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    Na0

    雑文をポイっとしにきます🕊

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    ハテノの夫婦なふたりの続き。自分の好きなハテノ村とリンゼルを書いて行きます。
    タイトルは、たぶんこれでいくような…まだ未定。

    それはきっとあなたとおなじ(仮)22

     家の扉を開けると、ひんやりと湿った空気が思ったより勢いよく脇をすり抜けて、室内へと吹き込んできた。リンクは慌てて、手にした素材の入ったバスケットやボウルをひっくり返さぬように抱えて外に出ると、静かに音を立てずに扉を閉めた。ほっと一息つく。
     玄関前の石畳はすでに乾き始めていたが、一歩踏み出すと地面はまだ湿っている。しかし、シンボルツリーの根本。料理鍋の方からはパチパチと薪の爆ぜる音がした。振り向くと、カツラダがすでに火の側にいる。
     細くキリッと上がった眉に、剃り込み深い額。薄い唇に割れた顎。彼は一見、勢いのあるタイプに見えがちなのに、その垂れた目尻と口調が全てを愛嬌のある人間にしている。
    リンクとそうたいして変わらない年、相応に思った事を口にするのも憎めない。いつもの光景故に驚きもなく、リンクはそちらに手をあげて挨拶を送った。
    「リンクさん、おはようッス。雨止んでよかったッスね」
    「おはよう。そうだね。いつも火をありがとう。今から鍋使っていい?」
     手にした物を地面に置きながら、声をかける。料理鍋の周りは木陰で、時折雫は落ちるものの濡れてはいなかった。
    「もちろんッス。いつもおじゃましてるッス」
    (自覚はあったんだ……)
     リンクは心の内を隠さずに、乾いた笑いをもらした。最初からここには誰かしら人がいるので、疑問に思う事もなかった。火は人を惹き付けるし、たまにふらりと帰ると知った顔がある安心感から不満に思った事はなかった。
     しかし、ゼルダがこの家に来てからそれは少しづつ変わってきている。苛立ちはないが、どこか落ち着かなさを感じる様になっていた。
    「今朝は何を作るんッスか?」
    「寒いからシチューかな」
     リンクがバスケットから調理道具やこの辺りではあまり見かけない調味料を取り出すのを「それはンまそうッス」と、ワクワクと期待に満ちた瞳でカツラダが覗き込む。ご相伴にあずかる気満々だ。最初の頃に「一緒する?」と声をかけた自分をリンクは恨めしく思っていた。
     まずはパンからと、カンカンに熱された鍋肌に水を入れ蒸気と熱湯で簡単にゆすぐと、古布でこすり取った。それからバターを塊のままこすりつける。ジュワンと美味しい音と良い香りとともに白い煙があたりにが漂う。そこに昨日のうちに仕込んでおいた生地──さわるとふかふかして、簡単に跡が付く柔らかなそれをそっと置くと、パチパチと音が立つ。
     そして、最近はめっきり壁でインテリアになってしまった金属製の盾を蓋代わりに被せて、その上に少しの薪をのせる。しばし待って、いい匂いと頃合いの音がしてからどける。
     すると、ほっこりと膨らんだ濃いきつね色のパンが焼けていた。仕上げにと鍋肌に追加でバターを滑らすとパチパチと音が鳴った。
    「かーっ!いつも思うけどいいにおいッス」
    「ありがとう」
    「初め、竈じゃなく鍋でパンを焼くって聞いた時は、びっくりしたッスけど、これはこれでパリパリで、しょっぱくてンまいッスよね」
    「だよね!でも今度、サクラダさんが戻ってきたタイミングでいいから、竈作ってほしいんだ。できたら冬までに」
    「おお!ついにッスか!いいッスよ。社長も気にしてたッス」
     鍋からパンを取り出すと、切れ端の肉と野菜を炒めミルクを入れる。ふつふつと小さな泡が出てきたら、バターで小麦を炒めて作っておいたルーを、おたまで一匙すくって入れる。溶け切る頃合いになると、鍋は淡く黄色みがかって、こっくりとした物になり、あたたかな湯気に甘さが混じる。
     焦がさぬように、底を擦る様にして、鍋を縦に、次は横にとまっすぐかき混ぜる。
    その真剣で、どこまでも楽しんでいる表情に「まめッスよね〜、リンクさん」と、自分では料理1つしないカツラダがつい率直な意見をもらした。
    「そうかな?」
    「そうッスよ!自分ちだと、かあちゃんがやってたッス」
    「疲れてるみたいだったから、もう少しゆっくり寝せときたいんだ。あと、おれがね、作りたいんだ。料理嫌いじゃないし。旅の途中、料理を覚えながら、ずっと一人で食べてて。美味しいんだけどさ、なんか物足りなくて。それが、ある時、誰かの為に料理した時」
     そこまで話して、近くにあったリンクの意識が、一瞬、時も場所も遠くに行って、ふいにふっと笑顔をもらす。
    「あるおじいさんと食いしん坊のリト族の子供なんだけどさ、美味しいって顔して食べてくれて。なんだか、ここがすっごくあったかくなってさ」
     話ながら、手のひらでゆっくり大きく胸を撫でる。
    「美味しそうに食べてもらうだけで、こんな気持ちになるんなら、誰かと一緒に食べたりするのって、きっともっと嬉しいだろうなーって、そう思ってたんだけど。それがぜんぜん違ってさ!向かい合って大切な人と食べると、思ってたよりもっとぽかぽかしてきてさ。『美味しい』って、ただそう言ってもらうだけで、すごく幸せなんだ」
     『幸せ』。そう口にした時、リンクの脳裏に、消えてしまったもう一人の自分が過ぎった。その心情を思いやり、瞳を閉じて「たぶん産まれてから初めて。一番幸せって、そう思ってる」と、そう万感の想いを込めて呟いた。
    それを、もしゼルダが隣で聞いたら、新緑の瞳を潤ませて、彼の手を握ったろう。
    「そうッスか〜。それはいいッスね〜」
     しかし、それを耳にしたのは、事情も背景も全く知らない者だ。だから空色の瞳がやけに忙しなく瞬くのに気がつかなかった。
    「あと少しかな。そろそろ起こさなきゃ。鍋見ててもらえる?」
    「うっス」
     リンクからおたまを受け取り、素直に鍋の番をしながら、カツラダは彼の姿が家の中に消えるまでその背中を見つめ。大きくため息をついた。
    「あー、あー。独り身にそりゃないッスよ。朝から盛大にノロケられちまったッスね」
     愚痴りながら、幸せのおすそわけをもらったようだ。カツラダの胸にもぽっと小さな灯りが灯ったようで、朝の空気に冷えた体にわずかなぬくもりを感じていた。



    3

     二人で朝食を済ませ、身支度を整えるゼルダを待つ間に、リンクは台所でお弁当を作る。
    自分のと研究所へ行くゼルダに持たせてやるのの二人分だ。といっても、彼女が研究所に行く時はプルアとシモンもつまめるように多めに作る。
     今日は、予定通りサンドイッチにした。ヤギのバターを先程のパンに薄く塗って、少しだけ岩塩を砕いてふったら、乾燥させたリンゴとナッツの蜂蜜漬けをたっぷりはさむ。それらを包んだら籠にちょこんと詰めて、その脇にゴロンの香辛料と岩塩を揉み込んで寝かせておいた肉を焼いた物、シンプルにゆで卵を添える。あと、研究所の皆で食べれるようにおやつの焼きリンゴとツルギバナナを房で入れる。
     籠の中は宝箱の様に色とりどり。食べてすぐなのに、リンクはぺろりと口角を舐めた。
    「今日も良い匂いです。美味しそうですね」
     支度を終えたゼルダが籠を覗き込むと、リンクは彼女の頬に口づける。
    「美味しいよ。愛情たっぷり入れといた」
    「まぁ。お昼が楽しみです」
     はにかんで笑うゼルダ。リンクは夕方までの孤独な時間を想って、そっと彼女の肩を抱くと今度はその柔らかな唇に口づけた。
     二人が家を出ると、もう太陽は空でさんさんと輝いていた。昨夜の雨はどこに行ったのか、日差しが刺すほどに降り注ぐ。
    「昼は、暖かくなりそうですね」
    「そうだね。過ごしやすそうだ」
     ゼルダは腰にシーカーストーンを。リンクはお弁当の籠に研究用の書籍を携え、村へと降りていく。
     坂道の最後。素朴な階段を降りると、村の門の方からゼルダを呼ぶ声がした。子供の声だ。
    「お姉ちゃーん!」
     見やると、両手を前にピンと伸ばした状態で手を合わせたまま。たったかたったか、ハフハフと息を乱しながら危うげに走ってくるのは、養鶏場の一人息子のタチボウだ。
     かけたメガネを隠すほど伸びた前髪が、風と走った勢いで上がり、狭い額が見えていた。いつもはフムフム呟きしゃがみこみ、向き合えばやや自信なさげに俯いて見えにくい瞳が、くりくりとなんとも可愛らしい。
    「おはようございます。タチボウ。今日は、どうしましたか?」
    「お、お、お、おはよう。っございます」
     ゼルダが挨拶すると、それだけでほっぺが真っ赤になって、うつむきながら、そっと合わせたままの小さな手を無言で差し出した。ゼルダはそれを興味深そうに、右に、左にと覗き込んだ。
    「これは? 何が入ってるのですか?」
    「すっ、すっごいモノ見つけたんだよ」
    「まぁ、何でしょう?見てもいいですか?」
    「うんっ!」
     嬉しさからタチボウが大きな声で答える。
    すると急に「いたっ!」と漏らすと、ぱっとその手が開かれて、そこから白っぽい影が飛び出した。
    「きゃっ」と、ゼルダが驚きの声をあげ。
    「ああぁっ!?」と、タチボウが影を追って悲しい声をあげた。
     影は自由を求めて喜びの羽ばたきを見せたが、それは一瞬だった。ぱっと目にも止まらぬ速さで、リンクの手が空を切った。
    「ど、どうなりました?」
    「ボクのすごいモノは?」
     二人が被せて聞いてくるので、リンクはニヤリと笑う。
    「ここだよ」
     そう言って、右手をそっとひらめかせる。すると、彼の指と指の間に羽が挟まれて、灰色のバッタが現れた。
    「まぁ!」
     ゼルダは瞳を大きく見開かせた。村の女なら「あらまぁ、なあに?」と、害虫めとばかりに厄介者を見る目をするか、「美味しそうじゃない」と、食料を見る目をする。しかし、ゼルダの新緑のそれは、知識欲にキラキラと輝くのだ。タチボウは、その美しさを満足そうに見つめていた。
    「すごい……変態したばかりのガンバリバッタのようですね」
    「へんたい?」
    「はい。つまり脱皮したてのようです。ガンバリバッタは土の中で大きくなって、外に出てから何度も脱皮をします。そうしてよく見かける色の成虫になるんです。抜け殻を見たことは?」
    「ある……かも。草むらで見かけた」
    「すごいです。私はまだありません」
    「ほんと?!なのにわかるの?」
    「昔、本で読んだだけですが。たぶん、これがそうでしょう」
    「へぇ〜!すごいや!ボクも虫の本、読んでみたいな」
     期待の眼差しに、ゼルダは少し困ったような。また同時に悲しそうな顔をした。
    「残念ながら、もう手元にはないんです」
    「そっかー……」
    「昆虫が好きなのですね?」
     心底残念そうにガックリと肩を落とす少年に、ゼルダは昔の自分を見るようで、そっと肩に手を置いた。
    「他に色々。たくさんだよ。この間……別のもっとすごいモノ見つけたんだよ」
    「まぁ!すごいのですね。よければ、また今度見せてください」
    「いっ、いいよ!」
     ゼルダがタチボウを褒め、その頭を優しく撫でると微笑んだ。すると、ぴょんと飛び跳ねるや、来たときと同じく、うふふ。やははっ、と嬉しそうに笑いながら、足がもつれそうな動きでかけて行った。
    「行っちゃった。これ、どうしよう?」
    「そうですね。……放してあげましょうか」
    「そうだね」
     リンクはそう言うと、指と指の力を少しだけ緩めた。すると彼の手のひらで、慌てたようにモゾモゾと羽根を整え、一瞬の沈黙の後に小さな命はぱっと緑の草原へと飛んで消えていった。
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