険路怪跡後の魈空駄文 避けられている、のだと思う。
層岩巨淵の一件以来、空からの任務への協力要請が無くなった。
否、正確には減ったと言った方が正しいか。
失せ物探し、ヒルチャール討伐、秘境周回と空がごく日常的に行っている任務については今まで通り遠慮はあるものの声はかかる。
しかしこと重要な任務については打診がないどころか報せすらなくなった。
事が終わった後に空からではなく海灯祭以降望舒旅館へと赴いてくださる鍾離様から諸事として聞かされることが増えたのだ。
今までにも自身が同行できなかった任務は勿論ある。
それらについては空がこちらへ顔を出した際に冒険譚の一つとして語る事が多く、自分もそれを望んでいる。それが二人の睦言になることも少なくなかった。
しかし最近は人の手を借りずとも事足りるような任務でしか共にいられない。
それ自体嫌な訳でも不満なわけでもない。むしろ空の傍にいられる貴重な時間であるし何より降魔でしか存在意義を見いだせなかった我にとって当たり前のように差し出される手が面映ゆく、心地よかった。
良いように考えればそんな些細な任務でも我と共に在りたいという空の想いも見える。そして自分もまたその手を離したくないと思ったし共にいたいと思った。
我は、空に対して責務からではなく己自身の感情から湧いて出た欲求を確かに抱いている。空の旅の根幹に関わるモノを多く知りたいと思ってしまうのは業障に塗れた己には過ぎた願いだと分かっていても。
鍾離様の話では最近は層岩巨淵の地下を主に探索し請け負った任務をこなしているとのことだ。地形をよく知っているだろうからと同行を強請られ付き合うことも多いらしい。
困ったものだと言いながらそれでも空への親愛を乗せた笑みを見せる鍾離様に、そうなのですね、と一言返す事しかできなかった。
層岩巨淵。
浮舎との別れを告げたあの日以来、空からその言葉を聞いたことはない。
最初は優しい空のことだから我に浮舎のことを思い出させないよう遠慮して口にしないのだろうと思った。だから層岩巨淵での任務への同行要請を躊躇っているのだと。しかしそれだと他の任務まで要請が減ったことの辻褄が合わない。
以前は危険な任務ほど頼ってくれていたのにそれが減った。我自身が不要になったのであれば任務への要請自体無くなるだろうにそうではない。
空は変わらず我に関わろうとするしそれを望んでいることが伺えた。それなのに危険を伴う任務ほど他者を選ぶ。
非効率だとすら思えた。
適材適所という言葉があるがそれに習うなら我は他者より戦闘に長けている自負がある。空も以前はこの力を頼りにして共に闘うことを願ってきた。であればより危険な任務ほど己に頼るべきだろう。それなのに。
避けられている、のだろう。
理由は分からないが少なくとも空には我と窮地に立つつもりがないらしい。それはつまり、空の旅の目的が色濃くなればなるほど我は必要とされなくなるのだということだ。
無意識に拳を強く握りこんでしまう。
先に我の手を引いたのはお前だというのに、こうもあっさり手放すのかと。
逃しどころのない嫌な感情が業障の気配に混ざって濃くなっていくのが分かった。