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    雑文をポイっとしにきます🕊

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    カカリコ村の恋人リンゼル。
    素振りだけど健全。久しぶりに日本語を書いた気分です。所々変なのはごめんなさい。

    素振り15 青草の豊かな季節を迎えたサハスーラ平原をわずかばかりのシロヤギの群れが行く。
    彼らは湾曲した立派な角を持っていて、その大きさに一瞬身構えるほどだが、その動きは緩慢だった。そのくせ、小さな耳はぴこぴこと忙しなく動かしては、ブチブチと音をたてて草を噛みちぎり、ムシャムシャと無心に喰む。そして、合間にメエメエと鳴き、騒がしかった。
     リンクはそれを眺めながら、軽く欠伸をもらして、大きく伸びをする。
    それを隣のゼルダはふふふと小さく笑って、同じく大きく腕を広げて胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込んだ。
     カカリコ村には、家畜を多く養えるだけの広い牧はない。しかし、家畜は一日に大量の草を必要とするので、朝から日暮れ頃まで、村のシロヤギはここで放牧するのが新しい習いになっていた。広い場所でのびのびと体を動かし、新鮮な草と虫でお腹をいっぱいにしたヤギ達は、毎日質のいい乳を沢山出した。それは村の赤子から大人まで皆の腹を満たし、余った物は加工されて品質の高いバターとなり、岩塩と並んで村の特産品として素材屋・満福に置かれた。旅人にも村人にも評判は上々のようだ。
     以前、この草原には騎乗した魔物が闊歩しており、ここでの放牧は難しかったが、厄災討伐を果たした今は姿を潜め、数も減った為に可能になった。しかし、皮肉な事にその代わりに獣が増え、村の畑の作物を荒らすので、そちらに人を割かれるため、愛馬の放牧を兼ねてリンクが牧童の真似事をする。
    それが、勇者として世界を救った今の彼の主な仕事だ。
     たまに今日の様に急ぎの仕事のないゼルダが、気分転換にと彼に伴って来ることもしばしばだった。
    敷布の上に腰を並んで降ろし、彼の作った昼餉を食べる。暇を持て余せば、リンクは剣の鍛錬を積み、ゼルダは持ってきた書物を読み、眠くなればそのままそこで昼寝をする事もあった。
     そうして一日中、風の音と草の香りを友にして、時に吹き渡る風が周りの喧騒を遠くまでさらい、静寂が訪れる。女神が二人の間を通ると「よろしいですか?」と、リンクが聞いた。
    いつもは決まって「……どうぞ」と、小さな声ではにかみながはゼルダが返す。すると、リンクは幸せな空気に頭をクラクラとさせながらわずかに頬を染め、そっと彼女の柔らかな唇に自分のを重ねる事ができた。
     しかし、今日は違った。
    「嫌です」
     ゼルダが口にしたのは、拒絶の言葉だった。
    うつむくその表情は、いつもの花の様なそれではなく、どこか不満気だ。
    予想もしなかった言葉に、リンクはぽかんとしてから瞬きを数度繰り返した。それから顔が、端から見てはっきりと青ざめていく。
    「……えっと、それは、その……失礼を。致しました」
     それを目にして、慌てるのはゼルダの方だった。静かに距離を取ろうとするリンクに夢中で手を伸ばすと、彼の服の袖をきゅっと握りしめる。
    「駄目とは言っていません!その……、そのっ!」
     必死に言葉を探す瞳がくるくると動き、顔が真っ赤に染まる。
    「っ毎回、『よろしいですか』なんて聞かないでください!」
    「えっ?!……あ、っと……その……やはりなんというか……その……」
     意図は理解したものの、そんな事はとてもと恐縮した様子で元近衛騎士は顔の横に両手を挙げた。彼のそんな様子を見て、元主は呆れ顔だ。もう何度もしているのに何を今更と、ゼルダはその唇をわずかに尖らせた。
    「もうっ!良いに決まってます。状況が許さない時はあるかもしれませんが、その……貴方に求められて、嫌なわけありません」
     最後は小さな声で消える様に告げると、新緑の瞳を伏せる。厳しく躾けられた王家の作法からは外れているが、まっすぐ彼を見て告げる事にいまだ恥じらいを感じていた。
    「嬉しいに決まっています。だから、どうかきかな──」
     ふいに顎をリンクの指腹が掠めて、ゼルダは言葉を切った。何事かと、そう思ったその瞬間だった。待ち焦がれた感触が、ゼルダの唇に落とされて、驚きに一瞬目を見開いたが、触れ合った所から流れ込む甘い痺れに心を溶かし、すぐに思考を止めて瞳を閉じた。
     頬を、肩を、大きくて優しい温もりが包み込み、柔く撫でる。唇はわずかに離れては、また重なり、自からを分からせ、また相手を感じる様になぞっては、1つになりたくてただ強く重ね合う。
    ゼルダは幸せで、幸せで、思わず眼裏が熱く、涙がこぼれそうだった。
    最後の瞬間、名残惜しさに互いの小さいため息が漏れる。
    「リンク……」
    「聞きません。……でした」
    「ふふふ。そうですね。とても良いと、そう思います」
     ゼルダが手を口元に、朗らかに笑った。
    その様子に今度はリンクが瞳を伏せ、そっとゼルダの膝にある彼女の手をとった。
     重ねた手と手。普段ならおずおずと繊細なガラス細工を触れるかのように触れるが、今は迷いなくその細い指先を自分のものでなぞり、指と指を絡めてから少し力を込めて握ってみた。
     細くて、自分が力を込めたらすぐ折ってしまいそうで怖くなる。でもリンクは知っていた。そんな手でこの人は永い時を、この世界を守り抜いた。その強さを今も感じている。
    だから、この奇跡への感謝と喜びから、何度でも涙が溢れそうになる。
    「これも……よろしいのですか?」
     涙を堪える声で尋ねるリンクに、ゼルダは黙って頷き、彼よりも強い力で握り返す。
    「貴方なら。何でも」
     ぱっと顔をあげて、驚きと嬉しさをぐちゃぐちゃにして、リンクは顔を真っ赤に染めた。震える彼の指先が、そっとゼルダの唇に触れる。
    「いけません。どうかそんな事、簡単におっしゃらないでください」
    「っ、……はい」
     ただ素直な気持ちを言葉にしたつもりが、それが男女の間でどこまでの意味を持つのか悟り、ゼルダも再び顔を真っ赤にして瞳を伏せた。
    また二人の間を女神が通り抜ける。長い間、何度も何度も繰り返し、空が茜色に染まり始める頃、ようやく二人は馬に跨がり、ヤギを追い立て村への道を戻り始めた。
     村までは、そそり立つ崖の間、狭い道が続く。
    夕暮れの薄暗い道を、いつもゼルダが先に、その後をリンクが家畜の群れとゼルダを守るように殿を行く。
     ゼルダが群れを急かす掛け声を口にすると、反響したそれは空へ。そして里の方へと響く。それに応えてヤギ達も鳴きながら家路を急ぐ。何度もそれを繰りしながら、ゼルダは先程の自分の浅慮さに恥入っては赤くなり、リンクに呆れられたのではと青ざめて1人こっそり百面相だった。
     そんな事はありえない。思いながらも、落ち込んでしまう。そうして、つい意識が逸れがちになるが、村の大切な財産を預かっているという意識が、再び彼女に合図の声をあげさせる。
     ゼルダのその美しい声は、牧歌的な掛け声なのにまるで揺蕩う歌のようだ。旅の間、自分を導いてくれたその声にヤギの気持ちが分かる気さえする。リンクはいつもそう思って聞き惚れていた。しかし、それも今日はどこか途切れがちだった。
    原因は分かっている。先程の一件しかない。
    だから、リンクはぐっと腹に力を込めて、息を吸い込むと、彼女に併せて合図を叫んだ。
    男のやや低く、けど柔和に優しく響く声。女の高く、どこまでも澄んだ声が重なり合う。
     リンクは馬の腹を優しく蹴って、ゆっくりとした足並みでゼルダの横に馬を並べた。狭い道を2頭の馬が並走する。二人の腕と馬同士の相性が良いので、こんな悪路でもそれは容易い。
     驚いた顔で見つめてくるゼルダに、どんな顔をしたら良いのか。リンクは分からぬまま、ただありのままの感情を浮かべて、黙って彼女の方へ手を伸ばした。その手を見つめて、ゼルダは安堵の表情浮かべると、それに黙って手を伸ばす。
    触れ合った指先から、互いに気持ちが伝わって、自然に微笑みあった。
     村まであと少し。その先の角を曲がるまで。僅かな道のりを、二人は何故かいつもより長く感じていた。
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