冷え込んだ夜の空気が廊下に染み込んでいる。縁側作りの屋外と隣り合わせの部屋とは違い、トーマが向かう先は屋敷の奥まった場所にあるから、外ほど寒くはなかった。寒さを気にしていられるほど余裕がないと言えば、そうなのかもしれない。
トーマが向かっている先の部屋の隙間からは、微かな橙色の光が漏れていた。暗がりの中から一筋流れる光に、まるで招かれているみたいで、トーマは微かに漏れる灯りをじっと見つめた。
見慣れた襖の前まで来ると、温かい色の灯りが顔に掛かった。背中の方に影が伸びて、異様な緊張感に肩が強張る。この先には自分を待っている男がいる。その事実にトーマは嬉しいような、恐ろしく期待していることに気付いて、顔を下げた。
3783