Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ゆん。

    @yun420

    Do not Translate or Repost my work without my permission.

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 55

    ゆん。

    ☆quiet follow

    2
    毎日ちょっとずつ書くジェイフロ。その2

    2.2.



     シフトが入っているのにフロイドがまだ来ないんだが。
     そう不機嫌な顔で告げるアズールは、言外に探して来いとジェイドに命令している。やれやれと思いながら、ジェイドは兄弟を探す為に学園へと戻った。
     フロイドがモストロラウンジのシフトをサボるのは別段珍しい事ではないが、それでも最近はアズールのお小言の方が嫌だと言って真面目に顔を見せていたのだ。もしかしたら、何か気分が乗らない事が起きたのかも知れない。
     授業が終わり、いつもより静かな放課後の校舎。
     太陽が傾き、薄暗くなった廊下に、擦れ違う生徒の姿はない。時折聞こえる歓声や掛け声は、体育館を利用している運動部のものだろう。ジェイドは真っ先に体育館へと向かうと、中を覗き込んで兄弟の姿を探した。
     が、バスケットボール部の練習に励む生徒達の中にその姿は見つけられない。自分が片割れの存在を見落とす筈はなく、つまりはこの場にフロイドは居ないと言う事だ。
    「フロイド先輩なら、今日は来てないっすよ」
     ジェイドに対する警戒心を隠しもせず、だが渋々といった風に、ハーツラビュル寮の一年生が教えてくれた。
    「モストロラウンジがあるから、部活には来れないって言ってたし……」
     エースの言葉に、そう言えば随分と寝不足のようだったな──と、ジェイドは今朝のフロイドの様子を思い出す。昨夜は随分と遅くまで魔法史の論文を書いていたらしい。
     何のかんの言いながら、結局フロイドは数時間で論文を書き上げてしまった。眠い眠いと文句を溢していたが、それでも内容は完璧だったし、ジェイドに手伝わせる事も一切なかった。
     文献や書物を漁るでもなく、知識は既にフロイドの頭の中に入っており、その知識を分かり易く纏める事が出来れば論文は完成する。ジェイドはフロイドの記憶力と、情報を具現化する能力の高さを信用していた。だから手伝いが必要がない事を知っている。
     ジェイドはエースに礼を言って踵を返すと、今度はフロイドのクラスへと向かった。人の気配がない階段を、靴音を響かせて上って行く。頭の中にはフロイドのクラスの時間割が入っている。論文を提出しなければならない魔法史は最後の授業だった筈で、どんなに眠くともフロイドはその授業は受けた筈である。
     自分のクラスの教室を通り過ぎ、フロイドのクラスの前で足を止めた。二年D組の教室の扉は、開け放たれている。教室の中は窓から入り込む夕陽の光で薄らと赤く染まっていて、ジェイドはそこに目的の人物を見つけた。
    「フロイド?」
     一番後ろの、左端の席。そこがいつもフロイドが座る場所だ。ここは窓から空が一番良く綺麗に見えるのだと、以前話していたのをジェイドは覚えていた。そんないつもの定位置で、自分と同じターコイズブルーの頭が机に伏せられている。
     ジェイドは足音を立てぬようにして、そっと兄弟へと近付く。横から顔を覗き込めば、肩と腕の隙間から、眠っているフロイドの横顔が見えた。長い睫毛は伏せられ、白い頬はピクとも動かない。どうやら深い眠りの中に居るようだ。
    「お疲れですねぇ……」
     無理もない。良く見れば目の下には薄い隈のようなものが見える。昨夜、遅くまで論文を書き上げていたせいで寝不足なのだろう。
     ジェイドは一瞬考え込むと、フロイドの右隣の席に腰を下ろした。椅子が小さく軋んだ音を立てるのに肝を冷やすが、隣のフロイドが目を覚ます気配はない。痩身だが決して薄くはない肩は、寝息を吐くたびにゆっくりと上下していた。
     机の上の落ちたフロイドの手は、指先が荒れてささくれている。桜貝のような爪は欠けている箇所もあり、少し伸びてきているようだ。ハンドクリームでも塗って、爪は揃えてあげなくては──そんな事を考えながら、ジェイドは頬杖を付いて兄弟の姿を見ていた。
     自分と少しだけ違う、跳ねた髪。海水に浸されていた頃とは違い、今は髪の傷みも随分と改善された。南国の海のようなターコイズブルーの髪は、今は窓から差し込む夕陽のせいで不思議な色に見える。
     ジェイドは手を伸ばし、フロイドを起こさぬようにそっとその髪に触れた。その指通りは滑らかで柔らかい。自分達は同じシャンプーとトリートメントを使っているのだが、何故かフロイドの髪の毛の方が美しく思えるのだから不思議だ。
    「ん……」
     不意に鼻に掛かったような声が上がり、ジェイドはどきりとして手を引っ込めた。フロイドの目覚めが近いのかも知れない。
     フロイドの伏せられた睫毛が微かに震え、まるで寝返りを打ったかのように顔が横に傾く。ずっと腕の上に載せられていた顎は、薄らと赤くなっていた。
    「……フロイド?」
     小声で呼び掛けてみるが、フロイドは答えない。まだ深い眠りの世界からは戻っては来れないらしい。ジェイドはそれに、安堵のような、かと言えば残念なような、不思議な感情を抱いた。
     ジェイドは別に、フロイドを起こすつもりはなかった。アズールの小言の量は増えるだろうが、フロイドを少しでも寝かせてやりたいという気持ちがある。しかしそれと同時に、ジェイドにはフロイドに自分を見て欲しいと言う欲求がある。フロイドの美しいオッドアイで、自分を映して欲しいという欲求が。
     ──稚魚じゃあるまいし。
     母親に見て欲しい子供のようだ──ジェイドはそんな自分に呆れている。こんな馬鹿馬鹿しい欲求を抱くのは愚かだと分かっているから、それを実行しようとは思わない。そもそも、自分でも何故こんな事を思うのか、良く分かっていなかった。
     ジェイドは再び手を伸ばすと、フロイドの頭を優しく撫でる。先程よりも見えるようになった兄弟の顔を眺めながら、その手を耳許へと下ろしてゆく。右耳に下がったお揃いのピアス。残念ながらその装飾は肩で隠されて見えないが、覆い被さった髪の毛を掻き上げれば、柔らかな頬には触れる事が出来た。
    「……ん」
     擽ったいのだろう。フロイドは嫌がるように顔を僅かに背ける。表情は隠されているが、恐らく眉間に皺が寄っている。もう覚醒するのも時間の問題だ。
     起きて欲しいような、起きて欲しくないような──。
     ジェイドはそんな事を思う自分に苦笑しながら、もう直ぐ眠りから目覚めるであろう兄弟の頭のてっぺんに唇を寄せた。
     眠り姫は唇へのキスじゃないと起きないのだろうか、と、どうでも良い事を考えながら。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭🙏👏👏👏💕💯☺❤👏☺💯❤💖💞💞💞💞😍☺🙏☺💖👏👏👏💯👍❤🙏💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞💞❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works