捨てられた人間と逃げたインキュバス 2 「……うん、楽しみだ」
あぁ、この人が笑えるだ。
これはジョニィが自分の言葉のために笑う顔を見たジャイロの考えだ。
ジャイロは相手をじっと見つめた、ジョニィは自分で作ったコーヒーをちびちびとすすって、口元に笑みを浮かべて、黄金色の髪が日光に照らされてかすかに揺れて、かすかに開いた空色の目がきらきら輝く。病室に閉じ込められて死んでいく魂とは違う人のようだ。
「おまえはよく笑っている方が人気があるだぞ」
ジャイロは何も考えずに口を開いた。
「……」ジョニィはあっけにとられて、白い肌に赤みがさして、そして眉をひそめた。首を回して反対側を見て、慌てて落ちた髪の毛をかき回した。「こんな所で人気がある?これは何の冗談ですか?」
「俺はおまえが笑うのが好きだ」ジャイロはジョニィの色々な表情の変化を見て、頭の中にある種の毛を揚げた子猫が思い出された。脅迫性は全てなく、ジャイロは手を伸ばして相手の髪の毛を揉みながら、片方の指が自分の口元を引っ張った。「こういうのがいい!」
「……君はバカか?」ジョニィはしばらくジャイロの金歯を見つめた。そして自分の反応が行き過ぎたような気がして立ち止まった。彼は頬を膨らませ、手にあったタンブラーをジャイロの胸に押し込み、車椅子を押して小さな声で口を開いた。「僕、……ありがとう……僕、帰る」
ジャイロは急いで立ち去る相手の後ろ姿を見て、手にはまだジョニィの柔らかい髪の感触が残っている。彼は首をかしげてその手で自分の頬を支えた。この時、空は急に暗くなり、春の暗雲が突然現れたように黄金色の太陽をさえぎって、遠くから雷鳴がとどろいた。
「……」
このような空に応えるために、黒い煙がジャイロの背後に集まり、ゆっくりとベンチから芝生を垂らし、緑の葉を掃いた。ジョニィが期待していたように、ジャイロは尻尾を持っていたが、単純な喜びの犬とは違って、もっと多くの考えを隠していたようだった。
ジョニィはビルに駆け戻った。久しぶりに誰ともこんな接触をしたから、彼はしばらくの間、逃げようだけと思った。ジョニィは手を伸ばしてまだほんのりほてっている自分の頬を触って眉をひそめ、さらには自分を平手打ちして目を覚ますようにしようとした。とにかくジャイロは男だ、しかも自分の医者だ。こんな些細なことで胸がどきどきするとか…。相手がバカだというより、自分がもっと馬鹿みたいだ。
しかも、多分、ジャイロは自分をただの友達だと思っていた。
それで、ここにいなければ彼らは本当に友達になれるかもしれないか。
ジョニィはため息をついて、自分の身に着けている服を丸めて放して、彼はそれらの小さなしわを撫でながら自分を落ち着かせた。ジョニィはゆっくり分析して、自分を笑わせてもジャイロには何の得にもならない、自分と仲良くなっても何の得にもならない。
「……」
ジョニィは長い間友達を付き合っていない、自分も本当に友達がいると疑っていると言うべきか。競馬家、金持ち、天才騎手、各種のレッテルを体に縛って、自分に接近する人たちは普通他の目的を持っている。もちろん、ジョニィは最初は世の中の友情がそうだと思った。でも、自分が事故を起こして以来、友達だと思っていた人たちは一人も彼を見に来なかった。
意外にもジョニィは簡単にこのような事実を受け入れた。家族もない彼に何の友情を期待できるだろうか。
しかし、ジャイロは違う人だ、彼は自分のすべてのことを知っていて、病歴がすべて彼の前に広がっていて、自分の人生についてもうわさを聞いたことがあるかもしれない。
ジョニィは考えてみて、役に立たない自分の太ももを軽くたたいた。
諦めてからやり直すのはとても難しいだ。もし自分が本当に病院を離れたいなら、父さんは基本的な生活費すらあげないでしょう。仕事を探して住むところを探さなければならない。さらに、今は歩くこともできない。
ジョニィは下唇をかみしめたくなかった。いや、たとえば小さい希望があるだけ、彼もやってみたいだ。
雷鳴がとどろき、ジョニィは車椅子の車輪をかろうじて回した。まだそこにいるジャイロを見た瞬間、ジョニィはすぐに、かすかな緑の光を放っているような瞳に向き合った。
希望……か、
ジョニィは唾を飲み込んで、首を横に振って、自分の心の中の一瞬の疑いを振り切って、彼は今ジャイロを信じるしかない。ジョニィは自分の訳の分からない恐怖を抑えて、彼は固い両手で車椅子を押してジャイロのそばに戻った。
今日は病院の面会時間だ。
ジャイロは眉をひそめ、廊下の先でホールに座っているジョニィを見た。ジャイロがこの病院に来て以来、ジョニィを訪ねてくる人を見たことがない。うわさによると、以前にもそうだったので、看護士まで周りでひそひそと話をしているという。
ジョニィと一緒に座っている人はジャイロと同じくらいの年のように、変な帽子をかぶって、ジョニィに自分の携帯を見せてる。そしてジョニィも目を大きく開けて、時々手を伸ばしてスクリーンを滑らせ、口を向けて相手に向かって,少し安心したかのように微笑んだ。
ジャイロは心の中に怒りがこみ上げてきて、もどかしさを感じた。気がつくと、ジャイロは爪に刺されて痛い手を放して、自分のオフィスに戻った。彼は施錠した戸棚を精一杯開き、中のガラス瓶がぶつかる音にもかかわらず、赤い液体が入った酒瓶を取り出して口に入れた。
それは俺のものだ。
ジョニィは俺の獲物だ。
ジャイロの頭の中はこのような言葉でいっぱいで、少しのエネルギーを補充しても止められない。ジョニィは自分を初めて見た時、確かに間違っていなかった。自分は世人を救う医者ではなく、卑賤の悪魔だった。結局、自分の欲望を制御することができなかった。
さらに悪いことに、彼は普通の悪魔でもなかった。
自分の家族を思うと、ジャイロは怒って口にかかった液体を拭き取り、長い血痕をぬぐい、白いコートの上に落ちた血痕を気にせず、ただ自分の机を一発殴った。
ジャイロの家族はヨーロッパのシステムはとても大きいだ。彼はちょうど家族を増やすためにとても素晴らしい能力に遺伝された。人類の体液に頼って食べ物をしなければならないため、このような能力は人類にとってインキュバスと呼ばれた。また、家族全体の血統が純粋であるために、普通の人類はジャイロの体液を摂取しすぎると、インキュバスの眷属になることができる。
眷属はインキュバスのように人間の体液で生きていくわけではない。しかし、生活に大きな影響を与えかねず、性欲の増加とインキュバスの指令に無意識的に従うなど、一部の悪質なインキュバスは眷属を備蓄食糧として、死ぬまで徐々に搾取する。ツェペリ家のような家族は密かにこんなことをして、医師の身分を利用して人間の体液を貰える。
もともとジャイロはこのような能力がとても優れており、食事と同時に群れの眷属を増やすことができるという点でいいだ。でもジャイロは当事者の意思に反することについてはすべて似たような行為と見なして、同じだと思った。
ジャイロの能力があまりにも強くて、幼い頃から感情が制限された。すべての人類が彼に対する感情が能力に魅惑されて生じた偽りの感情だけでなく、悪魔たちが自らを一等だと思って、食材を愛するようになるのは本当に笑わせることだ。
ジャイロは家族が自分を保護しようとする考えを理解することができるが、なぜ自分が普通の人のようにできないのか、自分が持って生まれた能力と使命を納得できないと思った。
最後、ジャイロはすべてを逃げてアメリカに渡った後、この病院に入って、彼のありそうもない催情能力を抑制するため、あまり影響を受けない患者がいるところ、つまり精神科を選択した。
食事に関しては、彼は動物の血液に置き換えることを余儀なくされました。
ジャイロは手の中のガラス瓶を振って、胸いっぱいの嘔吐感を我慢した。動物の血は彼を生き続けることができるが、ただの代替案である。彼の頭の中には出てはならないという考えがいっぱいになっていて、一目で嫉妬するだけで彼をコントロールできなくなるところだった。
ジャイロはジョニィを本当に自分のものにすることができれば、相手に長期的に自分を食べさせることができるのではないかと考え始めた。
粉々に砕ける音。
手の上の瓶が地面に落ちて、粉々になって、真っ黒な血が地面に散らばって、まるで彼の心の中の止められない闇のように、ジャイロは驚いて目を大きく開けて、その血をにらみつけて、まるで自分を飲み込むようだった。
彼は理性を失い続けるのを止めなければならなかった。