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    ※付き合ってない

    『初心な振りをして目上な🌸に近付くルッチの話』「🌸さん、どうぞこちらへ」

    自分より若干遅れて待ち合わせ場所に現れた女―そいつに向かって若干離れた場所から声を掛けると、はっと俺に目を合わせこちらに駆け寄ってきた。

    『ごめんなさい、待ったよね…?』
    「いいえ、俺も今来たばかりですから」
    僅かに息を切らしているこいつに適当に返事をすると申し訳なさそうにしながらも『今日は私の買い物に付き合わせてごめんなさい…本当にありがとう…』
    と頭を下げてきた。


    この女は先日の任務で俺の護衛対象だった某名家の一人娘だ。その任務というのも大した物ではなく単に貴族を狙った盗賊による奇襲程度で、素人に毛が生えた様な生温い攻撃はまるで俺の元に届かなかった。任務も無事滞りなく終わり本来であれば、俺は今頃別の任務に向かっているはずだった。…しかし何故今こいつとこんな街にまで出てきているかというと、その任務終了後この女がどうしても礼をさせてくれとせがんできたからだ。無論、任務報酬はこいつの父親から我らが愚図長官に充分支払われている。しかし馬鹿なのかお人好しなのかは知らないがこの女は『それだけじゃ足りません…!命を助けていただいたのですから…!』と譲らなかった。

    ―それは僥倖、そう思った。俺はこの女に合間見えたその時から、必ず俺の物にしてやると決めていた。白い肌、赤い唇、この世の汚い物を見てこなかったであろう純真な目、そして心。俺の手でそれらをどうにかできる日が来たらどれだけ愉快だろうと…それを考えると自然と口角が上がるというものだ。

    それ故「ではこちらから1つ提案があります」といった流れで今日の2人きりの状態に漕ぎ着けた。建前上は「貴女の買い物にでも同行させてください、護衛も兼ねて…」といった所だが本来の目的は先にも述べた通りだ。案の定こちらの心中なぞ知る由もないこの女は『それではお礼にならないではありませんか…!』と別の願いを要求してきたが互いの立場もある、この程度が無難だろう。何よりこんな如何にも貴族といった具合の女、手こずる訳も無いと分かりきっている。


    「構いません、私の願いですからね」
    本心を隠しそう言うと
    『そう…?やっぱり貴方は優しいのね』
    とにこりと微笑まれた。

    …全くとんだ世間知らずだ、聞いて呆れる。だが、そういう態度を見れば見る程、こちらの本性を知った時の反応が楽しみになるのも事実だ。


    ****************

    『今日は本当にありがとう、本当は貴方のお願いを聞くつもりだったのに…結局のところ私のお願いを聞いてもらう形になっちゃって…』

    買い物が終わり少し日が暮れ始めると気に入った物に溢れて顔を綻ばせていたこいつは一変眉を下げながらそう謝った。

    「いいんですよ…貴女はもう少し我儘…強欲になるべきでは…?」

    あまりにもしつこく謝ってくるこいつにそう返すと一瞬きょとんとした後、こちらを見てクスクスと笑った。

    『うふふ、ごめんなさい、貴方みたいな紳士的な人にそんな事言われるなんてね…ちょっとおかしい』

    口元に手を当て上品に笑うこいつに思わず歩いていた脚が止まった。―紳士的?俺がこいつにはそう見えていると。…とんだ笑い草だ、これだからこの女は…。










    「俺が紳士的?はッ、面白い事を言う…俺の内を一切知らずそう言い切るか」

    突然足を止めた俺を不思議そうに見ていたこいつをそう横目に見下すと驚いた様に目を丸くさせた後『えっ…どうしたの…?なんだかいつもと…』と怯えた表情を見せる目の前のこいつ。


    「馬鹿な女だ、ここまで言ってようやく気付くとはな」
    そう言ってこいつの頬に手を添え後頭部にその手を滑らせるとゆっくりと顔を近づける。

    「まあいい、もう手に入れたも同然だ…取り繕う必要も無い」
    耳元で囁くと肩をビクッと跳ねさせ体を強ばらせる。…そうだ、この反応だ。これが俺の見たかったこいつだ。

    「あまり男を信用し過ぎるな…男はみな狡猾だ。欲しい物を手に入れる為には何だってする」



    「この俺のように」

    そう告げながら驚きで半開きになっている唇にキスを落とすと目の前の顔は真っ赤になって口をぱくぱくとさせている。


    「言葉も出ないか、まあいい…全てこれからだ」
    自分でも口角が上がっているのが分かる。




    随分と穢し甲斐のある女だ。ひとりでにそう思った。






    その猫、豹変注意につき

    初心な振りをして目上な🌸に近付くルッチの話
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