかの臓物のように見える。手に持った「人間の生態のすべて」という古めかしい本が、余計に生徒たちが騒ぐ噂話――バラム先生は生徒で実験をしているというのを増幅させている気がしてならない。
まぁ、彼が私室化しているスペースまで入り込んでくる生徒はいないから、この姿を俺以外の誰かに見られることなどないが。
昨日の晩というより、今朝まで仕事をし、どうせ今日は休日だと思い、シチロウの部屋に泊まった。映画でも見て、昼を一緒に食べたら帰宅しようと思ったのだが、彼は今日ジャムを作ると決めていたのだそうだ。昨日の放課後、女性陣がキャアキャアと騒いでいたが、まさかシチロウまで一緒になって果物を収穫しているとは思わなかった。
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