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    虚無虚無プリン

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    虚無虚無プリン

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    映画にまつわるエトセトラ「映画でも見に行かないか。と言っても、チケットはもう買ってあるんだが」
     永虎さんがふいにそんなことを言い始めた。
    「映画ですか? 何の?」
    「ふふ、当日までのお楽しみだ」
    「えー、なんですかそれ」
     どうせアダルト映画とかそんなものだろう。僕はさして期待もせず、その言葉を流した。次の日曜日にチケットを取ってあるらしい。デートの予定は、なんだって嬉しい。下手に期待なんてしない方がいい、という気持ちと裏腹に、勝手に胸はときめくのだった。
     日曜日、永虎さんと一緒に家を出る。映画だったら池袋か新宿、渋谷あたりだろうか。電車に乗るのかな、と思っていたが、永虎さんは街の中をずんずん進んでいく。
    「ねえ、映画館に行くんじゃないんですか?」
    「だから映画館に向かっているだろう」
    「えぇ……こんなところにありましたっけ」
    「あるさ」
     地元の商店街の程近く、古くからの家やスナックが軒を連ねる一帯に、確かに劇場はあった。……前もって劇場である、と言われなければわからないほどの小さい劇場であったが。
    「ここだ」
    「ここ……? 営業してるんですか、これ」
    「失礼だな、してるぞ」
     ガラガラと建付けの悪いドアを開けながら永虎さんはそう言う。
    「今日の一時からの公演、チケットは取ってある」
    「はい、確かに。大ホールでお待ちください」
     係員のおばちゃんは、若い人が来るなんて珍しいわね、と続ける。
    「好きな映画が偶然近くで上映すると聞いたものでね」
    「ゆっくり楽しんでいってくださいね」
    「はい。レディにも素敵な午後が訪れますよう」
    「あら、上手いのね」
     永虎さんは僕の手を取り、案内されたホールへと向かう。結局何の映画なのかは聞きそびれてしまった。大ホールとやらは小さなステージと、観客席が用意されていて、どちらかというと芝居向けのような印象を抱いた。しかしステージ上にはスクリーンが下ろされており、これからここで上映が始まるのだろうということを予感させた。
    「……映画館なんですか? これ」
    「映画館じゃないな。ただの劇場さ。それを今日は映画の上映に使っているだけで」
    「ふーん……? 永虎さんってそんなサブカルチックな趣味持ってましたっけ」
    「俺の守備範囲が広いことぐらい、お前もわかっているだろ」
    「まあ……いやそれとこれとは別じゃないですか?」
    「同じさ」
    「まあ、いいですけど。ところで何の映画なんです?」
    「雨に唄えば、だ。聞いたことぐらいはあるだろう?」
    「えー、ないですね。僕あんまり映画詳しくないんで……」
    「お前ガンアクションものしか見ないもんな」
    「だってかっこいいじゃないですか。……あ、そろそろ始まるみたいですね」
     照明が落とされて、目の前のスクリーンが白く輝く。ちらりと周りを見渡すと、僕らと同じように映画を見に来た人たちが数人座っていた。意外と物好きな人って多いんだな、と僕は変に感心していた。
     映画はなんてことのないラブストーリーだった。永虎さんの言う通りガンアクションものしか見ない僕にとっては退屈で、途中何度かうとうとしてしまった。永虎さんの方を見ると、結構真剣な顔つきでスクリーンに見入っていた。それなりにドラマチックな恋愛譚ではあったけれど、僕はあんまり好きじゃないなあ、と思いながら土砂降りの中歌を歌うシーンを流していたのだった。
     上映が終わり、真っ暗だったホール内に電灯が灯される。僕は眠たそうな目を気取られないように永虎さんの方を見た。永虎さんは、すごく満ち足りた顔をしていた。
    「……面白かったですか?」
    「ああ、面白かった。お前はそうでもないみたいだが」
    「バレちゃいましたか」
    「眠そうな目をしている。ほら、行くぞ」
     劇場を出ると、冬の少し翳った陽が午後の街を照らしていた。
    「時代背景がいいんだ。サイレント映画からトーキー映画に変わりゆく時代を上手く描写している。俺もサイレント映画に興味はあるんだが、いかんせん昔の映画だから配信サービスもあまりなくてな。フィルムが残っていたとしてもこういう小さい劇場でしか上映されないから、なかなか手が伸びなくて」
    「へえ」
     とりあえずお茶でも、と入った喫茶店で、永虎さんはそんなことを語り始めた。好きな人の話でも、興味を持てる話とそうでない話はあると思う。僕はクリームソーダのアイスをつつきながら話の続きを待った。
    「あの雨の中で歌うシーンあっただろ、あそこが何とも感動的な名シーンでな」
    「ミュージカルみたいでよかったですよ」
    「そうだろ。今度サイレント映画の上映がないか探してみるが、お前も行くか?」
    「……ついてきてほしいなら素直に言ってください」
    「まったく、お前には敵わないな。虹色、また俺とデートしてくれ」
    「今度は僕好みの映画にも連れて行ってくださいよ?」
     ドラマチックな恋愛譚には興味ない。だって現実はちっともドラマチックじゃないから。でもあなたに会ってからの日常は、ちょっとだけドラマチックな気がするんです。ちょっとだけ浮かれてしまうのも、きっとこのときめきのせい。
    「ああ、何回だってデートしよう。いろんなところに出かけて、たまには家で、ずっと一緒の時間を過ごそう。何回だって好きって言ってやるし、何回だって好きって言われたい。そんなのもお前となら悪くないって思えるんだ、虹色」
    「……ベタすぎです、零点」
    「辛辣だなあ」
     冬の陽が落ちるのは早い。喫茶店を出て、ゆっくりとアジトへ向かう。今日の料理当番は長江さんだから、きっと中華料理だろう。
     好きでもない人と見る面白い映画より、あなたと見るつまらない映画の方が、僕は好きですよ。とは言ってやらなかった。そんなことを言ったらまたあなたは調子に乗るから、言ってあげない。言ってあげないけれど、帰り道に手を繋ぐぐらいはしてあげようかな。
    「……どうした虹色。急に手なんか繋いできて」
    「いいんですよ、たまには」
    「は? 何がだ?」
    「教えてあげません」
    「お前って本当、扱いづらいよなあ。そういうところが好きなんだが」
    「褒めても何も出ませんよ」
     口上手なあなたの口車になんて乗ってあげません。だけどたまに聞こえる本音には弱い。いつか僕の本心をすべてあなたが暴いてくれたら、その時は僕も笑ってあなたにすべてを明け渡します。それまでは、まだ。
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