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    R_Tentacle

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    R_Tentacle

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    君の世界を変えたい、の続き
    頑張れ一号、負けるな一号(棒)

    紅に染めて染め上げて 「一号、貴方と一緒に出かけられる日ってないかしら?」
    「何かあったのか?」
    ようやく心身共にある程度調子が戻ってきたので、少しずつ動き始めることにした。
    「そろそろ社会復帰に向けて少しずつ動き出そうかと思って。必要なものを買ったり、いらないものを処分したり…まずは簡単なところから、ね?」
    「そういうことであればヘド博士にお伺いして近日中に行けるように調整しよう。荷物持ちは任せてくれ」
    いつもの生真面目な顔でそう言うものだから、今日も私は笑ってしまう。
    「理由があってのお出かけなのは確かだけれど、そこでデートみたいって発想に行かないあたりまだまだばぶちゃんね」
    せっかくなので丁寧に説明してあげれば、見慣れた赤が一瞬で彼の顔面を支配した。
    「デッ…!?あ、貴方はそうやってまた━━━!」
    「だって可愛いんだもの」
    ニッコリと満面の笑みを見せればこれまた可愛く悔しがるものだから、愛おしくて仕方ない。
    「早めにお願いするわ、ヒーロー」
    トドメと言わんばかりに頬にキスを落とせば敗北の唸り声だけが返された。

     四日後、無事休みをもぎ取ってきた一号を連れて街を歩く。着実に増えつつあるファンに囲まれないようにと、彼は珍しくいつものユニフォームを着ていない。全体的にスポーティなコーデになっているのは、いざという時のために動きやすい格好を選んだからだろう。対して私は無地系のカジュアルな格好だ。あまり好みではないコーデだけど、結構な数のファッションアイテムを処分することになった結果なので仕方ない。
    「カプセルに入れなければいけないほど処分品があったのか?」
    「ええ。貴方なら問題なく持てるでしょうけど、嵩張って流石に邪魔になるわ」
    「良ければ内容を聞かせてほしい」
    「アクセサリー類、バッグ、帽子、衣類、靴…その他小さいものがいくらか、ってところね」
    「断捨離、というやつだな」
    なるほどと納得する彼。若干の認識のズレを感じ取った私は補足を入れた。
    「あいつがくれたものと、あいつの目の色に近いものをいつまでも持っている理由はないから」
    ピタリと、車道側を歩く彼の足が止まった。
    「…不躾な質問だった。すまない」
    「なんで貴方が謝るの」
    流れ的にはこっちが悪い気がするのだが、彼の中ではそうではないらしい。罪悪感の沼に沈み出す前に手を取って引っ張れば、彼が慌てて再び踏み出した。
    「ほら、行きましょ。せっかくの初デートなんだから」
    今度はうまく言葉を選べたらしい。ほんのり染まった顔を確認してから私は前を向いた。


    ***


     愛している相手の色を纏いたい。きっとそんな思いから手を伸ばしたのだろうと、カプセルから出てきた多くの緑色の物品を眺める。もうとっくに終わった話だと言うのに、あの男への怒りが胸中で燻る。こんなにも他者を想える人に何故あんな残酷な仕打ちができるのだろう。途中で罪悪感すらわかなかったのだろうか。
     数があったこともあり、処分品はそれなりの額で売れた。
    「買い物資金の足しにはなったわね」
    なんてこともないかのように彼女は言う。彼女のように切り替えていけない自分の未熟さが情けない。もっとしっかりしなければと気合を入れ直す。今日は必要最低限の買い物だけで済ませるとは言っていたが、久々の遠出となれば適宜休息を挟むべきだ。わずかな疲労にも注意した方がいいだろう。

     減った衣類などをとりあえず必要分だけ買って回るだけなのに、不思議とその時間は心地良かった。私はあまりファッション方面ではコメントできなかったものの、材質や構造などの実用性ならわかるので意外と会話が弾んだ。質の悪い商品を彼女が手に取った際に毎回すぐに指摘したのは特に喜ばれた。
    「私も注意するのよ?でもたまに巧妙な偽物もあって…貴方がいればまず見落とさないってわかったのは嬉しいわ」
    上機嫌にそう言う彼女から紙袋を受け取り、カプセルに収納する。荷物持ちの役目はなくなった時は不安だったが、なんとか役に立てているので良しとしよう。
     当たり前のように腕を組む彼女にどぎまぎしながら店の外に出た瞬間、大きな衝突音が響いた。さっと辺りを見渡せば、道路の反対側で交通事故が起きていた。
    「一号行って!私は救急車呼ぶわ!」
    「っ、頼む!」
    人間よりずっと早く回るはずの頭脳なのに、彼女の方が判断が早かった。この体はヘド博士の傑作だと言うのに、たった一人の存在でこんなにも思考に遅れが出てしまう自分のいたらなさに苛立つ。これではヒーロー失格だ。
    「大丈夫か!?私の声がわかるか!?」
    事故に遭った人達のうち、一人は意識もなければ心肺も停止していた。すぐに蘇生を開始すれば、連絡を終えたらしい彼女が駆け寄ってきた。
    「心臓止まってるの!?ならどいて!」
    何故と問いかけようと顔を会えた時、彼女の手に電流が走った。
    「まさか…できるのか!?」
    「これだけは練習したのよ。早く離れて!」
    そういうことであればと被害者の衣類を引き裂いてから離れると、彼女が袖をまくって両手の電力の調整を開始した。
    「電流が流れます!離れてください!」
     ああ、やはり彼女は強い。最初は暴力の為に使った力を、こうして人助けに使えるように自ら練習できる素晴らしい人だ。

     自らの力で立ち上がろうとしているこの人の為に、私は何ができるのだろうか。





     その日は、明日から休日だからと夕方から彼女の側にいた。
     泊まっていくのは別に初めてでもなんでもない。こういう夜は映画などを一緒に楽しんだ後、彼女の就寝を見届けてからソファーを借りてスリープモードに入ることがほとんどだ。魘されたり寝付けなかったりして添い寝を頼まれることはあったが、そうした必要時以外は彼女の寝室に入らないようにしている。一人の時間とプライバシーを尊重した方が、療養中の彼女には良いと判断したからだ。
     映像作品を一緒に鑑賞して感想を言い合う時間も楽しいが、個人的にはその後の、入浴を終えた彼女の髪を乾かす時間が一番好きだ。スキンシップ慣れの為と乗せられて始めたが、少しずつ乾いていく毛束の様子は不思議と飽きない。髪に指を通した時の感触も心地良い。されるがままの彼女も心地良さそうで、ドライヤーの音しか聞こえないあの短くも穏やかな時間はいつも楽しみだった。
     だから私は、いつも通り大人しくソファーで待っていた。仕事に関連することをインターネットでゆるゆると調べながら、彼女がドライヤーを手に戻ってくるのを。
    「……一号」
    彼女がソファーの後ろから腕を伸ばして首に絡めてくるなんて、考えもしなかった。またからかわれるのかと一瞬考えたが、自分を呼んだ声が妙に弱々しく感じたので呼び返してみる。彼女は私の首に自分の頭をぐりぐりと押し付けると、小さなため息をついた。
    「何かあったのか?」
    明らかにいつもと様子が違うので優しく問いかける。わざわざ後ろから来たことを考えると、言いづらいことなのだろうか。
    「…わかってるの。わかってるのよ。貴方がとても優しくて、いつも精一杯なのは。だからこれは、私のわがまま」
    何の話かと聞く前に彼女の頭が離れて、代わりに柔らかく温かいものが後頭部を包んだ。腕の位置から導き出されるそれの正体に、一瞬でオーバーヒートしそうになる。布地らしき感触はほんのわずかで、間違っても振り向くわけにはいかずその場で凍りつく。
    「一号、嫌ならいいの。個人的な思想とか事情があってできないのなら、無理強いはしないわ」
    さらに押し付けられるたわわな二つの何かに内心大いに翻弄されながら、ゆっくり紡がれる言葉をなんとか聴き続ける。
    「でももし…ただ気遣っているだけなら、遠慮してるだけなら、そうしないで。私の望みは、真逆のところにあるから」
    声は相変わらず弱さを感じる。何かがあったのは間違いない。体勢はともかくこれは真面目な話だ。とにかく落ち着けと自分に言い聞かせた、その時だった。
    「何もかも忘れるために、できることは全部したわ…本当よ?……でも、でもダメなの…」

    「あいつの感触を、体がまだ覚えてるの」

    絞り出されたかのような、今にも泣いてしまいそうな、小さな声。柔らかい体から発せられたわずかな震えが、確かに伝わってきた。
    「向こうはともかく、私は本気だったから…だから、あいつが触れなかった場所の方が、少ないの…」
    一気に思考と感覚が冴え渡る。体を支配する熱が、全く異なるものに変わっていく。
    「……らしくもないわね、弱音なんて。ごめんなさい」
    無理矢理明るくしようとして失敗した謝罪で、完全に切り替わった。
     離れようとする腕を掴み、ソファーから立ち上がって彼女を抱え上げる。短い悲鳴が聞こえても止まることなく聖域たる寝室へと足を進めて、そのまま入室しベッドの上に彼女を下ろした。
    「い、一号…?」
    白いシーツの上、下着だけを身につけた彼女を見下ろす。赤い下着を、俺の色を纏う彼女を、目をそらすことなく。
    「…体力はほぼ取り戻したと見ているが、どこまでいっていい?」
    手袋を外し、ユニフォームのボタンを解きながら問い掛ければ、すがるような目で腕を伸ばされた。
    「何も、わからなくなるくらい…!」
    熱い。彼女に関するあらゆる新規情報を燃料に体が燃え上がっているのに、エラー音は一度たりとも鳴っていない。
    「了解した」
    衣類を雑に放り投げ、吸い込まれるようにあの柔く温かい体の上に覆いかぶさる。瑞々しい唇が自ら重ねてくるのを受け止めながら胴体を密着させれば、今度は歓喜で彼女の体が震える。
     俺は、本当に未熟だ。彼女の強さにばかり目を向けて、弱さを見落としてしまった。彼女が安心してそれを見せられる存在でなければいけなかったのに、独りで抱え込ませてしまった。
    「申し訳ないが、こちらの知識不足故に調べながらになる。最初はもどかしいだろうが、すぐ覚えるから俺に任せてほしい」
    自分の紅潮が移った頬をそっと撫でながら正直に申告すると、ようやく笑顔が見れた。
    「誰にでも初めてはあるわ。それに…まるっと一晩あるもの」

     その許しを、俺は言葉通り受け取った。





     何かが額に触れた感覚がして、スリープモードを解除する。時刻は11時23分42秒。起動したカメラの視界に真っ先に入ったのは。
    「あら、起こしちゃったかしら」
    昨晩の自分の、暴走に近い行為の結果だった。
    「大変申し訳ありませんでした!!」
    この世に土下座の世界記録なるものがあれば、間違いなく最速を更新しただろう。悠々とスマートフォンを操作している彼女の全身には、キスマークやら噛み痕やら指の痕やらが散りばめられている。乱れた髪と昨晩の汗が残る肌の艶やかさにまたムラムラしてきてああもういっそ殺してくれ。
    「ちょっと、言い出したのは私よ?こうなるくらいやれって言ったのもね」
    「そっ…それでもモノには限度というものが…」
    かすれた声で怒る彼女に向ける顔がなくてシーツから目を離せない。やめろ勝手にリプレイするな俺の頭脳本当に今は勘弁してくれ。
    「…嫌だった?」
    ひとさじの寂しさが混じった声で問いかけられる。
    「それは断じてない!」
    慌てて顔を上げて否定すれば、そこにあったのはいつもの満面の笑みだった。
    「ならいいじゃない。昨晩の貴方、素敵だったもの」
    とろりとした瞳で見つめられ、心底幸せそうな声で言われたら、もう反論なんてできるはずもなく。手近な枕に顔を埋めて言葉にならない叫びを上げるしかなかった。
    「今ほど貴方が人造人間でよかったって思ったことはないわ。こっちの反応を見ながら同時にインターネットであれこれ調べられるって、本当に便利ね。二回目の途中あたりでもう弱点全部把握されて…」
    「頼むから今は褒めないでくれ…!」
    昨晩あれだけ盛っておいて何故まだ余力があるのか。人造人間だからだな畜生鎮まれ。
    「ああ、なるほど…元気ねえ。もっと体力つけないと」
    「っ、シャワーを借りる!!」
    「いってらっしゃい。帰りに水のおかわり持ってきてくれると嬉しいわ」

     どうあがいても、俺は彼女に勝てないらしい。
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