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    ゆん。

    @yun420

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    ゆん。

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    13-1.キスしてるだけです。
    上げ直し。

    13-1.13.



    「ん、……は、」
     重ねた唇から洩れるフロイドの声が甘い。その声に煽られるように、ジェイドの熱も上がってゆくようだ。
     頬に添えていた手を後頭部に回し、フロイドの頭をもっとこちらへと引き寄せる。角度を変えてさらに深く口付ければ、また小さな吐息が上がった。
     ミルクの味がするキスは甘い。粥には砂糖を入れているわけはないのだが、甘く感じるのは相手がフロイドだからなのだろうか。
    「ふ、」
     フロイドが苦しげに眉根を寄せる。いつの間にか開いていた目は、ジェイドをきつい眼差しで睨んでいる。苦しいのだろう。だが、その目には蜜がとろりと溶けたような透明な膜が張っていて、やはり甘そうに見えた。そんな目で見つめられれば、ジェイドの背筋はぞくりと震えてしまう。
    「は、ぁ」
     フロイドが息を吸ったタイミングで唇を離す。もう一度触れたくなって顔を近付けるが、フロイドの両手がジェイドの口を塞いでしまった。
    「もうダメ」
    「……」
     確かに先程まで熱が出てた相手にする事ではなかったか。
     ジェイドが渋々とフロイドから手を離すと、目の前の兄弟はあからさまにホッとした顔になる。その顔を見ればまた悪戯に手を伸ばしたくなるのだが、本気で怒らせるのはまずい。相手は病人である。
     赤く、蒸気した頬。潤んだ瞳。ジェイドとお揃いのパジャマの襟元からは、白い鎖骨が見え隠れする。ましてここはベッドの上だ。煽られてキスをしてしまうのも無理がないだろうとジェイドは思う。初めてのキスはフロイドにとってはミルク味だろうが、ジェイドにとっては薬の味だった。それが上書きされたのは良い事だ。あれをキスにカウントするのなら。
     せめてもう少しフロイドの充電がしたい。
     ジェイドはフロイドの腰に手を添えると、その体を膝の上に抱き抱えた。フロイドはぎょっと驚いたようになるが、大人しくジェイドの足の間に腰を据える。
    「何? オレはぬいぐるみかよ」
     憎まれ口を叩くが、その耳は赤い。ジェイドはフロイドの髪の毛に頰を寄せ、フロイドの熱と香りを堪能する。自分と同じ石鹸の香りじゃないのは不満だが、まあそれも今だけだ。
     フロイドの右耳に唇を押し当てながら、視線をシーツに投げ出されている右手へと落とす。フロイドの人差し指にはジェイドが巻いた絆創膏がある。それを自分以外の誰かが手当てをしたのかと思えば、また胸の奥で炎が燻るような気がする。だがそれも、こうしてフロイドを抱いていれば霧散してゆくのだから、不思議なものだ。
     フロイドが傍に居ないこの二日間、ジェイドはあまり眠れなかった。眠りは浅く、眠れたとしても嫌な夢ばかりを見る。たった一人のベッドは冷たく、やけにうら寂しい。いつの間にかフロイドと眠る事が、この体に染み付いているのだと実感した。
     こんな些細な事でフロイドが自分の傍から居なくなるとは思わなかったし、フロイドが他人に手当てされたぐらいで嫉妬に駆られた自分が滑稽に思えた。自分達は二人とも至らないのだと理解しつつも、フロイドから向けられる嫉妬はジェイドには嬉しい。フロイドが怒るのなら、もう今後の人生で他の誰かと相合い傘をする事はないし、匂いが分かるほど誰かに近付きたいとも思わない。
     この僅かに離れていた間で、ジェイドはもうはっきりと、自分の感情を自覚をしてしまっていた。
     会いたい、話したい、声が聞きたい、傍にいたい、触れたい──。燃費が悪いジェイドのフロイドの充電期間は、どんどん間隔が短くなっている。そして、「触れたい」という気持ちも、どんどん強くなっている。
     フロイドをどろどろのぐちゃぐちゃになるまで甘やかし、自分だけのものにしたい。自分の事しか考えないようにしてやりたい。
     そう思う一方で、そんな感情が自分の中にあった事に驚く。
    「ねぇ、もう離れてぇ」
     大人しくジェイドに抱えられていたフロイドだが、後ろからがっちりと拘束しているジェイドの手から逃れようと、身を捩り始めた。
    「どうしてですか? 僕はまだ触れていたいのですけど」
     目の前の首筋に唇を寄せ、尖った歯で軽く噛み付いてやれば、フロイドの体はビクッと震えた。
    「だからっ、やめろっての! オレ、汗くせーんだって……」
     本気で嫌がったフロイドは、ジェイドの腕から逃げ出してしまう。ジェイドとしてはフロイドの汗なら平気なのだが、本人は嫌なものなのだろう。
    「体も汗で気持ちわりーし、シャワー浴びてぇの」
     顔を赤くし、噛まれた首を手で押さえたフロイドは、ジェイドを上目遣いで睨んでくる。その潤んだ瞳はどう見ても煽っているようにしか見えず、ジェイドはベッドに押し倒してやりたい衝動を抑えるのに苦労した。
    「そうですか……ではバスタオルを準備しましょうか」
     平常心を装いながら、ジェイドはベッドから降りる。これ以上フロイドと一緒にベッドの上に居るのは良くないような気がした。ジェイドは別に、自制心を鍛えたいわけではないのだ。
    「……この部屋、バスタブがあんの」
    「それは温まりそうですね」
    「大浴場ほどはおっきくはねーけど……」
     フロイドの声が徐々に小さくなってゆく。何か言い辛そうなその態度は、いつも無遠慮なフロイドにしては珍しい。
     ジェイドは僅かに首を傾げ、片割れの言葉を待つ。
    「だーかーらぁー……一緒に入ろってことなんだけど」
    「えっ」
     頬を膨らませながら吐き捨てたフロイドの言葉に、ジェイドの声はひっくり返った。




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