仲直りしましょ「怒っているんですか?」
寝台に座るゼルダの隣に腰掛け、そむけた顔をのぞき込むと、緑の瞳だけこちらを向いた。
いつ見ても、光を集める金色のまつ毛と合わせて、とても美しい。
「そんな事はありません」
つんとした口調。
視線はすぐにそらされて、壁の方を向いてしまった。
「美味しかったですよ」
「嘘はやめて下さい。慰めもいりませんから」
少しだけ見透かされた。
けど、嘘ではない。
ゼルダが初めて一人で作ったオムレツは、少しだけ香ばしい風味がして、ちょっと殻が入ってたけど、なかなかあれはあれで美味しかった。
「嘘じゃないのに」
「嘘に決まっています! だって、オムレツのはずなのに、あんなに黒くて、あんなに焦げたにおいがしたんですよ。もし私が少しだけ気分を害しているのだとしたら、それはリンク! あなたが私の断りもなく、それを口にしたからです!」
やっと振り向いたと思ったら、一気にまくし立てられた。
これは、間違いなく怒ってる。
どうしよう。
むきになってる顔が、とても……かわいい。
「どうして疑うのですか? おれが嘘をついてると思った根拠はなんです?」
ゼルダの顔に顔を近づけて、小首をかしげてみせる。
吐息を感じた。
けど、肌の温もりはまだ遠い。
「根拠……根拠はありません。けど、見た目とにおいで分かるでしょう」
この距離に動揺して、ゼルダが一瞬たじろいでうつむいた。
あと少しだ。
「そうかなぁ」
「そうです……」
何も飾らないゼルダの唇が、小さくとがる。
それは、だめだ。そう、思ったのに遅かった。
我慢できなくて、ちゅっ。と、音をさせて、唇と唇が触れた。
柔らかくて、触れるとそこから溶けそうになる。
「ご、ごまかさないでください!」
ぐいっと手で、押しやられてしまう。
白く透き通る肌。その頬が赤く染まっていた。
かわいいなぁと、そう思うより早く、ゼルダの細い手首を優しく掴んで、瞳をのぞき込む。
まだ逃げようとするから、その細い腰に手をやって、抱き寄せた。
「試してみる?」
返事を待たずに少し早急に重ねて、離してから少しその唇を舌の先で舐めると、解けた隙間に差し入れた。
深く求めてゼルダの中を舐め回す。
息苦しさに漏れた声がしたから唇を離す。けど、もう一度、終わりの挨拶にと、ちゅっと短く重ねた。
瞳を開けて、ゼルダの顔を見る。
さっきよりも真っ赤な顔をしてる。
あふれる愛しさに小さく笑って、額をこつんと合わせて見つめる。
まだ互い慣れない口づけに照れが交じる。
大好きだ、と。そう心で告げて、鼻先を合わせて擦りつけてみる。
「ね。悪くない味でしょ?」
「少しにがいです……」
「そうかなぁ。おれが作った『硬すぎ料理』より美味しいと思うけど」
それは何?と、間近でゼルダが小首を傾げる。
絶対に彼女には出すつもりはないし、もうよっぽどでなければ口にしたくはない。
「今度、一緒に作りましょう。びっくりさせられるのは嫌いじゃないけど、ゼルダ様と向かい合って、笑いながら食べたいです」
「はい……。私もそう思います」
「バターはたっぷり使いましょう。塊を直接鍋にこすりつけて、白く煙が立っても怖れてはなりません」
「はい!」
「卵もたっぷり、ミルクもたっぷりです。そこに岩塩と隠し味にゴロンの香辛料を気持ち少し入れるのが最近のお気に入りです」
「ミルク……。固まらなくなったらと思って。水分が多いと熱でタンパク質が変性しないと聞きました」
「ゼルダ様。料理は頭で考えないで、『これくらいが美味しいかなー』くらいでやってみましょ。たぶん絶対に美味しくなりますよ」
そう言って、にっと歯を見せて笑った。
そしたら、ゼルダもつられて笑ったので、嬉しくてまた彼女の唇に口づける。
「じゃあ、さっそくもう一度チャレンジしてみましょうか?」
「はい!今度は絶対に美味しく作ってみせます」
キラキラと輝く瞳。
あまりにかわいくて、さっきが最後と思ったのに我慢できなくて、その頬に、額に、鼻先に唇を寄せて、最後にとびきり魅力的な唇に寄せる。
「もう!早く作りましょう」と、そう怒られるまで。