翡翠を呼ぶ声はじめはなんと言われたのか分からず聴き返した。戦場で応急処置を受けたロン・ベルクが、懐の酒を更にひとくちもらうためにノヴァに声をかけたのだ。他の誰かの声と混じったのか、はたまた空耳か、自分の聴き間違いだと思いノヴァはそれ以上質すこともせず、視線を辿って彼のもとへと近づいた。
次に呼ばれたのはピラァ・オブ・バーンの黒の核晶を凍らせに往く時だった。包帯でぐるぐる巻きにされた腕を一瞥したあと、ロンは柱のある方角に首を傾げて脅威を指し示した。暗に「オレも連れていけ」と言っているのが分かって、この怪我人、どうしようかとノヴァは心底迷った。迷っていたので、不思議な言葉は直ぐに忘れた。
やっぱり変な単語で呼んでいると思ったのは、柱の足元で天辺を睨み付けている時だった。ロンを連れてどうやって柱の最上部まで飛ぶか考えている最中だった。
2636