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    @rikukuri1123

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    @rikukuri1123

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    類から貰った扇風機から声が聞こえるというホラー体験をした司のお話。案外身近に犯人が潜んでいることってありますよね。
    相変わらずおかしな類くんしかいません。
    タイトルは寧々ちゃんの必死のお願いです。
    ワンライ 演目「身近」+1時間

    司、本当に頼んだからね 暑い。ただひたすらに暑い。
     太陽の光が直接当たり、肌がジリジリと焼かれている。日焼け止めを塗ってはいるが、こうも日差しが強いと意味を成していないのではないかと思ってしまう。

    「もう駄目だ……」

     流れてきた汗をハンカチで拭う。しかし、すでに多量の汗を吸っているハンカチはびしょ濡れで、こちらもあまり意味を成していない。これからは替えの分も鞄に入れておくようにしよう。と、考えたところで、オレは鞄の中にあるものを入れておいたことを思い出した。

    「あったぞ!」

     手にしたのは、小型扇風機。今朝、咲希からもらったものだ。可愛らしいピンク色をしたそれは、小型ながらも涼しさを提供してくれるらしい。この暑さでどこまで効くのか分からないが、試しにスイッチを入れてみる。
     ブオン、という音をたてて稼働し始めたそれは、確かに風を感じさせてくれた。なるほど、これは涼しい。さすが我が妹が勧めてくれた代物だ。咲希に感謝しなければな。
     目的地であるホームセンターまでは、まだ時間がかかるが、これで少しは回復するかもしれない。
     小型扇風機を顔の正面に持ってくる。すると、より風が当たり涼しさが増した。
     だというのに、すぐ横からジリジリと熱を感じる。この熱の正体を知っているオレは無視を決め込むが、そんなことは関係ないとばかりに勝手に騒ぎ出した。

    「ひどいよ、司くん!僕というものが身近にいながら、そんな機械に頼るだなんて!」

     目に涙を浮かべながら話しているのは、神代類という、オレの恋人だ。
    ちなみに、泣いているように見えるが、嘘泣きである。以前はこんな奴ではなかったはずだが、オレと付き合うようになってからは割とこんな調子だ。まあ、甘えているのだろう。寧々に「司が甘やかすから調子に乗るんじゃないの」と言われたのは記憶に新しい。
     だが、そんなオレも、今は類に構う余裕がない。なにせ、暑すぎるのだ。早く涼しい場所に辿り着きたい。

    「うっ、うっ……。ひどいよ、よよよ……」
    「…………」

     本当に悲しんでいる奴は、よよよだなんて言わない。分かっているのに、こうも横でぐずぐすになられると、放っておけなくなってしまう。「類がこうなった責任は、司が取ってよね」と頭の中で寧々が言ってきた。いや、これは実際に言われたセリフではあるが。

    「はぁ……。今回は一体どうしたんだんだ」
    「だって、司くんがどこの馬の骨とも知れない機械なんか使っているから……!」
    「なんだその言い方は。ただの機械だろう」
    「違うよ!だって、司くん、僕が作った扇風機があるはずなのに、使ってくれていないじゃないか!なのに、それは使うだなんて、もはや浮気だよ!」
    「う、浮気……」

     まさかの浮気呼ばわりである。
    確かにオレは、類から扇風機を貰っていた。「大切な司くんへ、僕からの気持ちを込めたプレゼントだよ」と言って渡されたときは、胸がドキドキしたものだ。しかし、家に帰って使ってみると、そんな淡いドキドキは消え去った。
     『司くん!司くん!大好きだよ!司くん!』と、扇風機から類の声が流れてきたのだ。あまりの衝撃に、オレはすぐにスイッチを切った。そして、何事も無かったことにしようと、タオルでグルグル巻きにして机の引き出しの奥にしまったのだ。扇風機から声が聞こえるだなんて、一種のホラーである。まさか、身近でホラーを感じてしまうとは。

    「いや、あれを外で使うだなんて、できないだろう……」
    「ええっ!?どうしてだい!?涼しさに考慮した、自信作だったのだけれど……」
    「いや、ある意味涼しさは感じたが……。それ以前に、あんな声がついていたら、使いにくいだろう」
    「え、声?そんなもの、僕は付けていないけれど……?」

     キョトンとした類の様子からは、嘘をついているように思えない。ということは、類はあの声をつけるつもりがなかったということだ。
     ま、待て、まさか、本当にホラーか!?聞こえるはずのない声が、聞こえたとでもいうのか!?
     背中を冷たい汗が流れる。先程まで感じていた暑さが、今は気持ちの悪い冷たさに変わっている。
     オレの顔色が悪くなったことに気づいたのか、心配そうに類が覗き込んできた。

    「大丈夫かい、司くん?」
    「いや、大丈夫ではない……。オ、オレは、ホラー体験をしてしまった……」

     肌寒さに腕を擦っていると、類が手を添え、そのまま撫で始めてくれた。なんとも頼りになる奴だ。おかしな扇風機を寄こしたのだと疑ってしまって申し訳なくなる。

    「ホラー体験?」
    「ああ。類からもらった扇風機をつけてみたら、声が聞こえてきたんだ。だが、類はそんな機能はつけていないんだろう?」
    「そうだねぇ。ちなみに、どんな声だったんだい?」
    「『司くん!司くん!大好きだよ!司くん!』という声だったぞ」

     腕を擦ってくれていた手が止まる。さらには、類の掌が汗ばんできたような気がする。
     どうしたのかと思って類の顔を見上げると、この暑いのに真っ青になっていた。この顔は、オレに対して何かまずいことをしたのがバレたときの表情だ。オレには分かる。

    「類。お前、また何かしたのか」
    「またって、人聞きの悪い——」
    「言え」
    「…………」
    「言え」
    「……嫌いにならないかい?」
    「話を聞いてから判断する」

     ちなみに、こういったやり取りは初めてではない。以前、類がオレに黙ってGPS付きのロボットを寄こしてきたことがあった。休みの日に映画館に行ったことをまだ誰にも話していなかったのに、類が「昨日の映画はどうだった?」と聞いてきたから、おかしいと思って問い詰めたことが始まりだ。
     それ以降も、なんだかんだとこんなやり取りをすることがある。寧々には「類のこと、本当に頼んだからね。犯罪者にしないで」と強く言われたものだ。

    「で、何をしたんだ」
    「あの、ちょっと、盗聴器を……」
    「と、盗聴器だと!?」
    「でも、その、発信機と受信機を逆につけてしまっていたようで……。司くんにあげた扇風機に間違って受信機をつけてしまったみたいだね。だから、僕の声が司くんに聞こえたんだろう」
    「ま、待て!整理させろ!追いつかん!お前は、オレにくれた扇風機に、盗聴器をつけていたのか!?なぜだ!」
    「だって、司くんが家の中で何をしているのか気になって……」

     寧々、オレは、類が犯罪者になってしまうのを止められないかもしれない。もはや手遅れだと思う。

    「……。いや、ひとまず、他のことを整理しよう。で、受信機と発信機の話は?」
    「盗聴器というのは、発信機で声を拾い、受信機でそれを聞くんだ。けれど、今回の場合は僕が間違ってしまったから、僕の方に発信機があって、司くんの扇風機に受信機があったということだね」
    「つ、つまり、オレが聞いた『司くん!大好きだよ!』という声は、リアルタイムで類が発していたということか……?」
    「まあ、そういうことになるね」
    「お、お前、普段一人で何を言っているんだ……?」
    「いや、感情が抑え切れなくて……」

     ああ、やはり、手遅れだった。類の犯罪者への道は、止めきれない。
     いや、だが、このスターである天馬司なら、まだ類を救えるのでは?なんとか、正気に戻せるのでは?

    「と、とにかく、例の扇風機は処分するとして……。そもそも、恋人同士なのだから、盗聴なんてする必要がないだろう?オレは、類に隠し事なんてしない」
    「もちろん、それは分かっているよ。けれど、やっぱり、司くんの全てを知りたいんだ」
    「全てを……」
    「だって、学校やショーの時は一緒にいられるけれど、家ではそうもいかないだろう?だから、気になってしまって」

     いや、学校でもバイトでも一緒だなんて、一般的な恋人よりも一緒にいる時間が長いと思うが。とは、オレは口に出さなかった。まずは、解決方法を考えなければ。
     類に犯罪者への道を歩ませないようにするには——。
     そう頭を悩ましていると、風にバタバタと揺れているチラシが目に入った。それが貼ってあるのは、アパートなどの賃貸物件を紹介する店だ。
     そうか、これだ——!

    「類!一緒に暮らそう!」
    「え!?」
    「今はまだ高校生だから難しいが、大学生になったら、一緒に住もう!だから、それまでは我慢しろ!」
    「えっ、本当に!?一緒に住んでくれるの!?」
    「ああ、もちろんだ!オレと類のためにも、寧々のためにも、それが一番だろう!」
    「え、寧々?どうして寧々が出てくるんだい?」
    「気にするな!とにかく、そういうことだから、盗聴だとか、GPSだとか、そんな物騒なことは二度とするなよ!」
    「え、えっと」
    「約束できないのなら、この話は白紙だ!」
    「約束するよ、約束します!」

     類は必死で頷いている。
     よし、これで類が犯罪者になることは阻止できただろう。オレは誇らしささえ感じていた。
     しかし、のちに寧々に今回の件を報告すると、「司、一生手放さないで。同棲を解消するなんてことになったら、司を監禁する勢いだったよ」と言われ、オレはまだまだ道のりが長いことを知らされたのだった。
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