【★文章】ソテ黒/人魚の鱗 人魚の肉を食べると永遠の命が手に入る。
誰が言い出したか分からないそんなお伽話を、時の権力者は真に受けたらしい。表向きは移植医療関係の研究所とされているその建物には妙な噂があった。珍しい生き物を使って、強力な薬を作っていると。しかもその薬は市場には出回らず、一部の富裕層にのみ卸されている——らしい。依頼主の男の言葉を、ソテツは頭の中で思い出していた。人魚なんて、そんな幻想に縋るまでになるなんて、憐れな人間もいるものだ。しかし、そういう人間が仕事を運んでくるのも事実だ。
繊細な手つきで建物の管理室のシリンダー錠を開錠する。最新の防犯システムを投入しているくせに、管理室まわりの設備は防犯も含めて金があまりかけられていない。そのため、ソテツの貧民街仕込みのピッキングでも侵入できた。管理室には全ての研究室のマスターキーや防犯カメラの情報が集約されている。まずは防犯カメラシステムへ侵入する。侵入、などというほどでもない。年老いたセキュリティ意識の低い管理人の残しているメモの通り、IDとパスワードを入力するだけだ。
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