1話 「To rebirth」B面キーボード担当
『そんで、お前さマジで手ぶらで来たの』
泣き腫らした目を擦りながら、そう言って俺を指さす。
「もちろん、手ぶらだけど。」
怒涛の通知ラッシュとあのメールの内容を見れば、誰でも俺と同じ選択をするだろう。
ドラム担当
『げんげんってば考えるより先に行動しちゃうタイプ』
メンバーいじりが好きな彼はそう言って俺の頬をつついてくる。
しかもちゃんと一定のリズムで。
頬を膨らませて発言する姿は本当にあざとい。
ギター担当
『あんまりやりすぎると今度はほんとに嫌われるかもしれないですよ先輩』
半ば脅しにも聞こえる正論で噛みつく彼にさすがに俺もかなり恐怖を感じた。
家に戻り荷物を持って改めて登校する頃には、時刻は8:00になっていた。
クラスに入り、窓際の前から3番目の自分の席に座ると俺より先に来ていた春が前の席に座り、くるりと後ろを向いた。
椅子の背に顎をのせたなんともだらしない姿で話しかけてきた。
春はRebirthのキーボード担当でRebirthのリーダーでもある。
春
『なあなあ、今日数学の小テストあんだって。勉強してねー、終わった。』
小テストがあるなんてことは初めて聞いた。
なにせ今まで不登校だったのだから。
「それ赤点とったらどうなるの」
小テストとはいえ、テストだ。勉強していないと言い訳を言ったところで評定に関わるだろう。
一年のころは赤点などとは縁のない評定ばかりだった。
だが万が一赤点を取った場合、両親が黙ってはいないだろう。
春
『居残りw』
ニヤニヤと笑いながらそう答える彼。
それだけで何を考えているのかだいたい分かった気がする。
「どうせ俺も勉強してないだろうから仲良く赤点とって、仲良く居残りしてくれって」
春
『That's right理解が早くて助かる』
「悪いけど、そんなに暇じゃないから」
俺は全力のゲス顔とともにそう返事する。
ただの小テストならもう少し怯んでいたかもしれない。
しかしそれが数学の小テストとなれば話は別だ。
得意教科だからな。
案の定小テストは余裕で、満点とはいかなかったもののかなりの高得点を取った。
少しだけ期待したのか、チラリと俺の方を見てきた春に80点のテストを片手にピースをして目を合わせる。
春
『鬼悪魔人でなし』
半泣きの声でそんなことを言われた気がしたが、気のせいだろう。