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    ゆん。

    @yun420

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    ゆん。

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    4-1
    遅筆女が頑張って毎日(たぶん)ジェイフロを書く。

    4-14-1



     ゆっくりと瞼を開けると、白い壁が目に入った。ジェイドはぼんやりとした頭のまま、何度か瞬きを繰り返す。いつもと同じ筈なのに、何か違和感がある部屋。
    「ジェイド、起きたぁ?」
     身動ぎをするジェイドに気付いたのか、兄弟の声が自分の名を呼ぶ。のっそりと顔をそちらへ向ければ、対面にあるベッドの前で、フロイドが制服に着替えているところだった。珍しい事もあるものだ、フロイドが自分よりも早く起きているなんて。
    「おはよー、寝ぼけてんねぇ」
     目尻を柔らかく細め、ケラケラと愉しげに笑う声。どうやら今日のフロイドは機嫌が良いようだ。少なくとも今のところは。
    「おはようございます……」
     ジェイドは挨拶を返しながら上体を起こし、カーテンが開け放たれた明るい部屋を見回した。どうやら今自分が居るのはフロイドのベッドで、フロイドが居るのは自分のベッドのようだ。
    「ああ……そういえば昨夜はこちらのベッドで眠ったのでしたね」
     ジェイドの頭に昨日の記憶が甦る。フロイドの節くれ立った指と、桜色の爪。背中から抱き締めた温かな体。片割れの爪を切るという行為は存外に愉しかった。人間の爪は一日で0.1ミリ伸びるというから、週に一度は切り揃えてやった方が良いだろう。取り敢えず今夜は足の爪を切ってやらなくては──そんな事を考えながら、ジェイドはベッドから降りた。
    「ごめんねぇ、ジェイドのベッドで寝ちゃって」
    「別に構いませんよ。どうせ同じベッドですから」
     言いながら、皺になったフロイドのベッドのシーツを整えてやる。自分と同じベッド、同じ枕、同じシーツ。それらは全て寮に支給されている物で、普段ジェイドが使っている物となんら変わらない。どのベッドで寝ようが、どの枕で寝ようが、いつもと同じな筈だった。ただ、フロイドの匂いがする以外は。
    「寝不足は解消されましたか?」
    「ウン。なんかすげー良く眠れた」
     フロイドの機嫌が良いのはそのせいもあるのだろう。ご機嫌に制服のジャケットに腕を通すフロイドを見ながら、ジェイドもパジャマを脱ぎ始める。時計を見ればいつもの起床時間はとっくに過ぎていて、急いで顔を洗って着替えなくては、朝食に遅れてしまいそうだった。
    「僕も今日はいつもより深く眠れた気がしますね……」
     寝起きにしては、頭は随分とすっきりとしている。睡眠中に何か幼い頃の夢を見ていたような気がするのだが、詳細は殆ど覚えてはいない。恐らく、何やら楽しい夢だったのだろうとは思う。穏やかな波と、美しい海の色。小さな自分の手と、それを繋ぐ誰かの手。幼い頃の夢ならば、自分の隣には必ずフロイドが居たはずだ。
    「ジェイドがオレより遅く起きるの珍しいもんねぇ」
     もう制服に着替え終えたフロイドは、ベッドに腰掛けて足をブラブラとさせながらジェイドを待っている。使用されたジェイドのベッドはぐちゃぐちゃであったが、まあ文句は後でいいだろう。
    「ジェイドも、オレの隣で寝たのかと思ってた」
    「は……」
     フロイドの言葉に、制服に着替えようとしていたジェイドの手が止まった。
    「だって寝てる時、ずっとジェイドの匂いがしてたからさぁ。でも起きたら一人だったから、ちょっと残念だった」
    「……二人で寝るには狭いですよ」
     そう答えながら、ジェイドは内心で動揺している自分に気付く。僅かに速くなる鼓動と、上がる体温。何を狼狽しているのだろう。
     ジェイドはネクタイを締め、ジャケットを羽織ると、フロイドの方へと向き直った。
    「僕も、フロイドの匂いがしているな、と思ってました」
     このベッドで。
     ──だから、良く眠れたのだろうか。
    「まー、ベッド交換してんだから、そりゃそうだよねぇ」
     フロイドは机の上に置いてあったピアスを手に取り、ベッドから立ち上がる。陸の世界に来てから、互いの耳にピアスを付けるのが毎朝の習慣なのだ。
     向き合い、顔を寄せ合って、フロイドがジェイドの左耳にピアスを付ける。それが終わると、今度はジェイドがフロイドの右耳にピアスを差し込んでゆく。シャラン、とピアスが音を立てる。
    「今夜、一緒に寝てみますか」
    「えー? 狭いんじゃないの~」
    「良く眠れるかも」
     ジェイドの言葉に、フロイドは尖った歯を見せて笑った。その右耳にピアスが揺れるのに、ジェイドは僅かに目を眇める。
     先程早くなった動悸は、もうすっかり元通りに戻っていた。一瞬熱くなった体も、今はなんともない。あれは何かの気のせいだったのだろうかと、思えるほど。
    「オレ、寝ながらジェイドのこと蹴っちゃうかもねぇ」
    「そしたら蹴り返しますから、大丈夫ですよ」
     そんな軽口を叩きながら、二人は笑い声を上げる。同じ顔、同じ表情で。
     部屋を出て、食堂へと向かうその姿は、誰が見ても仲の良い兄弟そのものだった。



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