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    虚無虚無プリン

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    虚無虚無プリン

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    Planet お前を救えなかったあの日も、空の星は輝いていた。
     ふっとそんな弱気なことを呟いたら、隣に座る恋人がバカかよと言って軽く小突いてきた。俺は、バカじゃねえよ、お前が好きで心配で堪んねえだけだって返して、肩を軽く叩いてやる。
     夜のしじまに消されそうなか細い声で好きと伝え合う。それだけで、十分幸せだ。

    * * *

     轟々と、熱と有機物の焦げる臭いを含んだ風が吹き荒び、その臭いの発生源の凄惨さが凍てついた目に焼き付けられた。轟焦凍はゆっくりと辺りを見回し、はあ、と息を吐く。また酷く面倒な事件に巻き込まれたな。
     火炎系の『個性』を持ったヴィランが出現、ビル一棟を焼き尽くし殺戮の限りを尽くしているという情報が入ったのは三分前。一応現場に駆けつけたはいいが、同系統の個性とはやりづらいし、氷の方は溶かされるしで手が出ない。応援要請して有利な個性のやつが来るのを待つ。打開するには、パワー系個性か水系個性がいるならなんとかなると考えている。氷だと溶かされるが、水なら消火できる。パワー系なら俺がその場しのぎではあるが道を作るから制圧してくれればいい。
     すぐに増援が来て、無事制圧。ヒーローショート、今日もお手柄。ニュースはそんな風に伝えるが、今日のは増援がなかったら結構危なかった。俺だけじゃなくて周りも見ろよ、なんてキャスターにボヤく。誰に届くでもないその言葉は、プロヒーローになって一年目の轟にしては広い1LDKのアパートの部屋に消えていった。
     夜は、好きじゃない。広すぎるアパートの部屋がやたら静かで嫌いだ。疲れて帰ってきたのにテレビがニュースと下世話なバラエティーしかやってなくて嫌いだ。
     何より、夜空。
     押し潰されそうに暗くて広い空が、果てのない宇宙が、そこに輝く星が、その星は遥か彼方なのが、嫌だ。
     あいつを救けてやれなかったあの日も、夜空は綺麗だった。夜空で嗤う星は遠くて、まるであいつにはもう手が届かないと、お前にあいつは助けれないと言われてるようだった。
     ふと、彼のことが気になる。卒業後、一度も連絡を取っていない。こんなに執着してるのに連絡取らなくても平気なのは、ひとえにネット社会のおかげだろう。彼の活動を知ろうと思えばニュースを見ればいい。彼の生活を知ろうと思えば、事務所公式のブログなり彼のSNSなりを見ればいい。俺の知らない間のあいつのことでも、簡単に知ることができる。それが便利で、少し嫌だった。
     登録してから一度も押していない連絡先をタップする。夜だけど、彼もおおよそ同じような時間に帰宅するはずだ、と見当をつけて電話をかけた。四回目のコール音の後、はい、と昔より落ち着いたあいつの声が聞こえた。
    「爆豪……」
    「何の用だ、半分野郎」
    「夜遅くにすまない。久しぶりだな」
    「ああ……まぁな」
     夜遅くだったが、キレられなかった。そのことを少し嬉しく思いながら、言葉を探す。
     話すのが久しぶりで、距離感が掴めない。それは爆豪も同じようで、昔より話し方が落ち着いてるし、言葉を詰まらせることもあった。
    「んで、いきなり電話してきた用件は何なんだよ」
    「いや別に……お前の声が聞きてえなと思って」
    「何だそれ。俺らは恋人じゃねーんだぞ、アホか」
    「……」
     何か、引っかかる。どうして俺は爆豪の声が聞きたかったんだろう。ずっとこの感情に説明がつかない、と思ってた。でも今、爆豪に言われて、ハッキリ分かった。
     俺、爆豪と恋人になりたいんだ。
     爆豪のことが、好きなんだ。
    「爆豪、あのな」
     言葉がつかえる。なんて言えばいい? どんな気持ちなんだ? 整理ができないままの感情をぽろりぽろりと零すように口を開いた。
    「お前が、俺の前からいなくなんのは嫌だ」
    「はぁ? いきなり何だよ、キメェな」
    「お前が俺の手の届かないところに行っちまうのも嫌だ」
    「だから何なんだよ! 要点まとめて分かりやすく言いやがれ!」
    「俺も、よく分からないんだ」
    「んじゃ喋んな!」
    「俺はお前のことが好き、なんだと思う。合ってるのかは分からねえ。けど俺の知らないお前がいることや、お前が俺の前から急にいなくなっちまうのや、お前が誰か他のやつに取られるのが、すげえ嫌だ」
    「……んだよそれ……っざけんな……」
    「悪いな、急にこんなこと言っちまって。忘れてくれていい」
     俺が電話を切ろうとすると、爆豪が今日一番大きな声で怒鳴った。
    「てめェはバカか! んなこと言われて忘れられるわけねぇだろ! てめェは言うだけで満足したんか!? 手に入れたいなら忘れろとか言うんじゃねぇ。最後までしがみついて離すな! 言っとくがな轟、俺ァ自分の気持ちから逃げるなんざアホなことはもうしねぇ。てめェも逃げてねぇでさっさと迎えに来い、アホ!シネ!」
     ツーツーツーと電子音がして通話が切れる。
     いきなりの展開すぎて頭がついて行けてない。とりあえず爆豪に言われたことを反芻する。言葉遣いこそアレだけど、離すなとか、逃げんなとか、迎えに来いとか言ってたな。……それって爆豪も俺のこと好きなのか? おい爆豪、ちゃんと言ってくれねえと自惚れちまう。
     窓から空を見上げる。都会の空に見える星は少ない。お前を救えなかったあの日は、満天の星空だった。ああ、あそこは山奥だったもんな。懐かしいな。
     都会では見えないけど、星は確かにそこにある。
     爆豪のメールアドレスをタップして、「明日迎えに行く」と送る。程なくして「十八時半以降。場所は明日言う」と簡潔な返信が来た。
     調子に乗って「おやすみ。大好きだ」と送ってやると、「知ってた。早よ寝ろ」と返してくれた。ああ、やっぱり俺こいつのことが好きだ。もう手の届かないところになんて連れて行かせない。早く爆豪に逢いたい。明日が楽しみなんて思ったのはいつぶりだろうか。いつまでもメール画面を見たまま、その日は眠りについた。
     プラネットは惑わせるという意味の言葉からきているらしい。お前はいつも、俺を良くも悪くも惑わせる。
     幸せな気分の俺の頭上には、今日も星が輝いていた。

    プラネット
    明日になれば
    星屑みたいに融けて
    消えていけるだろう
    プラネット
    消えたことなんて気付かずに
    朝は来るし
    夜は巡る
    プラネット
    バイバイプラネット
    融ける星の中で
    君に恋した
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