『くちびる』
大方の予想通り、月島の唇は荒れかさついている。樺太の気候によって私の唇や肌も乾いているが、月島は大概だ。皮が剥けところどころ逆立っている。乾いたり切れたらどうせ舐めて誤魔化しているのだろう。今こうして私の唇や舌を舐めるように、ぺろぺろと。
「……」
「……っ」
他の人間と経験があるわけではないが、月島の口づけはまるで獣だった。唇が触れた瞬間に食らいついてくる。
今夜の宿もといコタンのはずれ、小さな森の死角。ここ最近の私たちはこういった場所で密やかに互いの口を吸うようになっていた。
杉元たちの目を盗んでは月島を誘い出し唇をねだる。そのように言ってしまえばふしだらだが、元はと言えば月島が私の唇を奪ったのが悪い。私にその味を覚えさせた月島が悪い。私はもう一度、月島との口づけの感覚を確かめたかっただけだ。やましい気持ちからではなく、知的好奇心というものだ。決して色恋のそれではない。
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