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    DOODLE
    こいびとのつくりかた「またそんなところで寝て。身体を壊しても俺は知らないからな」
    「んん……、心配してくれておるのかえ」
    「まさか。忠告してやってるんだ」
     薄く瞼を開くと、夕焼けの差し込むラボにせかせかと生真面目な同居人──名を、蓮巳敬人という──が立ち入ってきているらしいことがなんとなくわかる。まだ自分の目は日差しに慣れないのであらかた光と影がぼんやり認知できるくらいのものだったけれど、この屋敷に住まうものは自分と敬人しかいないのだから、まあそれで正解と言ってよかった。いや、泥棒なんかが侵入していたら話は別だが。目覚め早々にくだらないことばかり考えてしまうのは、自分の悪い癖と言って良かろう。
     知らぬうちに床に伸びていたらしい自分の胴体の上を堂々と跨いで、敬人はラボの奥にあるキッチンもどきに向かった。もどき、というのは、単にバーナーやら何やらが並ぶ、調理ができる空間だ、というだけで、調理のための空間ではないことに所以する。ほら、我輩別にお料理に精を出すタイプでもないし。一日のうち、だいたい自分の最初の食事はそこで敬人が準備してくれるものだった。まあ本格的なキッチンでもなし、用意してくれるのは簡単なスクランブルエッグとトースト、コーヒーのセットといういかにもシンプルなものだったが、しかし目覚めには十分すぎると言っていい。きょうもどうやら、いつものメニューらしい──インスタントコーヒーの香りが強く立っていよいよ自分を目覚めさせようとしてくる。なるほど、もう一日を始めるべきらしい。
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    SPOILER
    つわものどもがゆめのさき

     夢ノ咲。あなたもご存知でしょう、この辺の土地はずっとそう呼ばれてきました。ずっとと言っても、私の知るこの最近のことですから、実際その由来を詳しく知るわけではありませんが……ああ、気になるんですか。それなら先祖の手記でもあたってみておきましょうか。そこまでしなくていい?ふふ、お優しいかたなんですね。私はそういういたいけな人のこと、結構いいなと思ったり……。
     すみません、少し興奮しすぎてしまったやも知れませんね。いいんですよ。私が勝手に言い出したことですからね。
     そう、だから夢ノ咲のことです。このへんは海も山もそれなりにある豊かな土地です。都内の要所からそう離れてもいないのに、どこかノスタルジックな印象さえ与えるでしょう。そこに私立夢ノ咲学院という高校がありますけれど……かくいう私も、あそこの学生には知り合いも多いのですが、そんな高校としても、こういう風土は教育に悪いものでもないと思っているのでしょうね。実際私も健康な青少年が、学び、または芸を磨くうえで、生身に海の風を浴びることも易い場所というのはそんなに悪いことと思えないですし。え?……そう、あなたは越してきたばかりだから行ったことがないんでしょう。いつか私が案内して差し上げましょう。ほら、私は少しばっかりこの辺には詳しいのです。ずっとずっと、ここに棲んできましたからね。生まれも育ちも夢ノ咲なのですよ。
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