恋のキューピッドコログちゃん(仮)22
『さぁ。私のかわいい御ひい様。庭に精霊を探しに行きなさい』
美しい声が告げる。
逆光に目を細めた、幼いゼルダには母の表情がはっきりと見えなかった。
けれど、確かに自分は愛されている実感があった。この母に。この世界を包む大気、その全てに安心感と幸福を感じていた。
幼いゼルダは、髪のリボンを翻し、ドレスの裾が捲れるのも気にせず、笑顔で駆け出す。
水源豊かなハイラル城の王族専用の庭。一歩踏み出すたびに、緑のにおいが濃くなり、花壇に近づけばむせ返るほどの濃い甘い香り。
花から花へと舞う蝶を追いかけながら、視界の隅に同じくふわりふわりと飛ぶ光、緑の繁みから聞こえるのはからカラコロカラと鳴る小さな音。
なぁに?と振り返っても、覗き込んでもそこには何もない。ただ、同じくあたたかい気配。
幼い日の記憶。
「お目覚めでいらっしゃるか?」
赤く染まる寝台で、ゼルダは目が覚めた。
呼びかけるのは、幼いあの日ゼルダの母の隣に控えていた侍女長だ。
唯一と言っていい、信頼できる身近な者。
「今……」
「お時間でございます」
「わかりました」
緩慢に身をお越し、耳をそばだてる。
天蓋の外から複数の気配がした。
洗面に水を張る音。身嗜みの準備をする為に引き出しを開ける男。
大きなドレッサーからの衣擦れの音。
幼い箱庭で慈しまれた夢から覚めて、今日もまた。ハイラル王国の。このハイラルの為に在る姫巫女ゼルダの一日が始まるーー。