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    ※スタギャザ前世if
    ※第三者視点
    ※ずっと捏造してる
    ※不穏というか結構酷い目にあってる
    ※きたいするな

    ある地下牢獄にて死臭が漂い、錆びついた鉄格子が並ぶ不衛生な地下牢に新入りがきた。

    整った顔立ちだった。

    男は抵抗する素振りも無く牢の中へ乱雑に放り込まれた。

    惨たらしい傷跡が全身を侵食していた。

    こんな仕事をしていなければ目も当てられないほどに。

    ここへ来る前に相当な拷問を受けたのだろう。

    話によれば、味方を逃がすために自ら囮を買って出たそうだ。

    戦場なんて個々が生き残ることに必死になるものだ。

    なんて慈悲深い人間なのだろう。

    『それにしても、こんな体で投獄するなんて人の心が無さすぎる。』

    『少しぐらい応急処置をしてやればいいのに。』

    他の捕虜達が口々に言う。

    男はただ檻の中で横たわっていた。

    だがコツコツと階段を降りる音が聞こえると捕虜達はすぐに口を噤んだ。

    一瞬にして空気が張り詰めた。

    「誰が私語を許可したんや」

    看守長が地下牢の監視に訪れたのだ。

    満面の笑顔に見えるそれは建前で、黒い本性を隠している。

    左手に鞭を握りしめ、男の元へ歩いてゆく。

    想像以上に静かな男に興味を持った看守長が声をかける。

    「怖ないんかお前」

    ドスの効いた低い声に男は答えた。

    『...何がだ』

    それは看守長よりも低い声だった。

    男は看守長に怯える素振りもなく続けた。

    『今更恐れるものなんてあるのか』

    長くこの地下牢で捕虜達を恐怖のどん底に突き落とし恐れられてきた看守長にとってそれはかなり衝撃的なことであった。

    「この国は捕虜交換なんてしいひんのやぞ」

    その言葉は紛れもない真実で、男よりも先に捕まった知り合い達も地下牢にいた。

    年老いた者もその逆で幼い者も囚われている。

    「もう故郷に帰ることはできひんねんで」

    看守長はトドメと言わんばりに言い放った。

    「元より帰る故郷なんてないさ」

    「愛されていないんだ、必要とされてないんだ俺は、家族からも。」

    諦念のこもった男の返事に看守長は言葉を失った。

    「戦死した方が良かったのかもな」

    男から生に縋るような言葉は出なかった。

    「なんやこいつ」

    一人の捕虜に入れ込むことなんて無い。

    ましてや看守長となれば尚更。

    どこか儚く美しい男で看守長とは対照的だった。

    例えるならば蝶と蜘蛛。

    羽に深い傷があるせいで飛び立つことが出来ない蝶だ。

    運悪く蜘蛛の巣に落ちた。

    言わずもがな運命は決まっている。

    蜘蛛は毒で蝶を緩やかに苦しめようとした。

    蝶には既に毒があった。

    男から漂う哀愁や色気は鱗粉のように看守長を惑わす。

    本当に美しいものはどんなに傷ついても尚美しさを失うことは無いのだ。

    ありのままに死を受け入れる男に興味を持った看守長は地下牢に通うようになった。

    ある日は共に食事をし、ある日は共に朝まで語り合い、ある日は共に歌った。

    『意外と下手だな』

    「やかましいわあ」

    まるで友のように、否、恋人のように通いつめた。

    男からこんな言葉を言われるまでは。

    『苦しい…もう終わらせて……くれないか』

    衰弱していた。手遅れだった。

    傷口から細菌が入ったらしく感染症に感染していた。

    「(気づくべきやった、もっと早うに。)」

    『楽しかった…アンタみたいなやつは初めてだった』

    相手は敵軍やのに、人の死に際なんて慣れてるちゅうのに。

    そんな思いが看守長を苦しめた。

    「死ぬな」

    『幸せ……だった。ありがとう』

    看守長は正気を失い、声を荒げた。

    「何言うてんねん」

    誰が見てもわかるほどに男は死へと向かっている。

    苦しそうに顔を歪め、喘ぐような呼吸を繰り返している。

    放っておいても終わる命だった。

    看守長はナイフを取り出し、刃先を男の胸に向けた。

    「(せめて苦しませへんように一瞬で)」

    『あ......いし...てる』

    突き刺した、刹那の出来事だった。

    美しい蝶は蜘蛛の毒におちた。

    看守長はもう二度と動くことの無い男の体を強く抱き締めた名も知らない捕虜を。
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