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    2024年2月15日(昼・夜の部)帝国劇場
    (2月23日 夜の部 観劇後、修正・追記)
    ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド ミュージカル
    内容詳細レポートと感想走り書き備忘録(第一幕のみ)

    #ジョジョミュージカル

    ファントムブラッド ミュージカル 内容詳細と感想走り書き備忘録(第一幕)2024年2月15日(昼・夜の部)帝国劇場
    (2月23日 夜の部 観劇後、修正・追記)
    ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド ミュージカル
    内容詳細レポートと感想走り書き備忘録(第一幕のみ)




    先日、本当に幸運なことに昼の部、そして夜の部とジョジョミュージカルを2回連続で観劇する機会に恵まれ、夢のような時間を過ごさせてもらった。

    色々な心配と不安と…期待を持って帝国劇場に足を運んだわけだが、
    いざ舞台が始まれば、その熱量たるやすさまじく、ただただ圧倒され、涙し、
    今は心の底から感謝の念でいっぱいである。
    本当に、素晴らしい舞台だった。

    原作シリーズ、アニメ作品、そしてスピンオフ作品…
    今までジョジョが積み上げてきた歴史、そのものに対する敬意に溢れる舞台であったと、私は感じた。

    公演中止騒動で複雑な感情を抱えておられる方も多いと思う。
    ゆるされることではない、私もそう思う。
    まあお前は見られたんだからいいじゃあないかと言われればそれまでだが、
    私も観劇予定の10日の公演が飛び、これでもだいぶやさぐれ…これで中途半端なもの見せられた日には……
    なんて思っていた人間である。

    しかし、個人的には。
    あの騒動で、ジョジョのミュージカルはもういいや、そう忌避するには、あまりにももったいない。
    本当に、愛と敬意と熱量が詰め込まれた、凄まじいまでの輝きを放つ星のような作品だったということは、
    どうしても、最初に、声高らかに、伝えておきたい。






    前置きが長くなってしまうのだが、
    ここからは舞台上で何がどういう演出で進み、どう思ったかを含めてできるだけ詳細に思い出しながら、
    ありのまま起こったことを書いていくつもりである。


    無論ネタバレとなる。


    ここをやるのか!!!こう表現するのか!!!という衝撃を生舞台で是非味わって頂きたい気持ちもあり、
    それを求める方にはここから先を読み進めるのは推奨しない。

    ただ、正直、何度見ても楽しめる…何が起こるかネタバレしていたとしても存分に感動できる舞台であることは保証する。
    (まあ当然のごとく私が気づいてないことや、単純に書ききれないことが多すぎる)


    また、この文章は2月15日の昼の部、夜の部を見て帰宅した今、勢いのままに筆をとっている。
    (あまりの情報量とオタクの早口ぐあいに書ききれなくて結局数日かかっているのだが)

    食い入るように見てきたつもりだが、
    細かな演出の順番や、台詞・歌詞の言葉等、内容の正確性については、曖昧・不正確・私の主観が大いに混入しており、捕えきれなかった情報の数々もあることはご了承いただきたい。
    (23日の観劇を経て、けっこう詳細はやはり違うなと思いました。また毎回一度きりの舞台なので、その時にしかできない発見もあるなと。一応の修正と追記は行いましたが、文章化するにあたり、子細は違うかもしれないまま残してある部分も多々あります。ご了承ください)


    また、私事ではあるが、勝手にいちDIO様の信徒として、普段、人間を辞めたディオ様に対しては敬称(様)をつけることを自己のルールとして定めている。
    しかし、今作ミュージカルでは
    「人間として」のディオ・ブランドーの生涯を描いている、そう強く受け取ったため、
    この後のレビューの基本的な記載はディオ、そしてジョナサンはジョジョに統一していきたい。
    どうかご容赦ください。


    いちジョジョファンとしての公正な視線でのレビューも心掛けていきたいところだが、
    やはり根はDIO様の信者である。
    事実、劇中はどうしてもディオくんばかりを目で追ってしまうし、
    ディオくんの一挙一動に情緒は上昇下降右往左往する。
    このレビューもやはりいかんせんDIO様の信者の視点からの偏ったものになってしまう面もご愛嬌と許していただきたい。

    しかし乱文・長文になるが、もう観劇された同志の皆様の記憶の補強や、新たな発見、その一助となれば幸いだ。






    以後ネタバレ







    第一幕



    暗闇の中、歩いてくる一人の男にスポットライトが当たり、その老人の顔が舞台後方のスクリーンにも映し出される。それはまるで録画画面のようだ。

    特徴的な帽子、外套…ジョジョ好きなら あっ! とまず心に浮かぶフレーズ。
    『我々はこの老人を知っている!』


    「これ、もう映ってるの?」
    この舞台の始まりはこの老人のなんとも気の抜けた一言から幕を開ける。


    老スピードワゴンが語る、スピードワゴン財団の真の目的。石仮面の研究。 
    老スピードワゴンはこれからメキシコの遺跡へ石仮面を追って旅立つ直前であり、
    「今後この身がどうなるかわからない」から、この財団が作られるに至った物語を語り、
    この「映像」を見る信頼に足る「我々」へ、記録として残すと云うのだ。

    …ジョジョ2部を知るものにとっては2部冒頭、その先の展開が容易に脳裏を駆け抜ける。
    こう来たか、と思った。


    老スピードワゴンが語り始める石仮面の伝説。
    スピードワゴンの語りに合わせて後ろの舞台ではいつのまにか、薄暗がりの中に集うアステカの民族たちが奇妙なリズムを踏み鳴らし、生贄の儀式が始まった。

    いやいや!まさか!!!
    TVアニメシリーズでさえカットされた ドギャーーーン から始まるジョジョの奇妙な冒険ファントムブラッドがまさか!舞台で見えるとは!!!!
    族長が吠えるように唄う!「汝!わたしの生命となるか!」
    バックで歌われる古代民族調のアンサンブルの中にも、
    確かに「族長(オサ)!族長(オサ)!」の声さえ聞こえてくるのである。胸熱の一言につきる。



    老スピードワゴンの話は進む。
    1868年、雨の夜。
    回転する舞台を利用した滑らかな舞台転換で、ダリオと女が現れ、馬車の事故に遭遇する。
    TVアニメ1部1話冒頭に相当するシーンである。


    個人的な考察ではあるのだが、私は元々、原作ジョジョ1部ファントムブラッドはミュージカル「レ・ミゼラブル」の影響を受けているのではないかと思っている。
    そのため、レミゼのような回転舞台を用いたミュージカルで…ダリオ・ブランドーが金品を漁り、金歯を抜こうとするシーンはしみじみと…感慨深いものがあった。

    しかしこのダリオ…下卑た声、しぐさ、ジョースター卿が生きていたとわかって狼狽する小物っぷりから、一転、堂々と媚を売って名乗る所作…完璧である。

    メインビジュアルを見た時から思っていたが、劇中、原作よりもかなり出番が増えているのにもかかわらず、原作から抜け出てきたようという言葉は彼のためにあるのでは?と思うほどの怪演であった。
    (あまりの完成度に、憎々しいにもほどがあるにも関わらず、ミュージカルを見て個人的にダリオの株があがってしまった)



    語り部の老スピードワゴンが舞台に戻り、物語は、1880年を迎える。
    19世紀!嵐のようなすさまじい渇きを抱えた民衆たちのアンサンブルでその時代背景が歌われる。

    原作漫画で差し込まれる時代背景コマから着想を得たと思われる民衆のアンサンブルは劇中に何度か登場するのだが、ここも私はレミゼミュージカルを彷彿とし感慨に浸っていた。
    …と、今まで語りに徹していた老スピードワゴンが舞台中央に進み、民衆の中に紛れ…
    ふいにべりっと老人の顔をはがすと、そこには1880年に生きる「スピードワゴン」の姿が!!

    そしてこのおせっかい焼きのスピードワゴンが、変わらず時代背景の説明をしてくれるのだが…(ついでに自己紹介も)
    歌ではなく、ラップで、説明してくれるのである。さすが解説王。


    ミュージカルというものは踊り歌う演劇であるという認識であったが、ラップまで柔軟に取り入れてくるとは予想外であった。びっくりした。
    しかし瞬時に思い出す。幻のジョジョファントム劇場版の主題歌、Voodoo Kingdomはどうだったか。ジョジョは、ファントムブラッドにはもうすでに、その音楽に縁故があるのである。胸熱だ。


    そしてスピードワゴンのラップと民衆のアンサンブルで語られる時代のうねりの音楽(おそらくメインテーマに近いメロディ。)がとてもいい。耳に残り、盛り上がる。正直はやくCDが欲しい。
    本当に曲が良い…。
    美しいアンサンブルとスピードワゴンのラップで堂々と歌詞中にはファントムブラッドの、物語そのもののテーマも歌われていて、3度目の観劇のときはもうここのアンサンブルの盛り上がりで泣いてしまいそうだった。



    民衆たちの熱狂のあと貧民街に舞台はうつる。
    コソ泥をおいかけリンチする掃き溜めの街の様子。

    そのなかに、光が差し込むかのように登場するのが、本を手にした少年ディオ・ブランドーである。
    (白シャツにサスペンダーと紫のズボン姿の見慣れたまさにディオくんの格好だ。さすがに無重力の本持ちはしていなかった)

    掃き溜めの街を侮蔑し通り過ぎるディオに、ごろつきどもの嘲笑。
    「おまえのゲロ臭い親父は元気かよ?」
    「酒場がブッ潰れてから見てねえなァ~おっ死んだかァ?」
    「おめーのマンマはよォ!上玉だったよなァ~」
    「死ぬ前に売り飛ばしとけばよかったのによォ~」

    おお…まさに謎に悪意溢れるジョジョのモブである。
    DIO様の信者としては(TVアニメオリジナルの賭けチェスのシーンほどではないものの)胸が痛む。

    母の侮辱には多少感情的な様子を見せつつも、家に帰ったディオは病床のダリオより自分が死んだらこの手紙を出して「ジョースター家」へ行けと告げられる。
    お前は賢い、だれにも負けない一番の金持ちになれ、と。

    「見ろディオ!ちゃあんと切手だって貼ってあらあ!」
    とたった切手を貼ってある手紙を渡すだけで誇らしげなダリオと
    「今更、父親面するのか!」
    憎々し気に声を張り上げる痛々しいディオの会話。
    原作にはないやりとりだが、最期の最後でダリオが息子のディオを(それが良い意味だけではないのかもしれないが)気にかけていたのだとわかる情景に複雑な心境になる。


    手紙を握りしめたディオは歩き出す。
    とうとうとディオの口からうたわれるのはなにもこの手にないという悔しさ。
    掃き溜めに産まれた己。そんな中でそれでも気高く、星を見上げて生きろといった母は病で死んだ。
    醜く最低で、最後まで負け犬だった父。「もたざる者」として奪われて生きてきた自身の無力さ。
    (ここの語り口から、ミュージカル版のディオの母像として、私は1巡後の7部、ディエゴ・ブランドーの母親の姿が脳裏によぎった)

    手紙に向かってディオは歌う。
    「なあ、ジョースター、お前はもっているんだろう?」
    「その青空に、太陽を」(もしかしたら歌詞は違うかもしれない)


    これを聞かされた私の情緒は粉砕である。粉微塵である。
    すでに開始何分かだがわからないが、嗚咽をこらえるのに必死になってしまった。

    荒木先生の良いところ、私の好きな作風のひとつであるが、悪役は悲嘆を語らない。
    特に原作のディオ・ブランドーは完成されたキャラクターである。登場から一貫して善悪の彼岸を超え、不遇な境遇を憎みはすれ嘆きはしない。

    それ故に、ここでディオの口から自らの生い立ちへの嘆き、「持たざる者」としての苦しみ、「持つ者」ジョースターへの羨望にすら似た憎しみと野心の心が曲に乗せて語られたことで、私は心で理解した。
    これは原作とは違う、「人間」として嘆き、怒り、悲しみ、星を目指してあがくディオ・ブランドーの物語なのだと。



    場面は変わり、ピンクのかわいらしいドレスに身を包む少女エリナ・ペンドルトンが登場する。

    人形のあそこを確認するのはさすがに下品すぎるからか、舞台で取り上げられるのはエリナの帽子であった。正直ホッとした。
    さらりと「それはお母さまが誕生日に買ってくれたものなの!」とエリナの口から大事なものであるという情報を追加して、母親の不在と絡めて想像力を刺激するあたり、脚本家は相当なやり手だ。

    そしてここで、猛然と駆けてくるのが、我らがジョナサン・ジョースター、その人である。
    まあ、ボコボコにノされてしまうのだが。

    しかしそれにしても、実に動きの細かいところまで原作から拾っている。
    ジョナサンがタックルしボディブローを打ち付けるも相手にダメージなし、上から合わせこぶしでダウンされ、ハンカチをわざと見せつけるように取り出してさらにボコボコにされるまでの流れが、
    美しいまでに原作を想起させる動きであった。

    ただやはり客席からハンカチに名前の刺繍がある判別は難しいので、原作を読んでいてなお楽しめる作りになっていることは明記しておく。


    援軍にダニーが駆けてきてくれて、モブ少年たちは去っていく。
    そう、このミュージカルにはダニーもいるのだ!
    黒子がダニー人形を操作し、鳴き声は効果音として入るのだが、ダニーが出てきたときに会場(かく言う私も)に「!!!!」という驚きと喜びの衝撃のざわめきが起きたほどであった。
    (ごめんなさいごめんなさいあまりにも綺麗にお犬の鳴き声だったので効果音で鳴き声入れてると思ってたら、演者の方がちゃんと演じておられるんですね………すごい………)



    ジョースター邸前、馬車からディオ少年が降りてくる。
    そう、無造作に鞄を放り、シャン!スタッ!グゥゥン バァーン!と。
    …いや全く素晴らしかった。効果音は特につけられてないのだが、聞こえてくるようだった。
    (3度目の観劇で気づいたけれど、きちんとシャラン!みたいな効果音もついてました!すみません!!あまりに完璧な所作に見とれていて幻聴かと思っていたようです)

    実際の動きとして全く不自然さがなく流れるように、それでもああこれは、あの...!そう思う洗練された降車の動きだった。


    「君…君はディオ・ブランドーだね?」
    「そういう君は…ジョナサン・ジョースター」
    運命の、はじまりの2人の邂逅。それは特別でも何でもない、ごくありふれたやり取りにみえる。


    そして走り寄ってくるダニーと、ボギャァアア
    ちなみにジョジョの台詞は 何をする「ん」だァ!!! だった。


    登場したジョースター卿の前でのディオの猫かぶりといったら!豹変具合は面白いほどだ。
    ディオ役の宮野さんの声の使い分けが凄い。ちょっと気弱そうな柔らかな声を猫かぶっているときに、
    本性出しているときは少しドスがきき、声にピリッと芯が入る。

    ジョースター卿と、よくジョースター邸に来るという卿の旧知の警部(もちろん過去にダリオを捕まえた、あの…)に対して
    「警察…!?なにか事件でも?」警戒しながらも猫かぶりの柔らかい声色で聞くディオくんがかわいい。
    少し警部の方も警戒したような眼を向けるものの、ディオに握手を求め、それに答えるディオと警部の間に緊張感があるのが客席にも伝わるのが凄い。

    警部はふと思い出したかのようにジョジョに尋ねる、先ほどダニーの鳴き声がしたが何かあったのか?と。
    ナイスアシスト!
    ジョジョが答えようと息をのむが
    間髪入れずに「急に犬が飛び出してきたので…驚いてしまって」
    ぴえん、の顔文字を幻視しそうなくらいのまるで気弱で殊勝な少年ディオが弁明する。

    ディオの表の好青年ぶりにすっかり盲目なジョースター卿。
    「ダニーは我が家の優秀な番犬だ。人懐っこいところがあるのだが驚かせてしまったらすまない」
    「ジョジョ…ダニーのことはもういいね?」と圧をかけられ言葉を飲み込むジョジョ。


    しかし気を取り直し、ジョジョがディオの鞄を運ぼうとすればディオの態度は一変する。
    私は「君の手は犬のヨダレでベトベトだァ~」のねっとりした嫌味な言い方が好きだ。
    ジョジョのみぞおちを肘打ち、うずくまったジョジョに対して、1番が好きなこと…犬が嫌いなこと…憎たらしく宣言して颯爽と去っていくディオ。

    ジョジョの試練の日々のはじまりである。




    ジョースター卿がうたうアップテンポの曲にのせられて「本当の紳士を目指すため」と2人へ教育を施す様子のダイジェスト。

    すらすらとあっという間に積みあがった問題を回答し、優雅に足を組むディオと
    考え込んでしまった様子で勉強は進まず、同じミスを6度もしたぞ!とジョースター卿に叱られるジョジョ
    「本が読むのが好きだったので、このくらいは。」
    「まだ学校でも習ってないところなのに!」

    嫌味なほどわざとらしいくらい優雅な所作で食事するディオと
    ガツガツと食事してやはり叱られるジョジョ
    「母が仕込んでくれました。いつでも姿勢を正せと」
    ちょっとした情報の差し込みやディオとジョジョの対比がうれしく、机を使った流れるような舞台展開が美しい演出だ。
    ジョジョはナプキンも自分でつけれず、みかねたメイドにつけてもらっているが
    ディオは優雅に食事を終えたあと、食卓の花瓶から花を一輪手に取り、メイドに渡し、キャーキャー言われている。
    そんな細やかな描写も非常に面白かった。


    そしてジョースター卿の歌はさらに進む
    本当の紳士になるために哲学も学ばなけれなならないと。
    (途中、「本当の紳士」こそ「ジョースター家の守り神、慈愛の女神」に愛されるという歌詞の一節、実際にジョースター邸の舞台セットの一部として慈愛の女神像が出現しており、感心させられる)

    ジョースター卿が歌に乗せて語り問うは、ある2人の騎士の物語。
    忠誠を誓った主君の命の代わりに自らの命を差し出せと命じられた2人の誇り高き騎士。

    …原作を知るものなら「ここで!!??」とまず驚くがまだ早い。

    ジョースター卿の問いはこう続く。
    処刑されるために牢に囚われた2人の騎士、彼らは牢の鉄格子から何を見ていたと思うかね?
    それは泥か。星か。…と。


    まさかの不滅の詩である。
    ジョジョ原作コミック1巻冒頭の引用詩であり、そして6部ではるかな子孫、空条徐倫が口にする言葉である。
    観劇中もう頭のなかは騒然だ。

    ディオは即座に答える。「泥を見ていたと思います」
    彼らは結局何も成せず、何もつかめず死ぬ。その絶望を見ているのだ、と。

    ジョジョは迷うように考えたあとに答える。「僕は、星を見ていたんだと思いたい」
    彼らは騎士の誇りを全うした。その手にたとえなにもなくともその姿は、歴史に、人の心に残るのだ、と。


    原作シリーズ読む方には心に響く問答であるはずだ。
    これは、ジョジョシリーズでまさに、ジョジョたちとそして敵側として相対する歴代ラスボスの価値観、思想、死生観、に関わる問答だ。

    ディオとジョジョの白熱した討論は続く。
    ディオのできる限りの策を弄して、生きる自分が掴むものに価値を見出す姿勢
    ジョジョのたとえ自分が死したあとも後の人に誇りと輝きを残し、それが受け継がれていくという信念
    相容れない2つの思想は、彼らの生き方そのものでさえある。

    個人的にはディオの
    「それで?」
    「それで何が残るっていうんだ」
    「ジョジョ、君は貴族だろう。『持つ者』だ、何かを奪って生きてる。それならば自分が生きて何を手にして何を成すかに責任があるのではないのか」
    容赦なく、それでもジョジョを「持つ者」と明言する台詞にはハッとさせられる。
    同時に、ジョースター家に引き取られてなお、ディオは自身を「持たざる者」だと思っているのかと思い至り、胸がきしんだ。


    白熱した討論はジョースター卿の仲裁によって終わる。
    「この問題に正解はない」
    その言葉に、心底、救われた気持ちになったのはもちろん言うまでもない。泣きそうになる。

    ジョースター卿の歌は、
    「我々は運命という名の檻に囚われた囚人であり」
    「泥を見るか」「星を見るか」
    「どちらも正義といえよう」
    と続く……。
    ジョジョ5部の「運命の奴隷」の言葉を連想したのはきっと私だけではないはずだ。



    場面は身体を鍛えるジョジョを背景にスポーツ!!19世紀のスポーツ!!へ熱狂する草原のボクシング場へと変わる。
    現チャンピオンを倒し、新たなチャンピオンになったジョジョを陰から見るディオ。
    (このときの立ち方1つでさえ原作で木にもたれてこちらを見るディオくんのコマを連想させる所作はお見事としか言いようがなかった。)

    いうまでもなくチャンピオンに輝いたジョジョに新たに挑戦する挑戦者は、ディオである。

    このままッ!親指を!こいつの!目の中に……つっこんで!殴りぬけるッ!
    …と台詞はなかったものの、音楽に合わせて打ち合う2人の動きの中で
    わざわざ親指をたてたように握りしめたディオが、殴る瞬間に一瞬止まり殴りぬけたことがダイナミックな動きで表現されていた。

    新たなチャンピオンとその見たこともない足さばきの動きに歓声が上がり、あっという間に勝者ディオの周りには人が集まる。
    一方で目をおさえて苦痛の呻きをあげて倒れるジョジョ。

    そんなジョジョに対してディオはわざとらしい猫かぶりの優しそうな声色で周囲に言うのだ。
    「待ってくれ。殴るときに僕の親指が彼の目の中に入ってしまったようだ...。僕の反則負けだ。」
    「皆の興を削いでしまってすまない…僕はもう行くよ」
    なんて殊勝な少年なのか!!!!!
    当然のように周囲の人間たちはディオをかばいたてるように引き止め、ディオを擁護し皆はディオとともに去って行ってしまう。


    今作ミュージカルでは、原作のディオ像とはまた一味違ったディオが描かれていることは先にも書いたのだが
    原作のようにあからさまな仲間外れを教唆するのではなく、
    スッと人の心に忍び込むような…これはこれでとても恐ろしく、ディオの人心掌握として説得力があり良いものだと感じた。
    前のジョースター邸のシーンでさりげなく花を使用人に渡してたらしこんでいるようなシーンとも相まって、
    ディオの「天性の人たらし」の才能を目の前で見せつけられているような感動がある。



    残されたのは可哀そうなジョジョである。
    ジョジョは苦悩する。
    ディオは何故か自分を貶めるようなことばかりする、まるで侵略されているような気分だ、と。
    唯一の友人ダニーへ自分への孤独の心を吐露するように歌いかける。
    今僕が死んだら皆は泣いてくれるのかな、と。

    特に「ダニー、お前はあったかいね」「母さんがいたら、こうやって愛してくれたのかな」
    のフレーズは、ジョジョにとってのダニーの存在の大きさと…ダニーのこの後を知っているこの身には沁み渡る悲しさがある。

    そこに、舞台端から現れたエリナがフルーツのバスケットとハンカチをそっと置いて去っていく。
    ダニーの鳴き声でエリナに気づいたジョジョ。
    退場したエリナに向かって叫ぶ。
    「僕は明日もここにいるから君もおいでよォーーーー!」
    (ここのジョジョの元気いっぱいの声が微笑ましくてにこにこする)


    もう一方の舞台端からは石仮面をしげしげと眺めるディオがあらわれる。
    ジョースター卿に石仮面についての話を聞くが、購入後に事故にあい…君のお父さんに助けられたときだよ、と言われると少し固まった様子を見せる。
    ジョースター卿に「(石仮面に)興味あるのかい?」と尋ねられるも、ダリオの話に触れたからか、「いいえ、全然」と突っぱねるディオ。

    話題をかえてジョジョとダニーのことを卿に尋ねる。
    ジョースター卿の話に合わせて二人の背後ではジョジョとダニーの仲睦まじい現在と、ダニーがジョジョを川から助けた過去が交錯するように演じられる。
    ディオがジョジョとダニーの絆を知ってしまうこと。この後のダニーの悲劇の布石となるシーンである。



    「恋!そのすてきな好奇心がジョジョを行動させた!」
    スピードワゴンの語りを介して、ジョジョと再会したエリナの初々しい恋模様が舞台上に展開される。
    エリナがダニーへりんごを食べさせている間に木に二人の名前を彫るジョジョ。
    (原作ではブドウだったがりんごになっていた!)
    (芯をより分けて食べるダニーに対して感心するエリナの台詞…かなり細かな原作エピソードが拾われていて私は驚嘆した。今更だが、このミュージカルの制作陣はよほどジョジョシリーズを読み込んでいるに違いないッ!)


    歌に乗せて語られる2人の淡く美しい恋の様子は甘く微笑ましく・・・
    名を呼びあい、だが手は触れあう寸前に照れた2人はぱっと離れてしまう。
    なんて初々しいことか!!
    この2人のうぶな…そして純真な様子が…
    この次のディオの行動がもたらす影響の…亀裂の大きさを裏付けているかのようだ。

    また明日ね!と言い合って別れる2人。
    (ここのジョジョの声も元気いっぱい、そして緊張で上擦っちゃったりしてて本当に微笑ましい)
    しかし…ああ…その明日っていったい…いつの明日なんだ…とため息が出てしまいそうである。



    当然のようにそのエリナの帰りに出現するディオ。
    なんと取り巻きは2人どころではない。6人に増えているッ!

    ズキュゥウウン!!!!
    TVアニメがリスペクトされているように響く弦楽器の激しい効果音と
    6人の取り巻きの声を揃えた「そこに痺れる憧れるゥ!」

    ディオ役の宮野さんの妙だと思うのだが、
    細やかな所作や立ち姿などは原作コマを思わせる演技であるにも関わらず、
    原作、そして原作に準拠して作られたアニメとはまた少し違った言葉、そしてアニメ作品とは全く異なる声のトーンの選択・使い分けによって新しい息吹をディオに吹き込んでくれているのは本当に新鮮だった。

    きっと新たなディオ像としての相当の試行錯誤があったに違いない…ディオくんの新しい可能性を発掘してくれて本当にありがとうとしか言葉がない。


    ここのシーンでもそれは顕在で
    「君、もうジョジョとキスはしたのかい?」の甘やかにさえ聞こえる、囁き声からの
    「まだだよなァ」のドスがきいた低音が、ぞくぞくするほどの邪悪さがにじみ出ていて、めちゃくちゃ興奮した。
    (ここの台詞、23日夜の部観劇の時は、「初めての相手はジョジョではない、このディオだ」まで、甘く優しい声色で、まるで言い聞かせるように囁いていたので、日によって違いがあるかもしれない!毎回の楽しみが増える)


    「レディならこの意味がわかるよなァ~!???」としきりにはやし立てる取り巻きどもに対して、うつむきながらもその場で、口を注ぐエリナと
    「あえて泥水ですすぐのか!!」カッとなってエリナに手をあげるディオ。

    しかし、自らが手をあげたことで倒れ伏すエリナを見て、胸に去来する忌まわしい記憶にディオは狼狽する。



    場面はダリオの呼び声、そして怒号とともに一転、ディオの過去へと向かう。
    病床に臥す母に手を挙げる父親ダリオにすがり母を庇うディオ。
    母を殴っていたダリオは急に気弱な様子になって謝るも、母からディオ引きはがすと、薬を…と追いすがるディオにお前が酒買って来い!と殴るのだ。

    (余談になるかもしれないが、暴力をふるったあと、ふと我に返ったように
    「わ、わるかったよォ~ツキに見放されちまって…俺はダメな男さ…」と急に手のひらを返した気弱な様子で謝り、
    「このままだとおまえにも働いてもらわなきゃならねえ…だから早く病気をなおしておくれよォ…」と優しい声色で妻に宣うクズ全開のダリオは、
    もうアル中DVクズ男とはかくやという様子で…表裏の態度がここでリアルに描写されており、良い意味でうわあ…(ドン引き)となった。)

    今作ミュージカルでは、このようにダリオが親の呪いの象徴としてたびたびディオの前に現れることとなる。
    (一緒に観劇していた友人が「汚い勇作(ゴールデンカムイ)」と言っていて、言いえて妙と大爆笑してしまった)

    親の誇りを受け継ぐジョースター家との対比として、光と闇、表と裏、としてわかりやすい。
    人間の成長としてのジョジョ、過去の呪いとの決別としてのディオ、
    舞台の上で色鮮やかに2人ともの人生が掘り下げられていたのは印象深く、だからこそこの2人の運命が重なる凄みに説得力がある。

    俺はお前(ダリオ)とは違う、と苦悩しつつ舞台からよろよろと去っていくディオ。



    舞台はシームレスに怒りに震えるジョジョへと移る。
    憤怒で燃えるジョジョの口から歌われる、ディオ、君はすごい奴だ、尊敬さえするよ!だが!負けられない!の言葉には
    ディオの能力を評価しつつ、勝てない相手だからといって立ち向かわなければならない、負けられない戦いへ挑む本当の紳士の片鱗がすでに見てとれる。

    「人の名を!ずいぶん気安く呼んでくれるじゃあないか!」
    (ここも歌の一部だったッ!そしてここからの原作台詞もほぼ歌に乗せられていて、ちょっとおもしろかった)
    と舞台奥の高台から不遜な態度で現れたディオ。

    必ずエリナの名誉を取り戻す、絶対に負けられない覚悟を燃やし拳を握るジョジョと
    父親とは違う、感情をコントロールしろ…コイツを正々堂々わからせてやると拳を握るディオ。
    2人の思惑が歌声とともに交錯する。
    曲の盛り上がりも加わり熱い場面だ。

    (また、たびたびの細やかなことになるが、「こいッ!」のときのディオくんの闘いの構え方(前に突き出す拳に2本指を立てている)が原作通りだったので感動した。)
    拳の打ち合いで、ディオの顔の肘鉄ぐりぐりはなかったのだが、親指をこのまま目に突っ込みパンチは草原のボクシングよりさらにぐりぐりと非道に行っているのが客席の遠目にも伝わる。

    ディオの「いいぞォ!新たな力が湧いてくる いい感触だ!」
    や、おなじみジョジョの「君が…君がッ 泣くまで! 殴るのをやめないッ!」
    からの「こんなカスみたいなやつに…」~「この汚らしい阿呆がァーーーッ!」
    までも歌詞として曲の中に取り込まれており、
    何度も読んだ有名な場面にもかかわらずかなり新鮮で、初めて見聞するような心持ちだった。

    聞きなれた台詞が音に乗っていると、初見時は確かに違和感…みたいなものも感じなくはなかったのだが、なによりも音楽がよく、これはこれでとてもよいものだ。


    客席に向けた背後でディオはナイフを取り出してとびかかろうとした瞬間。
    ディオの飛び散った血で作動した石仮面が床に転げ落ち、驚いた2人の動きが止まった。

    そこにジョースター卿がかけつけ、この喧嘩は幕を閉じる。
    (ジョースター卿が現れた瞬間の、ディオの姿勢を正しつつ、ナイフを手中に隠す早業といったら!!)
    ジョジョに唾を吐きそうな一瞥を残し走り去るディオ。

    ディオに手痛い反撃を与えたジョジョだが、その場で崩れるように叫ぶ。
    「ディオ!おまえのくだらないキスは予想以上の効果をあげたぞッ!」



    雨の中。

    舞台袖からうつむいて歩くエリナと、合わせる顔がなく声をかけられずに走り去ってしまうジョジョ。
    反対側の舞台袖から現れたエリナの父親がエリナに傘を傾ける。
    父娘の会話から、エリナはこれから父の仕事でインドへ飛んでしまうことがわかる。

    「私の都合ですまないね」
    「エリナ…友達に別れは「大丈夫よ。お父様…向こうでも新しい友達を作るから…」
    何かを振り切るように食い気味に答えたエリナはジョジョに別れも告げられず去っていく。
    ジョジョも彼女を追うことはできない。
    若い2人の苦しい別れだ。


    ジョジョは決意する。「もっと、もっと強くならねば...!」

    そしてディオもジョジョに対する考えを改める。
    ジョジョの爆発力を認め、「自分の心を冷静にコントロールしなければ…」と。
    しかしそういったそばから屈辱を思い出し震えるディオは、舞台中央に立ち止まり…
    「......だが!!!」
    意味深な態度を見せて舞台を去る。
    (個人的には『反省しなければ!』がなかったので少し寂しい気持ちになった…好きなセリフなので…)


    ガンガンガン!!!

    何かが金属に打ち付けられる音が場に響く。
    中央にもくもくと煙を出して出現したのは焼却炉。

    「中に誰かいるのか!!!!」使用人が開けようとするも熱さでかなわず。
    焼却炉の上部からダニーが(ワイヤーに吊るされて)空中にあらわれ、激しく火花を出して一気に燃え上がる!!
    実際に炎を使ってダニーの人形が一瞬で燃え上がり、花火がはじける、なかなかに衝撃的な光景だった。

    「ダニ―――――ッ!」
    「誰か―――――ッ!」「誰かきてくれ―――――――ッッッ!!!」
    使用人の叫びとともに舞台には沈痛な暗転が満ちる。

    舞台奥、遠くの高台でダニーの死を知り、呆然と膝をつくジョジョと・・・・
    そしてその背後にそっと歩み寄り、いたわるようにジョジョの肩に手をのせるディオのシルエットを残して。



    時は進む。
    1888年!


    場面転換のおり、ツェペリ男爵が石仮面を求めて、ロンドンの骨董店を訪れているシーンが差し込まれる。
    石仮面の所在に関わる情報を聞き出し妙にハイテンションなツェペリさんとそれをいぶかしむ店主のちょっとした一幕は、衝撃的な悲劇のあとでほっと一息つける幕間だ。

    店主は相手が男爵と知ったことで、警戒をとき、忠告をする。
    「もう暗くなる…あそこの通りから奥はいかないほうが良いですぜ」

    忠告を受け、あたりを見回したツェペリさんがポツリと呟く。
    「霧がでてきたな…」



    ロンドン!!
    再びスピードワゴンのラップと民衆のアンサンブルで貧富の差広がる時代の流れ、切り裂きジャックを含む恐怖の台頭が力強く歌われる。
    ここで、一足先に切り裂きジャックやワンチェンの姿も、民衆の中に混じって見ることができる。
    のちの出番で度肝を抜かれたのだが、ワンチェン役の方の身体能力が凄い。
    このときは(ワイヤーなしで!)頭を下、つまり逆さま状態で梯子に張り付いていて驚愕した。

    民衆の中に溶け込むように悪の種は去っていき、
    アンサンブルの何人かは、舞台に残りそのままラグビーの観客になっている!
    ヒューハドソン校、ラグビー決勝の試合であるッ!

    音楽に乗って重機関車のようにひとり、ふたり、はねのけて進むジョジョ、
    そしてどこに隠れていたのか!背後にいたディオにパスが通り…ジョジョにパス!そしてまたディオへ!
    ダンスと音楽で語られる試合模様に混じって、周囲がジョジョとディオに対して
    「阿吽の呼吸」や「最高のパートナー」等と評価している言葉も曲に乗って飛び交う。


    「ジョジョ!君のパスを無駄にはしないッ」
    ディオのトライが決まり、優勝して抱き合うジョジョとディオ。

    「さあ、お父さんにこの勝利を報告しよう!」
    学園の新聞に2人の友情について取材を受けにこやかに対応するディオを横目に、ひとりになったジョジョは独白の歌を唄いはじめる。

    「きみがぼくの父を『お父さん』と呼び始めてどれくらいたっただろう」
    「君はいつも僕の前を行き、紳士として僕の襟を正す存在だった」
    「君は…エリナにしたことを悔いていた」
    「ダニーに代わり、僕のそばで支えてくれた」
    「…なのになぜだろう、僕は君に対して友情を感じていない」
    と、友情を感じない自分を責めるように…。
    言葉や歌詞は正確ではないが、大体の内容はこのようなものだ。

    ああ、まさかダニーの死さえ利用し、ダニーの穴を埋めるように友情を築きジョジョを懐柔しようとしていたとは…!ディオ・ブランドー!なんて恐ろしい子!
    ディオという少年の、男の、狡猾さに対して背骨に冷たい恐怖が走る瞬間だ。

    残念ながら、ディオの「きれいごとを並べてニコニコするなよな!クズどもがッ!」の心中独白のターンはない。
    …のだが、ジョジョの独白歌中のディオは、ジョジョから離れた舞台奥で学生に取材を受けた後、
    一人になって退場する際、今までの腰が低い好青年の様子からふっと顔を上げ、尊大で傲慢な態度に空気がかわる瞬間があり、
    7年経ってなお、ディオという男の二面性が変わってないことを実感として、立ち振る舞いだけで魅せてくれたのには頭が下がる。



    ジョースター邸。

    床に臥せ咳き込むジョースター卿と警部が話している。
    警部が大学でのジョジョとディオの成績や、ラグビーの優勝について触れ(原作でディオ君にひどい友人と言われた犯人がミュージカルでは判明した!)、ジョースター卿に称賛の言葉を投げかける。
    「きみ、もうディオは正式にジョースター家の一員だよ」
    笑いながらやんわりと警部のディオ・「ブランドー」の言葉を訂正するジョースター卿。
    警部は感極まったように、言葉を紡ぎ、
    「ジョースター卿、私はあなたを尊敬します。あのとき…」
    なにかを言いかけたところで、ディオとジョジョが帰って来るのだった。


    ジョースター卿の身体の具合の話から入院の話へ。
    一瞬の逡巡もなく間髪入れず、すらすらと入院に反対するディオ。
    少しばかり反対意見が早口な気がするのは…
    入院を断ったと話す卿の言葉に安堵の肩を落として見せた気がするのは…
    私の気のせいなだけではないはずだ。

    そしてラグビー優勝を祝うジョースター卿に、
    真っ先に喜ぶ顔が見たくてすっ飛んで帰ってきたのに~!とゴネるディオ(なんつう猫なで声だッ!かわいい!!)と笑いあうジョジョ。
    ジョースター卿の、卒業したらなりたいものになるがいい、援助は惜しまない、
    の言葉に感動したように感謝を伝えるディオは本当に好青年で、
    それは、暖かい父と息子たちのひとときに、見える。

    警部はどこか気まずそうに切り裂きジャックの脅威もあるし、街へ戻ると去っていく。
    「ここはリバープールですよ?」そう茶化すように答えるディオに対し
    「いやいや…どこにでも善悪のタガがない邪悪ってのは…いるものなんです」と意味深な言葉を告げて。



    ジョースター邸内。

    セットの一角、書斎らしき場所で石仮面を研究するジョジョ。
    石仮面の謎で考古学会にセンセーショナルを起こせないか、そしたら母が購入したことにも意味がある、とひとりつぶやいている。
    (このミュージカルのテーマの1つとしてどんな物事、悲劇すらも未来へと繋がっていて意味があるのだ、というものがある。こういう何気ないシーンでもそのテーマを繰り返し意識させてくるのがにくい演出だ)

    そして、本棚上にある資料を取ろうとした拍子に落ちた、ダリオ・ブランドーからの手紙を読み進めると…
    そこには今、ジョースター卿の症状と同じものが…
    (指の震えと胸の痛みは、先のシーンでジョースター卿が自身で「じきに良くなる」と語っており、
    咳が酷いという症状を読む際には、ジョジョの背景としてそれまで無音で演じられていたジョースター卿の看病する様子から不気味に響く咳の音…)


    一方、足の悪い家令から、「いつも悪いですねェ」と薬の盆を受け取るディオ。
    「いいや薬を運ぶくらい、大したことないですよ」と好青年の顔で引き受け歩き出す…

    その背後から闇が這い寄るように彼を呼ぶ声がある。
    「ディオ…ディオ…聞こえねえのか…ディオ。お前を呼ぶ声が……」
    さっきまでジョースター卿がいたベッドと同じ場所から…まるで棺桶から出てくるかのようにムクリとダリオが起き上がり、ディオの名を唄う。
    (ダリオのディオを呼ぶ声として響く歌声がまさに地の底から響くような良いバリトンボイスで、地獄からの呼び声とはこのようなものなのかと思ってしまった)

    対して、母が死に、あのときまでは奪われ続けるだけだった、と唄うディオ。
    唯一の母の形見のドレスを投げつけられ、酒のため売れと言われた時の回想だ。
    奪われ続け、踏みにじられ続けた口惜しさと憎しみ。
    己の身に流れる呪われた血への嫌悪。
    (ディオが、母は父に「奪われ続け」「殺された」と唄っていたのが印象的だった…帰って原作を確認したら、やっぱり原作では「母に苦労をかけ そのために母は死んだ」だったので、やはりミュージカル版ディオの母への敬意の念と父への憎悪は強いのだろうと解釈する)

    そしてディオは、ワンチェンから薬を買って…(ちなみに3蓮ほくろの件はさすがにスルーである)
    父(ダリオ)の墓に忌まわしい過去を葬り去り…
    場面は1888年のジョースター邸の中に戻る。
    連続的につながる過去から、手にした薬をディオは階段をのぼりながら盆の上の薬とすり替えるのだ。


    「ディオ…今、その薬、どうした?」
    ジョジョがいつのまにか舞台袖に現れ…それを見ていた。

    「7年前の手紙?なんだいそれ?僕にも見せてくれよ」
    好青年の顔をかぶり、すっとぼけるディオだが、7年前の手紙を手にしたジョジョの追求は止まらない。
    「きみが…いつも薬を上階へ運んでいたのか?!」
    「その薬!調べさせてもらう!!!」
    ジョジョが薬を手にした瞬間、ディオは持っていた盆を放り出し、ジョジョの手を掴む。
    盆が落ちて転がる音が緊張感の中にやけに大きく響いたのを覚えている。


    ディオの友情を失うぞ!に対する、ジョジョのきみの父、ブランドー氏の名誉に誓ってくれ!の言葉。
    誓いか…と歯ぎしりし逡巡するディオと、追い詰めるように誓いをせかすジョジョ。

    元々、ここの誓いを要求するシーンが、原作でもジョジョが7年間でディオのことをよく見ていた、ディオは7年経っても少しも変わらぬ憎悪を燃やし続けていた、証左のシーンとして私は好きだ。
    更に、ミュージカル版として、ディオの過去の補完と並々ならぬ呪いのようなダリオへの憎悪を垣間見ている今、この誓いという制約がどれほどディオにクリティカルヒットしたのかが手に取るようにわかる…。
    それがとてもDIO様の信者としては苦しく、しかしその後のディオの拒絶に誰もが納得する描写になっていたのが、ディオ・ブランドーという男をちょっぴりだけでも理解できたような気がして、嬉しくもあった。

    「あんなクズに名誉などあるものかァーーーッ!!」
    悲痛で、ディオにしたら譲れない叫び…しかし当然、ディオはジョナサンに階段下へ突き飛ばされることになる。


    「たしかに、僕は父がきらいだった」
    「それ以上に疑われて悲しかったんだ」
    「それに証拠…証拠だってないだろう?!」
    階下で悲し気な声で必死に弁明するディオだが、ジョースター家を守る決意を固めたジョジョには届かない。

    「僕らには最初から友情などなかった!」
    「もう、君を父には近づけないッ!」
    ジョジョは決意を胸に去っていく。

    階下にひとり取り残されるディオ。
    先ほどまで情けないほど悲しげな声でジョジョに身の潔白を訴えていたのだが、
    家令に大丈夫ですか!?と尋ねられて答える声は、これまた地を這うように低い。(声の緩急にぞわりとする。)

    もう引くことはできない…そう呟きながら去るディオ。
    (そしてまたダリオの影も見守るように後ろに立ち…)
    そのディオの背には暗い決意が宿っているようだった。



    大声で猛然とジョースター卿の寝室に飛び込み、医者たちの完全看護を宣言するジョジョと
    息子を信じる、と全権を任すジョースター卿。
    ジョジョは薬の解毒剤を手にするため、食屍鬼街へ向かうのだ。



    一方のディオは、ジョースター邸、ジョジョの書斎で石仮面を使ったジョジョの暗殺計画を立てる。
    このときの「おまえの研究でおまえ自身が死ぬのだ」と狂ったような笑い声を上げる様子は、ディオの底知れない悪意と狂気が感じられてとても良かった。



    雪吹きすさぶ食屍鬼街。

    迫るタイムリミットの中、誇り高い決意を胸に食屍鬼街に降り立つジョジョ。

    そこにはボロボロの衣を身に纏う魑魅魍魎のごとき住人たちがすべてのものを喰らい尽くそうと蠢いている。
    食屍鬼街の音楽も、獰猛で力強い、これまた耳に残るナンバーだ。早くCDが欲しい。
    ジョジョの手や指を失っても良い、という強い覚悟の凛とした歌声と、飢えた住人たちの混沌とした蠢動するコーラスの対比がまた美しい。

    もちろん、ジョジョの身ぐるみはごうとする指揮をとるのは、スピードワゴン!!
    (ちなみにスピードワゴンの両脇を固めるモブのなかには、きちんと顔に入れ墨?のようなものをした男がおり、原作へのリスペクトを感じてうれしくなった。)


    食屍鬼街の住人の歌とダンスに紛れて騒然とした中、ジョジョは素手でナイフを掴む。
    「こいつバカかぁ~~~~!!??」

    そしてここも軽快なラップで場面を進めてくれるスピードワゴン。
    ただ毒薬の売人を探しに来ただけだ、手を失っても良い覚悟がある!というジョジョに対して、
    試してやる!と
    (小道具と音響を駆使した)変幻自在な軌道を描く帽子カッターも!!!放ってくれる!!!
    とてもうれしい!!!!

    そして私がクスッとしてしまう、ミュージカル版スピードワゴンの好きな場面、
    帽子カッターがジョジョの骨まで達した音を聞いて勝利を確信するも、そのまま突進するジョジョに蹴り飛ばされる…原作通りの展開…なのだが。
    ジョジョが突進するシーンから、舞台上の時の流れはスローモーションにかわり、
    スピードワゴンはゆっくりとした時の中で、蹴り飛ばされるまでに、
    怒涛のラップで今の心境と、さらに(自分の命の終わりを察した)カウントダウンをするという、
    そりゃあもう解説王の名に恥じぬ(勝手にファンがそう呼んでいるだけなのだが)解説っぷりを見せてくれる。


    ミュージカルにおいても、スピードワゴンの仕草と言動はどこかひょうきんで、お茶目で、
    悲壮な運命と緊迫感あるこの物語の合間にちょっとした笑いを届けてくれる癒しである。
    もちろん役の方の試行錯誤と研究があってこそだと思う。本当にありがたいことだ。


    (命のカウントダウンまでしたのに)無事だったスピードワゴンは、なぜ本気で蹴らなかったのか?とジョジョに問う。
    「僕は父のためにここに来た。だから蹴る瞬間!君にも親や兄弟がいるはずだと思った。君の父親が悲しむことはしたくない。」
    このジョジョの言葉を聞いていたとき、そっとスピードワゴンの傍らに取り巻きたちが立ち、スピードワゴンを労わるような仕草を見せていたのが、ぐっときた。
    スピードワゴンには、もしかしたら親兄弟はいないのかもしれない…だが、ジョジョの言葉が胸に響くような…そう呼べるような仲間はいたのかもしれない、と。

    スピードワゴンは高らかに気に入った!と叫んでジョジョへの協力を宣言し、ジョジョの名前を聞く。
    「ジョースターさん!」
    「気をつけな!奴(ワンチェン)は小ずるいぜ!!!」

    …スピードワゴンの「ジョースターさん」呼びが、劇中で初めて呼ばれた瞬間である。
    ああこれだ、実家のような安心感を伴う響き。
    私はこの、高らかな「ジョースターさん!」を聞いたとき、ああこれも、運命の2人の出遭いなんだなとしみじみとしたあたたかな気持ちになった。
    食屍鬼街の住人たちはジョジョを囲み去っていく。



    暗転。


    酒瓶を片手に舞台袖から千鳥足で歩くディオ。
    よろよろと酒を煽りながら歩くディオには、また呪いの…ダリオの呼び声が聞こえている。
    ディオ…ディオ…聞こえねえのかディオ…お前を呼ぶ声が…
    お前は頭がいい…誰にも負けない…一番の金持ちに……
    ダリオの地から響く歌声は、ディオが今なお脅迫的に囚われてる「奪うこと」へ駆り立てているかのようにも思える。

    「酒!飲まずにはいられないッ!」
    ああ…憎悪し軽蔑する父親と同じように酒を浴びるように飲むディオの心の痛みはどれほどなのか…考えるだけで涙腺が緩んでしまう…

    ダリオの影に対して、暴言を吐きつつよろめくディオは2人組の通行人とぶつかる。
    「どこ見て歩いてんだこのトンチキがァ!!」
    「今度、外で歩くときはよォ~~マンマにでも付き添ってもらうんだなァ~~」
    だが、このごろつきどもの背後にさえ、ゆらりとダリオの影は立つ。(それはディオに殺人を唆しているかのようでもあり……)

    下卑た笑い声をあげるごろつきの顔面になんの躊躇もなく酒瓶を叩きつけるディオ。
    「衛生観念もない虫けら同然のたかが浮浪者が!」(流れるような罵倒が心地よい。)
    「ちょうどいい!人体実験だ!」

    ここの2人をスムーズに殺害する動きも、ほぼ原作通り(石仮面を1人にかぶせて視界を塞ぎ、そのナイフを持つ手を掴んで、もう1人の首を刺して殺害、返り血を浴びせて石仮面を作動させる)で私は嬉しかった。
    パッと見、ごろつき同士が殺しあったように偽装できそうな殺し方(石仮面使ったらだめでしょというツッコミは野暮なのでしない)…地味にディオの狡猾さが見えて好きなのだ。


    そして石仮面が作動したとき…眩い黄色のスポットライトが石仮面を被った男に集まり、
    劇冒頭でアステカ民族が歌っていた民族調の音楽と歌声がどこからともなく鳴り響く。

    舞台上のディオの驚愕と同じように、観客である我々も、なにか底知れぬ奇跡の瞬間を見ているような神秘さに息をのむ。


    光(と音楽)が収まり、男の死を確認したあと、
    どこか失望したような、安堵したような様子で去ろうとするディオだが、
    ヌゥッとディオの背後で立ち上がり、男はディオに襲い掛かる。
    床を踏み割り、圧倒的な力の一撃でディオの腕の骨を砕く。(さすがに横跳び うげえッ!はカットだ。これはしょうがない)

    男に血を吸われながらディオは気づく。「若返っている…!」
    (ここ、どうやって若返ったのかよく見てなくてわからない…(おそらくスピードワゴンのように顔をはぎ取ったのだと思うのだが…)次きちんと注視したいポイントである)
    (見てきました。白髪のカツラをとることで若返りを表現してた。なるほど…)

    絶体絶命のディオに朝日の光が差し込み、ディオは叫ぶ。
    「あの太陽が最後に見るものなんていやだーーーーッ!!!」
    (ここのディオの台詞…いや原作からそうなのだが、この太陽が、ディオが人生で最後に見る太陽になると思うと奇妙な皮肉と切なさで胸が締めつけられる)

    しかし男は光に溶けるように、(光とともに舞台に湧いたアステカ民族調の人物たちに連れ去れるような形で)退場していく。

    服だけと石仮面だけがぽつんと残された路上。
    ディオは呆然と呟く…「これが…石仮面の力……」




    ジョースター邸。

    ロンドンから帰ったジョジョと警部が話している。ジョースター邸はすでに厳重な警戒態勢が引かれていることがわかる。
    ディオの行方を尋ねるジョジョに、警部は昨夜から戻ってないことを告げ、
    そして警部は絞り出すように語りだす。
    「これは私の責任だ…私があのとき、ディオの父、ダリオ・ブランドーを流島の刑に処していれば…!」


    警部の話で、舞台は20年前の過去へ…ジョースター卿とダリオの話へ誘われる。
    (警部が語りながら、制服の帽子を被ることによって1888年の現在と、20年前の過去の話の中を行き来していたのが上手だった。)

    妻と揃いで作ったジョースター卿の大事な指輪を質に流して捕まったダリオ。
    ダリオがジョースター卿を馬車の事故から助けたわけではなく、車上荒らしをしていたことをジョースター卿も知っていて、ディオを引き取ったのだというエピソードである。

    留置所で鼻をほじって不遜な態度で横になっていたのが、ジョースター卿の顔を見て「やべぇっ!」と起き出してペコペコしだすダリオ。やはりクズが堂に入っている。
    だが、そのダリオに卿は、泣くほど大事な指輪を手渡す。
    「この指輪は私が彼にあげたものだ」と。
    「わたしも貧困の中に生まれたなら、同じことをしたかもしれない」
    「この指輪を売って、家族に何か買ってやってください…」
    ダリオは、一瞬???となって指輪を二度見したあと卿にペコペコし、警部にはそれ見たことかと視線を送ってみせるのが台詞がなくとも、なんとも憎たらしい。

    もちろん警部は、ジョースター卿がお人よしすぎることを憤怒で告げ、
    「この悪党はまたやりますよ!心のなかでは嘲笑っているのに違いない!!」と叫ぶ。

    原作ではここで卿の無言の1コマが入るだけだったので、ジョースター卿が実際にどう思っていたのか、計り知れない部分があったのだが、
    ミュージカルではジョースター卿はむしろ穏やかな口調で答える。
    「そうかもしれないな」
    「だが、逆に考えるんだ」(ここで!!!!!!!!)

    そこからジョースター卿の口から歌われるのは、まさに今後、ジョースター家が継いでいく信念の話。
    たとえ意味がないように見える事柄や悲劇でも、すべてが繋がり未来へ繋がっていること。
    たとえ裏切られようとも自分は人の善性を信じていたいということ。
    歌詞中には、ジョジョシリーズを読んだ者なら聞き覚えのある
    「暗闇の荒野」や「覚悟」、そして、それを照らす「黄金の精神」、そして「星と泥」、「運命」のワードが盛り込まれながら、ジョースター卿が目指し、今後受け継がれていく精神の骨子が語られていて聞いていて驚きの連続である。

    (歌のなか、そっとダリオは舞台セットとごと退場していくのだが、牢に戻ったあとはごろりと寝転がって、指輪を指にはめてみたりと舐め腐った態度をとったあと、ジョースター卿の「星を見るのだ」の歌詞に対して「星なんか見えやしねえよ!!」とヤジを飛ばす。)

    それでもジョースター卿の堂々たる信念に一片の曇りもない。
    圧倒的声量で力強く響く歌声。
    そのジョースター卿の人間の可能性を信じ、賛歌する歌声に、卿は最後まで星を見ていた、本当の紳士だったのだとの納得の念が広がる。

    ジョースター家の『グランド(偉大な、の意味で)ファーザー』と呼ぶにふさわしい父親像もここファントムブラッドにあるのかもしれないな、なんて、ふと思っていた。

    ちなみに少し話が逸れるのだが、ここで「星なんて見えねえ!」とほざき倒すダリオだが
    (まあそこのヤジは実際にジョースター卿に言ったものではなくダリオの本性という扱いなのかもしれない)
    ことジョースター卿に関しては…その後も関わりがあったのだろうと考えている。
    実は、ダリオがジョースター卿について名を出すシーンがちょっぴりミュージカルでは追加されている。
    ディオにジョースター家に行けと説明するときには「お人よしの貴族」とジョースター卿のことは表現していたこと、
    また、ディオの回想で酒を買う金欲しさに「ジョースターに手紙書かなきゃあなあ!」と言っている。
    ダリオはジョースター卿に妻の病気や息子についてダシにして手紙を書き、たびたび金をせびっていたのではないかと思われるのだ。(本当に皮肉なことだが。指輪の一件で、ダリオはジョースター卿の「人のよさ」=善性を信じていたのだろう)
    ジョースター卿は、自分の行いでダリオが改心したと思って…妻子になにかしてやりたいからという言い分を素直に受け取り…金を送っていたのかもしれない。(だからディオがダリオを憎んでいる事実に気づけない)
    ダリオがディオを養子に出すのに引き取ってもらえる絶対の自信があったのも、そのせいだと考えると納得がいく。


    偉大な父とその精神の話を聞き終えたジョジョは言う。
    「僕は、ディオを待ちます」「まだ…止められる!」
    決意を込めた瞳で警部と顔を合わせ、力強くうなずきあうジョジョ。

    やはりジョジョは、ディオを「止め」ようとしてくれるんだなあと…しんみりしてしまう。
    (後続部における歴代ジョジョとラスボスの関係性では、やはり「止める」というよりも「倒す」が強くなると勝手に思っている)
    我々傍観者の観客はそれを悲しく、見守ることしかできない。




    幕間。
    風吹く郊外らしき外で独り、明かりを手に歩くツェペリ男爵。
    どうやら古物商から石仮面を売った貴族の名前を聞き出し、向かっている途中のようだ。
    ツェペリ男爵は思い出したように唄い出す…
    若く希望に満ちた冒険者だった過去の自分…尊敬する父、仲間たち…だが石仮面はそれらすべてを奪い…朝日に染まった血のように赤い大西洋…
    「はやく石仮面を見つけ、破壊しなければ。」
    「とりかえしのつかないことになる」
    悲しいかな、運命の夜はもうすぐそこに迫っている。




    雷雨轟くジョースター邸。

    舞台袖から右腕を三角巾で吊り、よろよろと歩く姿がある。ディオだ。
    暗い屋敷の中に入ると、明かりをもったジョジョが待ちかまえていた。

    「ロンドンから戻っていたのかジョジョ…!」
    ディオの猫なで声も、もはやジョジョにとっては不毛なものだ。
    駆け寄ろうとするディオに対してジョジョの声は固い。
    「解毒剤は手に入れたよ」
    「残念だよディオ…本当に」

    殊勝な態度を崩さず、自首する時間をくれ、悔いているんだ…と嗚咽しながら食い下がるディオ。
    自首したいと申し出るディオに驚いた様子を見せ、悔恨の言葉に少しディオに近づこうとするジョジョだが。
    「ジョースターさん!気をつけな!」「信じるなよ そいつの言葉を!!」
    もちろん我らのスピードワゴンが黙っちゃあいない。


    めちゃくちゃシリアスなシーンにも関わらずつい笑ってしまったのだが
    スピードワゴンが、例の名言を言う際に、おもむろにディオに近づいたかと思うと
    スゥ~~~~~~~~!と勢いよくにおいを吸い込み
    「フゥ~~~~~↑↑↑!!こォいつはくせえーーーーッ!!!ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーー!!!」と怒涛の勢いで畳みかけてたのが、とても面白かった。大好きなシーンだ。

    (燭台蹴りはなかった…ディオくんへのパワハラが少しでも減って安心した。)
    (しかしディオくん視点からだと、いきなり現れた上に、においをかがれて、しかもくさいと大声で騒ぎだすとか、ほんと不審者というか、改めて行動で見るとなんだコイツ!?すぎるなと思い、それも含めて笑ってしまう)


    そして毒薬の証人として引っ張り出されるワンチェン。
    ワンチェンに気づいたディオは、一瞬態度を豹変させ、胸倉をつかんで何か言いかけるのだが
    周りに控える警官たち、そしてジョースター卿に気づき、ぱっと手を離す。

    ジョースター卿になんとか取り入ろうとするディオだが
    ジョースター卿はディオが言葉を発する前に静かな声で告げる
    「ディオ 話は全て聞いたよ…残念だ」

    私には、すれ違いざまのジョースター卿の「息子が捕まるのを見たくはない…」の言葉の時に少しだけディオが憎々し気な顔を、したように見えた。
    「あの男、つかまりやせんよ」ワンチェンの言葉に振り返るジョースター卿。


    ディオはもはや孤立無援の状態。

    肩を落とし、諦めたかのような様子を見せるディオはジョジョへと懇願する。
    逮捕を受け入れるから、君の手で手錠をかけてほしい、と。

    手錠を持ち、近づくジョジョに対し、
    ディオは絶望の最中にある様子で切々と唄い始める。
    それは、ディオがジョースター家へ来た、旅立ちのときの独白のメロディと同じもの。
    未だ、自分の手の中になにもない悔しさ。
    策を弄すれば弄するほど感じる人間の能力の限界。
    自分の人生を振り返り、少し諦めたような悲しみと悔しさを滲ませた唄声が叫ぶ。
    「いつまでも泥の中、星は見えない!」

    (言うまでもなくもちろん私の情緒は粉々である)
    (それでも。それでも…ディオ・ブランドーはあがくのだ。)

    「人間を越えるものにならねば」
    「おれは…(ここに躊躇いのような…涙を振り払うような…一瞬の間があるのが、つらかった)」
    「人間をやめるぞ!」
    「ジョジョ―――――――――ッ!!!」(ここ、超美声)
    「俺は人間を超越する!」
    ちなみに、ここのディオくんの独白は全て歌の中に入れこまれていて、
    私もまさか「人間をやめるぞ!」まで美声で歌われるとは思っておらず、驚きで涙が一瞬引っ込んだ。


    三角巾から石仮面とナイフを取り出したディオの凶刃はしかし、ジョースター卿の決死の献身でジョジョには届かない。
    刺されて倒れながらもジョースター卿が「ジョジョ…!!ディオ…!!」と
    2人の「息子」の名を呼ぶのがなんとも切ない…(ディオは嘲笑するんだろうが)少なくとも、ジョースター卿にとっては最後まで、2人とも愛する息子だったのだとわかる。

    先ほどまでの悲壮感はどこへやら、狂った笑い声をあげて石仮面を被るディオ。
    だが、すぐさま銃弾の雨をあびて舞台後部から転落し姿を消す。


    ジョジョの腕の中で、ジョースター卿は形見の指輪をジョジョに渡し…
    自分の人生に満足していると告げる。
    ディオを恨まないでやってくれとも。
    「悪くないぞ…息子の腕の中で死んでいくというのは…」
    (ここは流石にDIO様の信者の私といえど辛い。辛すぎる。泣いてしまう。)

    呆然とするジョジョはその心中の悲しさの独白を唄にのせて語る。
    守ると誓ったのに、信じてもらったのに、結局手から零れ落ちてしまった、悔しさと悲しさ。
    「なにが紳士だ!」「なにが誇りだ!」
    の歌詞にはジョジョらしからぬ、深い深い悲しみと自暴自棄ささえ垣間見える。
    それでもジョースター卿の誇り高き意志を想い、自分の血に流れる黄金の精神、それを継ぐためジョジョは星を見ると歌いきるのだった。
    (たしかここ歌詞にもそこここに「暗闇の荒野」や「黄金の精神」等のワードが盛り込まれていたと思う)
    (ジョジョの歌の最中、ジョースター卿はゆっくりと立ち上がり、ジョジョに指輪を手渡して…光に吸い込まれるように静かに退場していき…ジョジョはその背を見送るのだ)

    ジョジョの「ジョースターの血よ!」と遠くを見て唄いかけるフレーズは、後続部を知っていると今後さまざまな悲劇を乗り越えて進んでいくジョースター家の運命を照らしているかのようで、特別な感慨がある。

    (ただジョジョが悲しみながら自身の足で立ち直ろうとするという演出は尊いものだが…
    個人的には、大好きな、スピードワゴンさんのあの父親の精神は息子ジョナサン・ジョースターが立派に受け継いでいる!のくだりと大甘ちゃんの台詞がなかったので、それは…とてもとても寂しかった…残念…)



    「大変です!!警部!」
    「ディオ・ブランドーの死体がない!」
    しかし悲しみの余韻は、警官たちの叫びによって切り裂かれる。

    「サツの旦那!窓から離れろ!!」
    スピードワゴンの叫びもむなしく散花する命。

    ゆっくりと、宙から、甦ったディオ・ブランドーが、降りてくる…。
    (たしかここ、第2幕(後半)でのディオの世界の音楽が流れてたと思う。大好きだから早くCDください)


    原作においても好きな描写、
    とっさにディオに銃を向けるも(目の前で父を殺されてなお)銃を打てないジョジョと、
    (ミュージカル版では)その手からとっさに銃を奪い取って打つスピードワゴンの演技があったのは嬉しかった。
    ジョジョとスピードワゴンの「生まれ」の違いや、ジョジョの根っこの部分のやさしさと、スピードワゴンの危機管理能力とが伝わる何気ない名シーンだと思う。


    撃たれても、刺されても死なないディオは、近づいた警官たちの命を吸い取り、そして屍人へと変えていく…。
    ディオの声を震わせまくった台詞まわしが、ディオの、人外のものに成った興奮とまだ覚束ない能力の制御を表現しているかのようだ。

    石仮面が人間の脳から未知の可能性を引き出したのでは、と思い足り、槍を手に、屍人たちと、そしてディオを相手にしていくジョジョ。
    (ここ、たしか、ジョジョの「正直、ぼくはこわい」がなかったのはかなしい…こわいと言いながらも「強い意志を持つ!」の流れが自然とのちのツェペリさんの戦闘の思考と重なってて大好きなので)


    ディオが左手1本で槍を止め、
    「貧弱!貧弱ゥ!」とバカ力で槍をぐんにゃり曲げる動作が原作通りの流れであり、
    おおお…!!!と感心していた…ら、さすがにねじ切った槍の先がジョジョに刺さるのは難しく、
    ディオがへし折った槍の先を自分でジョジョにブッ刺していたので、なんかちょっとお茶目に見えて、にっこりしてしまった。
    (戦闘のモーションとしては違和感はなかったので、ただ私が勝手ににっこりしているだけである)
    (さらに言うと、槍の先が取れた棒の部分をディオが舞台外に放り投げる際に、華麗な棒回しをしてから投げているのも人間やめてテンションアゲアゲなんだな…と可愛くてにこにこになった)
    (3度目観劇の際には棒回しはしてなかったので、宮野さんのアドリブかもしれない)



    ディオの隙をつき、カーテンの影に隠れたジョジョは屋敷に火をつける。
    スピードワゴンを逃がし、自らは上階に昇りディオを迎え撃つのだ。

    「あがってくるんだディオ!!」
    音楽、コーラスとの相乗効果もあり、熱さが上限突破している。

    燃えるジョースター邸と命を燃やす2人の熱気が客席まで伝わってくるようだった。


    特に、ジョジョとディオの、

    「僕の前にはいつもきみの背中があった」
    「おれの背中にはいつもおまえがいた」

    「「僕(おれ)の青春はきみ(おまえ)との青春」」

    の2人の歌はずるい。ずるすぎる。(早急にCDを!)
    こんなのを聞かされてぐっとこないヤツはいねえ!!!!!!!!!!!
    何度見ても涙で前が見えなくなってしまいそうになる…。
    (ミュージカル版ではディオにとってもジョジョとの青春がディオの青春だと明言されているの、本当に…本当に………・・・・)

    ファントムブラッド ミュージカルの場面はどこも美しいが、
    好きな場面TOP3を選べと言われたならば、私は迷わずここを第2位に選ぶことだろう。
    (第1位は…第2幕の最終戦の「青春」プレイバックする流れのとこです)



    スピードワゴンのジョジョの考えの解説をバックに、燃えるジョースター邸の様子が、スクリーンになった舞台セットに映し出されている。

    崩れる四角形のらせん階段が上へとあがっていき…
    (ここのらせん階段の映像が、TVアニメシリーズジョジョ1部のOPに出てくるらせん階段を想起させる形なのがまた……。制作陣はどれだけジョジョを研究したのだろう…。
    余談だが、OPのらせん階段の演出は3部OP、6部特殊OPにも出てきているので、ここからはじまり、ここで終わる…という感覚が個人的にすごくある)

    横から見ていたらせん階段は、最上階を見下ろす形となって、スクリーンになっていた舞台セットが開かれていく。

    そこは、天井が抜け落ちたジョースター邸。
    柱に捕まるジョジョと、壁をのぼりジョジョを追い詰めんとするディオ。
    (客席から見て舞台は、上から見下ろす形になっているため、舞台奥から歩いてくるディオが壁のぼりをしている演出になっているのは、正直言って2回目見たときに気がついた…。ちゃんと壁のぼりしてた…。)

    2人命を燃やす死闘のなか…
    ジョジョは力を振り絞りディオにナイフを突き立て。
    ディオは慈愛の女神像へと落ちていく。(ここ逆光のシルエットだったの演出きれいだった)


    もっとちゃんと詳しく書きたいのだが、正直に言うと、ここらへんの記憶は、曖昧だ。
    何度見たとしても、うまく説明できる気はしない。
    もう、涙で視界は歪むし、舞台からの熱気が凄くて、ただただ呆然と圧倒されていて。
    気づいたら、第一幕(前半)が終わっている……。



    25分の休憩…



    しかし信じられるだろうか…ここで、ここで約半分である…まだ後半があるッ!
    なんという情報量…
    この文章だって見逃したことやら説明を省いてる部分やらもあるのに、
    あまりに書きたいことがありすぎてすでに満身創痍である。
    (まず言語化しようというのがそも無駄無茶無謀な話だというのは置いといて…)


    第一幕(前半)で、ひとまず、筆を置くのを許してほしい。

    できれば第二幕(後半)も書きたい、気持ちはある…けれど。
    第二幕も書きたいことがありすぎる…。
    後半はみんな劇場に行ってぜひ見てくれ!!!になるかもしれない。申し訳ない。

    とにかくこの第一幕(前半)だけでもジョジョミュージカルがありえないほどの熱量と敬意が込められていることは、この阿呆みたいに長い文章にここまで付き合ってくださった方になら、たぶん、おそらく、伝わってるはずだ。伝わっててほしい。


    関係者の方々には(騒動はあったものの)、私はやはり今は感謝の念が強い。
    本当に、本当に、素晴らしい舞台をありがとうございます。
    これからも長く長く愛される舞台になっていってほしいと心から、祈っています。


    2024.2.19(2024.2.24修正・追記) RoR
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