月の夜とショコラと猫【黑限】 二人暮らしには不釣り合いに大きな冷蔵庫から、昨日作って寝かせておいたチョコレートスポンジを取り出す。猫の顔の型を館の職人に特注して作った、5号の特大サイズだ。
「うん、いい匂い」
「ショ!」
小黒の頭の上から興味津々に眺めていた黑咻が、調理台へ置いたスポンジの横へ飛び降りる。
「食べちゃダメだぞ、出来たら分けるから」
「ショ~」
ラム酒を効かせた濃厚なチョコスポンジは、会心の出来栄えだ。素直にバレンタイン用と言ってもよかったのかもしれないが、無限には「おやつ」とだけ伝え、なるべく全体が見えないように冷蔵庫の奥へ入れておいた。
『よし、デコレーション』
機嫌良くチョコレートクリームのボウルへ手を伸ばし、慣れた手つきでスポンジをコーティングしていく。ちらりと見上げたアンティークの丸時計は、17時の少し手前を示している。
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