マフィアに気に入られました(仮) カーヴェは、ただ黙って目の前で行われている黒スーツの男たちを見ていた。そうするしか、自分の命が助からないことを分かっていたからだ。
一際目立つ、長身で髪に軽くメッシュが入った男。その男は、部下らしき男たちからアルハイゼンと呼ばれている。どうやら、この組織(マフィア)の上層部にいる人物らしい。
(なぜ、こうなった……?)
カーヴェは、縄で体を拘束された状態で考える。なぜ、自分はこんなことに巻き込まれたのか。時は、数分前に遡る。
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「おい、いたか!?」
「こっちにはいなかった。」
「クソッ!どこにいるんだ!?」
(はあ……)
カーヴェは、路地裏に隠れていた。現在の居場所は、違法の風俗店が並ぶ歓楽街だ。だが、、今はどの店も閉まっている時間帯なので人の気配がなかった。カーヴェが隠れ場所として選んだのは、人気のない路地裏だった。
(夜になっても仕事が終わらないとは……、ついてないな)
仕事には終わりがあるが、この状況では見つかるのは時間の問題だ。カーヴェが仕事を終えて帰る途中に、誘拐されたからだ。
(そもそも、僕があのアルハイゼンに目をつけられたのが原因なのか?)
数日前に出会った男を思いだしながら、カーヴェは頭を抱えたくなった。カーヴェはたまたま仕事のパートナーとして選ばれ、共に仕事に取り掛かっていた時に突然現れたのがあのアルハイゼンと名乗った男だ。男は自らを組織の上層部の人間だと名乗って、そのまま立ち去ろうとしたのだった。だが、カーヴェが引き止めた。
『この資料は君たちのものだろう。このまま返していいのか?』
男は一度振り返ったが、そのまま立ち去った。どうやら、追わなかった方が正解だったらしい。それからというものの、男は何度も現れた。
ある時は突然現れ、ある時には組織の一員として他の仲間と共にいて。その度にカーヴェに警告をしてきた。それは、お前も警察に通報すればどうなるか分かっているな?という意味だ。カーヴェとしてはそんなことをするつもりは全くなかったが、あまりに邪魔をされると面倒だ。それに、もしもこのことを誰かに言ってしまえば『組織』というアルハイゼンが属するグループの制裁によって消されてしまう可能性がある。
(それで、この状況か……)
カーヴェは周囲を見てため息をつく。周りからは発砲音と銃声が聞こえる。どうやら、、敵対勢力に襲撃されているらしい。それにしても、なぜこんなことに? カーヴェは考える。確か、最近はこの辺りで不穏な動きがあると噂になっていた。もしかしたら、それが関係しているのかもしれない。もっとも、カーヴェにとっては他人事だった。なぜならば、自分はただの一般人だからだ。
「居たぞ!」
「あそこだ!」
どうやら、見つかったようだ。男が二人近づいてくる足音が聞こえてくる。
「おい、お前!さっさと歩け!」
「はいはい」
腕を掴まれて無理やり立たされる。そしてそのまま、乱暴に歩かされた。後ろの方では別の足音がする。恐らく追っ手だろう。
(ああ……また逃げ回るのか……)
カーヴェはため息をつく。仕事を終えれば、厄介な奴らに追われる日々。いったい、いつになったら平穏な日常が戻ってくるのだろう。そんなことを考えながらカーヴェは夜の街を歩くのだった。