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    みゃみゃ

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    みゃみゃ

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    トマへの愛が強い若とめちゃめちゃ鈍感なトマの若トマプロポーズ話
    めちゃめちゃ鈍感だけどちゃんと若に捕まえられてドチャ甘愛情ぶつけられます。ハピエン結婚。

    月が綺麗と伝わらない 「鈍い」とのたまう穏やかな柔らかい声が頭に住み続けて何日経ったことだろう。
     腕を組んで眉を下げながら、トーマは「ううん……」と唸るような声を漏らして困った顔を浮かべた。
    「オレって言うほど鈍感じゃないよな……?」
     そう口にしてゆっくり首を傾げてみれば、頭の上にぴょこんと生えた金の髪がトーマの動きに合わせて柔く揺れた。
     もしかして、本当にオレは鈍感なんだろうか? でも流石にそこまで鈍感じゃないだろう。……多分、恐らく。
     そう考えては弱々しい声で「オレは鈍感じゃない」と溜息を溢して、何度繰り返せば気が済むのか、トーマはまたしても悩みの渦に足を踏み入れた。
     鈍感かも、いや鈍感じゃない、とトーマが頭を悩ませているのは、つい最近の出来事が原因だった。



     一ヶ月とはそう離れていない、初夏の日差しの熱さが窓を通して降り注いでいた日のこと。
     洗い場に持っていった食器を汚れ一つ残さずに片付けようと意気込み、皿や椀を一つずつ丁寧に洗っていたトーマの背中に「トーマ」と呼ぶ軽い声が当たった。
    「うん? って、わ、若?」
     呼ばれてすぐさま一つに結った髪を揺らして振り返って見れば、そこには腕を組みながら穏やかな笑みを浮かべて佇む綾人の姿があった。まさか綾人がいるだなんて、使用人の誰かに声を掛けられたのだとばかえい思っていたトーマは、主の姿を視界に入れるなり驚きと疑問が混じった声を上げた。
     普段綾人が厨房に立つことはないし、ましてや食器を洗う場面にやって来ることなどない。
     だから珍しく厨房にまでやって来た綾人にトーマは不思議そうな表情をして見せて、「どうされましたか」とこてんと小首を傾げた。
     そうするとぴょこんとトーマの頭の上に生えた柔い髪が揺れるのが、なんともまあ可愛くて、つい撫でたくなってしまいたくもなって。
     綾人は不思議そうに何度も瞬きを繰り返すトーマを見つめて擽ったそうに笑いながら、「トーマに伝えたいことがあってね」と優しく低い声を出した。
    「今日の料理、美味しかったよ」
    「本当ですか? それは良かった!」
     トーマは綾人の言葉に満面の笑みを浮かべると、まるで尻尾を振る犬のように喜んで柔らかく染まった頬を緩めた。
     家司として仕える主に褒められるのは喜ばしいことだ。
     それにトーマにとって綾人は忠誠だけでなく愛をも捧げた相手でもあったから、好きな人に手料理を褒められたことが些細な事ながらも嬉しくて、トーマは喜びを包み隠さず表情に出して照れ笑いを漏らした。
     綾人はそんな嬉しそうに反応するトーマを愛おしそうに見つめて、目尻を優しく垂らすと僅かに開いた唇の隙間から息をそっと吸い込んだ。
     穏やかな温い風が通り抜けて淡い青の髪がふわりと揺れる。
    「それでね、トーマ……私に毎日味噌汁を作ってくれるかい」
     とても落ち着いた優しい低い声が、トーマの鼓膜を擽るようにそっと撫でた。
     トーマは若葉色の目を丸くさせた一秒後、ゆっくりと唾を飲みこんだ。
     二秒経ってから綾人の麗しい顔に浮かぶ笑みを見つめて耳を僅かに熱くさせて、三秒してようやっとその口を開いた。
    「……ええと、その、もう作っているんですが……」
     今日の朝餉も、昨日の夕餉も。一昨日の朝餉も、そのまた前の日の昼餉にも。
     一日三食のどこかには必ず味噌汁を作って並べている記憶があったトーマは、綾人の言葉をゆっくり咀嚼してから弱々しく返事をした。
     毎日味噌汁を作ってほしい、だなんて。
     綾人はトーマがもうずっと味噌汁を作るのを日課としているのを知っているはずだから、どうして今更そのようなことを言うのか、トーマには見当がつかなかった。
     もしかして若、オレが毎日味噌汁を作ってるって知らないのかな?
     そう考えてみてから、トーマはすぐさま「それはないよなあ」と否定の言葉を続けた。
     トーマが日課のように味噌汁を作っていることは何度も話題に上げてきたことだ。記憶力の良い綾人がそのことを知らないはずも、忘れていることもないだろう。
     ならばとトーマは別の考えへと頭を働かせて、そうして「あ!」と叫んで頭の上に生えた髪をぴょこんと揺らした。
    「何か作ってほしい味噌汁があるんですか? 若が食べたい具材を言ってもらえればすぐに調達して作りますよ!」
     弾んだ声でそう言いながら無邪気で快活な笑みを浮かべるトーマを見つめ、綾人は淡藤の瞳を数回瞬かせてから小さな笑い声を漏らした。
     口元に手を宛てがいながら肩を小刻みに震わせていたのも数秒のことで、綾人は次第に耐えきれなくなった様子で声を出して笑った。
    「ふふ……っ、ははっ! ああ、もう……あははっ!」
     笑い声が部屋に響き、トーマは綾人の笑みを眺めながら不思議そうに呆けた顔をした。
     普段の綾人であれば穏やかな笑みを浮かべて静かに笑うというのに。
     そんな綾人が無邪気に笑っていることがとても珍しくて、何が綾人をそうさせたのか分からぬままトーマが「若?」と首を傾げると、綾人は微かな笑い声を溢してから「驚かせてしまったね」と言葉を返した。
    「まさかトーマがこんなにも鈍いとは思わなくて……ふふっ、」
     綾人が肩を震わせて笑うのと一緒にして白の振袖が緩く揺れるのを見つめながら、トーマは「えっ?」と声を漏らしながら若葉色の瞳を瞬かせた。
     鈍い?
     ……オレが??
     綾人の言葉を耳にしたトーマは一度体の動きを止めてから、後ろに結った髪を振り回して勢いよく首を振った。
    「そんな、オレは若に言われるほど鈍くありませんよ!」
     モンドから稲妻にやって来た人間という立場上、人の好意や悪意を薄らながらも感じ取ってこれまで生きてきたため、トーマは自分が鈍感だとは思っていなかった。
     だからこそ綾人に「鈍くない」と叫ぶようにして言ったけれども、綾人はトーマを見つめると再度小さな笑い声を溢して長い袖を嫋やかに揺らした。
    「鈍くないと言うのなら、トーマは私が緊張していたことに気付いていたのかい?」
    「へ、えっ?! 緊張されてたんですか!?」 
     衝撃と驚愕の色を顔に浮かべてトーマが大きな声を上げると、綾人はそんなトーマの様子を見て楽しそうに笑いながら「そうだよ」と頷いた。
     いや、そんな、まさか。
     綾人が声を掛けてきた時から、トーマの目に映る綾人は平生の通り緊張など微塵も感じさせない落ち着いた雰囲気を纏っていた。
     だからまさか綾人が緊張していたなどとトーマは露ほども思わず、間抜けにも口を大きく開いて呆けていると、綾人が小さく笑った後に目を細めて淡藤色の瞳に愉悦の色を滲ませてトーマを見つめた。
    「ふふっ、そんな鈍いところが可愛いんだけどね」
     微かな笑いを溢してそうのたまう綾人の視線がこそばゆくて、どこか羞恥心を湧き起こさせてきて。
     トーマは耳をじんわりと熱くさせて眉を垂らしながら、恥ずかしげに唇を噛んで綾人の笑みからそっと目を逸らした。



     そんな出来事があったことでトーマは自分が鈍感なのかもしれないという気持ちを抱いてしまい、その不安を払うように「オレは鈍感じゃない」と首を振っていた。
     なにせトーマに鈍感だとのたまった相手は綾人である。
     トーマは彼の人がいかに人を困らせることに愉悦を覚えるのかをよく理解していた。だからあの綾人のことだから、きっと揶揄って楽しんでいるんじゃないかと考えていた。
     確かに、あの日綾人が緊張していたことに気付かなかったのは事実だった。
     けれどあの後「若はどんな味噌汁を作ってほしいんですか?」と尋ねたら笑い声と共に「本当に鈍いね」と頭を撫でられたものだから、トーマは綾人が緊張していたことも、味噌汁を作ってほしいと聞いてきたことも、全て自分を揶揄うために言っていたのではと思い始めていた。
     だってトーマとしては綾人が味噌汁を作ってほしいと言うから何を作ってほしいのか聞いたというのに。
     綾人は結局どんな味噌汁を作ってほしいのかも言わぬまま、ただきょとんと呆けるトーマの顔を見て「鈍い」と笑うだけだった。
     これはもう揶揄われているんだろう、絶対に。
     そう心の中で結論付けてトーマは一人でうんうんと頷き、それでもどこか綾人に鈍感だと言われたことが引っ掛かってしまって、「オレは鈍感じゃない」と弱々しく呟いた。



     鈍感じゃない、鈍感かもという疑問に一度区切りがついてから数日後。
     綾人とトーマは長机に向かい合わせで座り、トーマ手製の茶菓子を片手に湯呑を時折口にしながらも話に花を咲かせて談笑していた。
     最近はこの魚がよく釣れるんです、だとか。
     あそこの家の人が何かをしたようで、だとか。
     そうした日常の些末なことから興味深い出来事までを様々に話し、ある話題の話が終わったところで綾人がことんと湯呑を机に置き、「トーマ」と低く穏やかな声で彼の愛しい従者の名を口にした。
     呼ばれたトーマはその声色がいつになく真剣なもののように感じながら、綾人に倣って手に持っていた湯呑をそっと机の上に置いた。
     陶器の軽い音が部屋に響き、風鈴の音と相まって涼しさを感じさせてくる。
     トーマは己を見つめる淡藤の瞳に視線を合わせ、綾人が何を言ってくるのかを不思議そうに考えてそっと静かに息を呑んだ。
    「どうされましたか」
    「……君に、神里の名を名乗ってほしいんだ」
     温い空気に混じって告げられた綾人の言葉にトーマは目を丸くさせて、反芻するように「神里の名を?」と声を出しながら首を緩く横へ傾けた。
     神里と名乗ってほしい。
     トーマにとってそれは畏れ多いと言うよりも真っ先に驚いてしまうもので、綾人が揶揄うような表情を見せてこないのもまたトーマの驚きを後押しした。
     当の驚かせた綾人はといえば、小首を傾げて瞬きをするトーマの純粋に不思議がる顔を見て頬を緩め、一度机に置いた湯呑を手に取り甘みのある茶で乾いた喉を潤した。
    「そう。神里トーマと名乗ってくれるかい?」
    「……神里、トーマ……」
     湯呑を置いて柔らかく微笑んだ綾人を見つめながらその名を口にして、トーマはどこかこそばゆい感覚に僅かに頬を熱くさせた。
     他意などなく声に出したというのに、愛する人と同じ名を持つというだけで胸を擽られるような気持ちになってしまった。
     それにトーマにとっては大切な存在である綾人や綾華と本物の家族になったような感覚もあって、トーマは胸が温かくなっていくのを感じながら柔らかい笑い声を微かに溢した。
    「あははっ、なんだか若とお嬢と家族になったみたいですね」
     擽ったさを滲ませた笑みを向けると、綾人はトーマの言葉に肩を小さく震わせながら困ったように眉を垂らして笑った。
    「ふふっ、トーマは本当に鈍いね」
    「へ、えっ?! 鈍い!?」
     またしても「鈍い」と言われるなんて思わず、トーマが間抜けな声を出して驚くと綾人はトーマの丸くなった若葉の瞳を見ては楽しそうに笑いながら頷いた。
    「この前、君に味噌汁を毎日作ってほしいと言ったことは覚えているかい?」
     身に覚えのありすぎる話だ。
     そのせいでトーマは自分が鈍感なのかもしれないと頭を悩ませたくらいなのだから、当然忘れるはずもない。あの時の困惑を片隅に思い出しながらもトーマが呆けた顔で小さく頷いて返事をすると、綾人は目を細めながら微かな笑い声を漏らした。
    「実はあれ、稲妻では求婚の言葉なんだ」
    「きゅうこん……きゅう、こん……? ……って、求婚?!」
     綾人の言葉を時間をかけて理解して、トーマは飛び跳ねんばかりに驚きその勢いのまま僅かに身体を後ろに傾けた。
     求婚だなんていうものは、トーマにとって縁があるものでも、身近にあるものでもなかった。
     だからトーマは稲妻に特別な求婚の言い方があることなんて知らなくて、綾人に求婚されていたことを今になって理解して頬を淡く染めながら瞳をじわりと潤ませた。
    「私が神里の姓を名乗ってほしいと言っても、トーマはそれも求婚の言葉として受け取ってくれなかったんだもの」
     綾人が袖を震わせながら小馬鹿にするように笑うのを見てトーマはなんだか申し訳ないような、恥ずかしい気持ちになって、唇をきゅうと弱く噛みながら楽しそうに笑う顔を上目遣いに見つめた。
     何もそこまで笑わなくても、と言うようにやや恨めしげに見つめたとて綾人には一向に効かず、綾人はどこ吹く風で愉快そうに笑い続けた。
    「まさかトーマがこんなにも鈍かったなんてね。遠回しな言葉では伝わらないのも仕方なかったかな」
    「うう……」
     綾人の言葉に耳を垂らす犬のようにしょげた顔を見せて、綾人からの「鈍い」という言葉に弱々しく項垂れた。
     だってまさか、恋愛にはめっぽう鈍いだなんてトーマ自身思ってもいなかったのだ。
     綾人に求婚されるなどと少しだって考えたことがなかったのも敗因ではあるだろうが、言葉の裏に隠された綾人の本心に全く気付かなかったことも、鈍感だと言われた敗因なのだろう。
     自分の鈍さが今になって恥ずかしくなって、トーマは顔を赤らめながらも薄い唇を尖らせて拗ねた様子をして見せた。
    「……遠回しじゃない言葉で言われれば、オレだってちゃんと返事しますよ」
     そっと伏せた長い睫毛から潤んだ若葉を覗かせて、か弱い声に羞恥を滲ませる。
     呟くように言った瞬間に綾人が笑うのをピタリと止めてしまったのでさえ、トーマの羞恥を煽って堪らなかった。
     こんな言葉、まるで「求婚するならちゃんと言ってください」と言っているようなもので。
     綾人に求婚されていたことに喜びを感じていた心の内を明かしてしまったような気がして、トーマは「いっそのこと若に笑われたい」だなんて思いながらも静かに唾を飲み込んだ。
     きっと時間で言ってしまえば数秒の沈黙だったのだろう。
     けれどもトーマにとっては数分にも感じられたその時間は、息をするのも忘れそうになるくらいの緊張を感じてしまって、トーマは肩を強張らせながらじっと綾人の返事を待った。
     一つ、二つと大きな音を立てて脈が打つ。
     五つ、六つと数えたところで聞き馴染んだ低く優しい声で「トーマ」と呼ばれて、躊躇いがちにゆっくり顔を上げて見れば淡藤色の瞳と目が合った。
     柔らかい笑顔に、優しい眼差し。
     それら全てが愛しさを滲ませていることに気が付いて、トーマは息を呑んで綾人の顔を見つめながら若葉の瞳を潤ませた。
    「……どうか、私と結婚してくれませんか」
     穏やかで柔らかい愛しい声が、トーマの胸を撫でて擽る。
     トーマは薄い唇に隙間を開けてそっと浅く息を吸い込み、温い吐息を溢すのと一緒に顔を綻ばせて笑った。
    「……はい」
     嬉しさと、喜びと、幸福感と、擽ったい気持ちが綯い交ぜになった温かい感情を、たった二文字の言葉に込める。
     こんなにも短くて飾らない返事でも、綾人がとても幸せそうに笑うのが嬉しくて、それがなんだかとても愛しくて堪らなくて。
     熱くなる頬を撫でてくる指先に小さく笑って、愛しい体温を確かめるように手の平をそっと重ねてみせた。


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