ねこのしん(小)「閣下、もう寝るんですか」
「うぅん、まだ……」
「そんな眠そうな顔で」
「んん……?」
遠いようで近くから、月島の声が聞こえた。私は両眼を閉じたままその声を聞いている。月島の声が柔らかく耳に染み込んでいく。
今日は月島と色んな場所に行った。新しくオープンしたスイーツ屋や服屋、インテリアショップ。
久しぶりに思い切り走りたかったから、広い公園にも連れて行ってもらった。青々とした芝が生えた場所。芝生の上を走り、走り疲れたら大の字で寝そべり澄み渡った空を見上げた。笑いたくなるほど気持ちが良かった。
月島は面倒くさそうな顔で駆けてきて、私の隣に腰かける。その顔が満更でもなさげだったのは私だけの秘密だ。
心地いい疲れが全身を包み込んでいる。月島は明日も休みなのだから、まだ眠りたくない。だから、目を閉じて、休んでいるだけなのだ。
「……」
「閣下」
「ふ……」
「……音之進さま」
懐かしい音。この音が好きだ。私の中にある、特別な場所をくすぐってくる。それが嬉しくて、あたたかくて、なんだか泣きたくなる。今の私が猫だからだろうか。
「明日も楽しみですね、ゆっくりおやすみなさい」
「……ん」
インテリアショップで新しく買ってきた夏用のシーツ。ひんやりとしていたそれは私たちの体温を吸い込んで、やさしい温度になる。
夜が更けた頃、冷えた爪先を月島の膝の裏に挟んだ。驚くほど熱く私は笑った。