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    秀二🐻‍❄️

    ヘキの墓場🪦
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    鯉月 現代 フシギバナシ 夏の島

    ゆらぐ 今日も暑いな。だが都心と違ってビルもないし、何より風が気持ちいい。海を見ていると涼しげな気分にもなる。いい場所だ。しかし今日は日差しがすごいな。……ん、あいがと。喉がからからだったから助かる。
     ここに来るまでに、途中で気になる場所があってバスを降りたんだ。だから歩く距離が長くなってしまって。ほら、あの山の麓あたりに少し古い電車が走っているだろう。ここには何度か来ているが電車が走っているとは知らなかった。もしかしてバスよりも本数が少ないということか?だとしたら、滅多に通らないだろうから私が知らなくても仕方ないな。
     いつもどおりバスから外を眺めていたら線路が見えて、それで途中で降ろしてもらったんだ。ふふ、お前が教えてくれなかったら停留所以外でも降ろしてくれるなんて知らなかった。ありがたいことだな。走るバスの中からでは山の麓ということしか分からなかったから、どうやれば線路の近くまで……あるいは駅まで行けるのか分からなかった。バスを降りてとりあえずは来た道を戻りながら麓まで行けないかうろついてみたんだ。そうすると舗装されてないが普段から人が通っていそうな道を見つけて、そこに入ってみた。藪があるわけでもないし視界もはっきりしていたから行っても大丈夫だろうと思ったんだ。私道でもなさそうだったしな。
     乾いた地面が剥き出しになっている道だった。ゆるい坂になっていて下っていくと、山と山の間に差し掛かっていることに気づいた。もしかしたら近づいているかもしれないと思って耳を澄ますと、線路を走る音がうっすら聞こえるじゃないか。やはりこの道で合っていたらしい。道なりに数分で進んでいくと辺りが叢になってきた。しかし足元はまだ道が続いていたから、まぁそういう場所だろうと思いそのまま進んだ。佐渡だとそういう場所もそれなりにあるだろう。ちょうど山肌に触れられるような場所に出た。樹も増えてきて涼しくて、不思議と足取りが軽くなったな。喉の渇きも忘れるほどに。
     さらに足を進めてどれくらい時間が経ったか。急に拓けた場所に出たんだ。車はなかったが、がらんとした駐車場のような場所と木造の小さな建物が見えた。小規模な公民館みたいだと思ったんだが、どうやらそれが駅だったらしい。駅名が書いてあったからな。ようやく発見できたと思ったら少し嬉しかった。様子を見てみようと入り口のあたりに行くと改札らしきものはなかった。入り口には低い階段があって、そこを上がるとホームまで一直線に吹き抜けていた。向こう側はまさに森という感じで鬱蒼としていて……少しだけ背筋が寒くなった。私以外に誰もいない様子だったから余計そう感じたんだろう。あれは無人駅というやつなんだろう?初めて見た。
     もう一度耳を澄ませてみると、近くで海の音が聞こえた。山の中にいる気分だったがどうやら海も近いらしい。それと、もっともっと遠くから電車が近づいてくる音もした。がたんがたんと。走る様子を近くで見たいとも思ったんだが、さっき言ったとおり少し気味が悪くてな。思い出したように喉の渇きもひどくなってきたから、駅舎の写真だけ撮って引き返してきたんだ。その後、ちょうどよくバスが来たから乗らせてもらってここまで来た。随分早くバスが来たものだと思ったが、思いの外私が長時間うろういていただけらしい。まさか一時間半も経っているなんてな。
     写真も撮ってたきたんだ。ほら。……おかしいな。何枚か写したはずなんだが見つからん。……月島、なんださっきから。幽霊でも見たような顔をして。
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