ラゾクノツキシマ「降られてしまったな」
「俺は平気ですけど、鯉登さん冷えるでしょう。ここまで来たんでうちで乾かしていきますか?」
繁忙期を過ぎ、今夜は月島と飲みに出ていた。明日は休日。いい気持ちで1軒目を出て2軒目はどうすると彷徨いていると、見事にゲリラ豪雨に見舞われてしまった。生憎と折りたたみ傘すら持っておらずふたり揃ってずぶ濡れになった。近くの駅まで駆け込むと雨は止んでくれたが、さすがにこの濡れ方では自然乾燥はのぞめない。
この格好でタクシーに乗るわけもいかないだろう……と考えていたところに月島の提案。
「えっ、あ、いいのか?」
「いいですよ。今日呼ぶつもりなかったんで散らかってますけど」
「問題ない!行く!」
「ふっ、元気ですね」
濡れた格好で電車に乗るのも気が進まないが、ここから月島の家の最寄りまで3駅だ。
最後尾の車両の隅に乗り込む。金曜のいい時間だからか、やたら混んでいる。月島と濡れた体を寄せ合って3駅。駅から10分ほど歩くと月島の家。
家で過ごす時──所謂おうちデートの時──は私のマンションに来ることが多いので、月島の家には片手で数えるほどしか行ったことがない。なぜかと言えば……私のマンションの方が壁が厚いからだ。単純に月島の気が進まないというのもある。狭くて古いから恥ずかしいと。私の家でもっと恥ずかしいことをしてるのに何を言うか。
「酒買い足して行きますか」
「うん」
濡れた姿ももう吹っ切れかけており、コンビニで酒と肴やら何やらを買い込む。月島がしれっとゴムをかごに放り込んでいた。恥じらう様子はない。男らしすぎるぞ。
コンビニの目と鼻の先に月島のアパートはある。築40年らしいアパート。古いだとか狭いだとか言うが、まぁ平均的だろうと思う。鍵を開けた月島に続き部屋に入る。
「ただいま」
「た、ただいまー……」
「おかえりなさい」
「……うふふ」
こういうところが大好きだ。
月島は玄関先で靴下を脱いだ。濡れた足で歩くわけにもいかないので私もそれに倣う。次にジャケットを脱いだ。もちろん私も脱ぐ。さらにスラックスを……ん?まぁ濡れているのだから脱ぐか。次にシャツとインナーを。さらに下着を。
「……おい!」
「なんです?」
「ここで全裸になる気か!」
下着をおろしかけていた月島が振り向く。引き締まった身体に不釣り合いなほどぷりんとしたあの尻。まじまじ見てると催してしまう。目の毒だ!
月島は何でもない様子で全裸になろうとしている。いくら全身濡れて帰ってきたからといって玄関先手渡し全裸になるか?
「だって、濡れてるし」
「靴下はともかく服は脱衣所で脱げばいいだろう」
「……確かにそうかもですね」
月島はきょとんとした顔をし下着を上げた。ボクサーパンツ一丁の姿だが全裸よりはマシだろう。私の股間への影響も多少は軽減されるというものだ。
月島はそのまま私を風呂に押し込んだ。寒いだろうから早く暖まれと。一緒に入る口実になるかと月島は寒くないのかと聞くと全く平気だと返ってきた。雨に濡れて風邪をひいたことはないと。屈強だ。
「……ふぅ」
風呂場には月島の愛用している固形石鹸のみ。シャンプーは置いていない。コンビニで旅行用のミニサイズを買ってきてよかった。けれど身体を洗う時はは月島の石鹸を拝借する。いかにも固形石鹸でございという匂い。これが月島の匂いだ。かいでいるとホッとするしムラっともする。罪深い匂いじゃないか。
浴室中に月島の匂いが充満する。明日は休み。ここは恋人の家。ゴム。期待するなというのは無理な話だ。
高鳴る鼓動をおさえ風呂から上がる。廊下を歩き部屋に入ると肌色の塊が目に入ってきた。
「上がったぞ……キェェッ!」
「鯉登さん、お静かに」
月島は全裸になり、背中を丸め床に腰かけている。よく見たら足の爪を切っていた。
「だから、何で裸なんだ……!」
「あー……なんかうちだとこの方が落ち着くというか」
「いつも裸なんか!?」
「よほど寒くなければ」
だからあんまりここに呼びたくないんですよね。うちでしっかり服着てると落ち着かないっていうか。
月島、まさかの裸族。夜の営みではそれなりに恥じらいを見せるくせに、今は恥じらう様子がない。私も風呂上がりで下着だけだから余計そうなのだろう。爪を切り終えた月島は徐に立ち上がりこちらへ歩いてきた。
「つ、つ、つきしまっ」
「俺も風呂入ってきます。酒あけてていいですよ」
反応している私の方がおかしいのかと思わせられる、堂々たる態度。
「……それ、もし治らないんだったら布団で待っててくださいね」
素直に反応を見せる私の股座を見て、全裸の月島は笑った。男らしさ倍増しじゃないか。