りんご飴夏祭り
数ある屋台が立ち並ぶ中でそれはいっそうの輝きを放つ真っ赤な宝石に見えた。キラキラ、キラキラ
「これください!」
親から貰ったお小遣いで買った大きなりんご飴
キラキラは屋台・参道の灯篭・飾られた提灯の明かりと人並みが反射してゆらゆら形を変えて光の模様を織り成していく。
初めて実感する『綺麗』という感覚だった。目が離せなくてずっと握りしめて真っ赤な宝石を見ていた。
だけど、そのきらきらに目を奪われるあまり、つまづいてしまった。手から離れたりんご飴は、そのまま地面にたたきつけられ、飴が割れてりんごは土塗れ。今までキラキラしてそれが一瞬にして輝きを失った。
真っ赤な体液が傷口から溢れた出し、僕はその場で大泣きした。母さんが抱き上げてくれておまじないもしてくれたけど全然泣き止まなかった(挙句にナガラにまで伝染し、一緒に泣きわめき始めた)。昔から自他ともに認めるくらいには滅多に泣くような子では無かった。後にも先にも大声で顔がぐしゃぐしゃになるまで泣いた記憶はこれが唯一。
きっとあの時の僕は、怪我が痛くて泣いていたんじゃない。
大切なりんご飴(きらきら)を壊してしまったから
あの日見たきらきらの記憶は、僕の中での宝物の1つになった。宝物、でもみんなには内緒。僕だけの秘密の宝物。
それは歳を重ねても変わることはなく、これからも変わらないと思っていたんだ。
あの日までは
「800…つばめ…」
「つばめがどうしたんだ?!」
「え!?ぁ…何でもない」
「にしてもアニキ、好きだよなりんご飴。昔っから夏祭りに来ると買ってるよな」
事実なので否定も肯定もせず、笑って流す。それよりも、つい声に出てしまっていた(らしい)。
運転士候補生となってすぐの頃、シンカリオンを知るために戦闘記録を見せてもらった。リュウジさん、最初はN700Aに乗っていたのか…!かっこいい…いや、違う違う!!(それも見たいけど)勉強するために見てるんだぞ僕は!(後でこっそり見ようとテープの番号を控えたのは内緒)
全ての記録を見終わりそうなとき、手を止めた
リュウジさんの記録ではない。
なんて美しいんだろう。
赤くて白く輝く機体。一切の無駄のない動き。華麗でしなやかな動きは空に一筋の光を残す。その残像がキラキラと粒となって消えていく。
キラキラ。きらきら
何度も繰り返し見ていたことさえ気づかないほど釘付けになっていた。
800つばめ。現時点で唯一飛行機能をもつシンカリオンZ。
そして、僕達の前に現れた機体の運転士もとい中洲ヤマカサ。イメージ通りだった。容姿端麗、眉目秀麗。知っている美しさを表す四字熟語をどれだけ並べても足りないほどだった。それほどまでに僕の中での君は美しく映った。
そう、幼い頃初めて目を奪われたりんご飴が宝石に見えた、まさにあの感覚だった。僕はあの日、君に目も心を一瞬にして奪われていたんだ。
日に日に思いは募り、僕のゴリ押しを君は困ったように微笑みながら受け止めてくれたね。夜の名古屋港の明かりに照らされた顔がほんのり赤くなっていたのは気のせいじゃないよね。
りんご飴
それは真っ赤な真っ赤な宝石のような果実
それはとても繊細で、少しの傷で表面は割れ輝きを失ってしまう
パリッ
「え?」
驚いた声が出たのはナガラだった
「アニキが噛むなんて珍しいな。いつもゆっくり舐めながら食べてるのに。あ!口の周り真っ赤になってるぞ」
りんご飴
優しく大切に
壊れないように
丁寧に扱わないといけない
愛おしくてたまらないこのりんご飴のような
この口のように、真っ赤に染め上げられてしまいそうな宝石の君を
その時の僕は
俺は
壊してしまいたいと思ったんだ
その奥にある甘い甘い蜜を求めて