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    秀二🐻‍❄️

    ヘキの墓場🪦
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    佐渡と鯉月と平太師匠 現代 フシギバナシ

    平太師匠、生まれ変わったら幸せになってほしい
    でもホラー的なものも期待したい そんな葛藤

    佐渡にこういった施設がありますが、だいぶ昔の記憶のため現在と違いがあるかもしれません

    怖いものはどこにもいない「さすがに様変わりしているな」
    「こんな辺境でも、百年も経てば変わりますね」

     月島は憑き物が落ちたような顔で佐渡の海を眺めている。開いた窓から勢いよく風が流れ込む。少し冷たく潮の匂いが強いが、心地いい。感じるものがあるのか月島は小さく唇を動かし何か呟いた。かつての目はしていない。真っ直ぐにその海の色を瞳に映している。
     海岸線をドライブするのは思いの外気持ちがよく、私もいい気分になってきた。空は青く海は太陽を映し耀く。左手には海、右手には山。豊かな自然の中にいる。

    「もうすぐ着くようだ」

      佐渡には金山があった。金は掘り尽くされ、今では割れた山が残るのみだが金山跡には資料館がある。今回はそのエリアとは別のところにある施設に向かっていた。なんでも砂金採り体験ができるらしい。

    「砂金を採るなんて、なんだか不思議な気持ちですよ」
    「……確かにな」

     あの頃でも北海道の一部地域では砂金が取れたようだが第七師団は遮二無二、金塊を追っていた。私たち自身は金塊を求めていたわけではない。互いに別のものを追い求めていた。縋りついていた。失うものかと食らいついていた。それも、遠い過去のことになってしまった。しかし生々しい感情は今もこの胸に残っている。

    「平和な時代に砂金採り。結構じゃないですか。やったことがないので楽しみです」
    「ふふ、取れた砂金でキーホルダーやら作れるらしいぞ」

     そんな会話をしていると、ナビが目的地付近と告げた。外れの道路に入るとじきに目当ての施設が見えてくる。それは海からすぐ近くではあるが、木々と小川に囲まれた場所にあった。砂金採りをアピールした看板が目立つ。

    「月島ぁ、黄色い熊がいる」
    「はい」

     金色のキャラクターに出迎えられ、館内に入る。金に関する歴史の紹介、展示物がある。興味深い内容にふたりでじっくり見入る。金山跡地の麓でも資料などを見たがこちらもこちらで面白い。

    「こんにちは」

     私たち以外に客はいなかったが、背後からふと声が聞こえ振り向いた。そこには背の小さな男が立っている。素朴な顔立ちでいて、円い目とにこやかな表情が印象的だ。名札を下げているため恐らくはスタッフだろう。

    「こんにちは」
    「どうも」
    「いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました」

     ただでさえ小さな身体で丁寧にお辞儀するものだから、余計に小さく見える。つられてこちらも会釈する。

    「どうですか?ここには金に関するものが色々あります。ご興味をそそるものがあればいいのですが」
    「はい、どれも興味深いです。実際に金を見てると見入ってしまいます」
    「そうですか…!私も同じなんですよ。こうして金を見つめているとただ綺麗だなとか、そんな気持ち以外にも何か湧き上がるようで」

     男はどこかうっとりとした表情で金を見つめた。さすがこういった場所に勤める人間というところか。
     彼は砂金採りの指導員でもあるらしく、資料の説明をしながら体験コーナーへ誘導してくれた。特に砂金採りの歴史については、当時実際にやっていたのではというほど詳しく解説していた。

    「では砂金採りを始めましょう。すくった砂を水中で揺らしながら、砂金だけを選り分けるイメージです」
    「砂ばかりでなかなか見つからん……」
    「簡単に見つかったら苦労しないでしょう」
    「じっくり探していきましょうね。その調子です」

     アドバイスに従い根気よく探していく。月島も無心で探している様子だった。ほぼ職人の顔だ。砂を水に逃しながら光るものがないか目を凝らす。

    「あ、ありました」
    「おぉ!お見事です」

     月島の手元を見ると砂から金の粒が顔を見せていた。どこか得意げな表情だ。

    「鯉登さん、集中集中」
    「くっ……今に見ておれ!」

     より一層手元に集中する私を尻目に、月島とくだりのスタッフはのんびりと会話している。

    「おふたりはどちらからいらっしゃったんですか?新潟の方ですか」
    「いえ北海道から」
    「へぇ、そんな遠くからはるばる!来ていただけて嬉しいです」

     会話しながらも、月島はまた砂金を見つけたらしい。地道な作業が得意な男だ、砂金探しに向いているのかもしれない。ふと、入り口にいたキャラクターのことを思い出した。

    「外に熊のキャラクターがいましたけど、佐渡にも熊が出るんですか?」
    「え、く、熊っ?」

     やけに熊という言葉に反応したように見える。

    「あの黄色い……」
    「あ、あれは狸です!」

     確かに尻尾がまるくて長かった。言われてみれば狸かと納得する。月島も見ていたはずだが、奴のことだから熊でも何でもいいと思っていたのだろう。
     男は焦りながら早口で続けた。

    「っ、佐渡には狸が多くて、よく夜に走ってます。狸に関する伝説もあるんですよ。だからあれは、く、熊じゃないんです」
    「……そうでしたか。失礼、知らなくて」
    「いえ、私もその、すみません。昔から熊が怖くて、びっくりしちゃって」

     口調は落ち着いたが、男はまだおっかなびっくりしている様子だ。何か気になるのか辺りを見回している。よほど熊にいい思い出がないのかもしれない。

    「佐渡のような小さな島で熊なんて出たら……私はとてもここでは暮らせません。名前を聞くだけでも怖くて、怖くて……」
    「そうでしたか」
    「家族に聞いてみても例えば北海道だとか、熊がいるような場所に行ったことなんてないんですけど……何故か怖くてたまらないんです」

     小さな身体を震わせる男。瞬間、ふと彼が腰に下げている何かのケースが目に入った。

    「写真はもちろんですが熊の絵なんてものだけで震え上がっちゃうので、私はたぶん北海道には行けないでしょうね……あぁ、怖い怖い」
    「……あの、それは」
    「鯉登さん」

     私の言葉を遮るように月島が腕を引いてきた。その強さに次の言葉は紡げなくなる。月島の言いたいことは口にされずとも分かる。何も言うなということだ。

    「……誰にでも怖いものはあります。理由があろうとなかろうと」
    「えぇ、そういうものですよね。家族も気にしすぎるなと言ってくれるんです。だからできるだけ考えないようにしています」
    「それがいいでしょうね」

     男は軽く顔を引き攣らせながらも、明るく笑って見せた。





    「月島、あれは何だったんだ」
    「さぁ」
    「全く意味が分からない。人当たりが良い分、余計に薄気味悪い」

     男は熊が彫られた小物入れを下げていた。言葉を聞くだけで震え上がってしまうような存在の熊を模したものを。意味が分からず指摘しようとした時に月島に止められたのだ。
     月島は先ほどと同じように窓の外を眺めながら呟く。

    「誰しも怖いものはあります。それをどう恐れるかも人それぞれでしょう。あの男は無意識に熊の存在を身近に感じることで、自分の何かを守っているんでしょう。一体それは何か、俺たちが知るところではありません」
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