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    雑文をポイっとしにきます🕊

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    ゲルドを旅する恋人な二人の話。
    お題から産まれたいつもと違う二人…。マイブームの百年前と違う所を見つけた戸惑いと喜び風です。

    お題『赤面する子は可愛い』から 乾いた熱風に、上から下から照りつける陽射し。
    灼熱の砂漠が肌を刺す。強き命のみが許される。ここは国の最果ての地。
    そんな荒野に年若い乙女の華やいだ声が響いた。
    「リンク! リンク! ここです! はやく」
    「どうしたんですか?!」
     急に駆け出したかと思ったらバザール前に佇むゼルダ。その背中に追いつき、リンクはその美しい横顔を見やった。
    「覚えていますか? ここでの事」
     くるりと振り向いた表情は、期待に満ちた瞳は細められ、はにかんでいた。リンクはそれを眩しく思いながら、そう言われて、ようやくはっとした。
     旅の途中、この場所で思い出した記憶。その時はどこか不確かだった物が、ゼルダという存在を確かめた事で、リンクの中でより鮮明になって蘇る。
     あの、わずかな幸運を手繰り寄せる感覚。自分の悪しき予感ごと切り捨てた敵の感触。ひりついた空気。破裂しそうな胸と乱れた呼吸を隠して、敵を威嚇し、守り抜いた姫にはできるだけいつも通りと装った。安心させたかった。それが自分の優しさの示し方だった。
     全てが終わり。静寂の中、差し出した手に、重ねられた手が小さく震えていた。謝辞をのべられる唇も、血の気はひき、小さく震えていた。
     なのに、それに気づいていながら、だだ儀礼的に接しただけの自分を思い出す。変えられようのない過去に、情けなさを覚えてリンクはそっとバザールへと視線を移す。
    「はい……」
     それを見たゼルダは、そうとも知らずに、リンクが自分の言葉に気分を害したのかと思った。
    彼女にとって以前の彼は、どこからどうしても従者然として、感情の起伏をあまりはっきりとしない者だった。打ち解けても、彼からの想いに確信が持てたのは、厄災の直前くらいだ。
     けど、今のリンクは違った。喜怒哀楽を素直に表し、口にする。それが嬉しく、また好ましい。だからこそこうして、任を解いた今も恋仲として共にあり、この国を旅するのだ。
    「私とした事が。どうか許してください」
     ゼルダのしょげた声に、今度はリンクが驚いて、彼女の方を振り向いた。彼女は、ただ極限まで心を硬く武装して、しなやかさに欠けた所があった。自分の弱い所などあまり表さず、それが出てしまう時は、決まってどうしようもなく、ポキリと心が折れかけてしまう時だけだったからだ。
     姫付きの騎士に就任して、短くもなく。長くもなかった時を過ごして、それを目の当たりにしたのは片手で数えるほど。もちろん他にも限られた人には見せていた。自分はその数少ない一人だと自負して、そんな時は姫を心の底から案じながらも、ほんの僅かな喜びを心の奥底に感じていた。そんな汚い自分も思い出して、リンクの胸に罪悪感が湧き上がる。
    「いつも……覚えていますか、と。そればかり」
    「いいんだ。大丈夫」
     か細くなる声に、リンクは堪らずゼルダの手をとった。彼女の手は、驚くくらいに熱かった。
    なのに、それすら気付けず、リンクは胸に湧いた感情と記憶の津波に耐えるのに必死で、ぎゅっと握りしめる。
    「リンク?」
     痛みさえ伴う。初めて感じるリンクの感情の強さに、ゼルダは戸惑った。頭が上手く回らない。
    風に揺れ、フードから見え隠れする彼の瞳を、ただ不安げにのぞき込んだ。
    「……その、思い出したなら、怖くなってないかなって、そう思って……上手く言えない。ごめん」
     半分くらいは上手い嘘。それでも、それ以上に彼の真実だった。
    それが、ゼルダにはわかっていた。百年前の自分がどこかで報われた気がして、喜びが胸にあふれて苦しく、体が熱い。
    「ありがとう。リンク」
     そう告げて、彼の腕にそっと体を預ける。伝わる彼の体温が愛しくて、頬を擦り寄せた。
    「今の貴方は……その……とても……」
     言葉にしたい。私も、と。そう、ゼルダは願った。なのに、口が思ったように動かない。暑い。とても暑い。顔が文字通り、燃えるようだった。
    くらりと彼女の世界がまわる。
    最後まで寄り添っていたのは、必死に彼女の名を呼ぶリンクの声だった。


    ✴ ✴ ✴


     昼下がり。砂漠が最も暑い時間。バザールの中心にあるオアシスを風が渡り、ヤシの木がザワザワと枝を揺らしていた。
    風下には涼を求めて様々な種族が、それぞれ思い思いに腰を下ろしていた。
    普段も、わずかにそよぐ風すら砂漠ではありがたいが、人が集まるほどではない。
     今、オアシスの中央には、見たこともないくらい大きな氷柱が3本建っている。
    ギラギラと輝く日差しに、神秘的な青がそれだけで涼しげに光る。
    ハイラル信仰が廃れて久しいこの土地で、あちらこちらから神の御業かしらと声があがっていた。
     そんな喧騒も、バザール唯一の宿『御宿カチュー』までは届かない。ただ、冷やされた風だけが戸口を抜けて奥の小窓から抜けていく。いつも日差しを遮り、石の冷気がひんやりと心地よい場所だが、今日は一段と心地よかった。
     その一番奥。上と下に別れて、いくつか並んだ寝台が置かれていた。下段にふかふかのベッド。上段にはふつうのベッドが設置されている。
     そのふかふかのベッドの一つに横たわっていたのはゼルダだ。冷気と共に、上段の青いカーテンが揺れる。それを新緑の瞳でぼんやり目で追いながら、ゆっくりと瞬きを繰り返していた。汗は少しひいてきたが、頭がクラクラとして熱があるようだ。
    息をすると、冷たい空気が、まだ熱る体に心地よい。
     耳をすますと、隣のキッチンスペースから音がしていた。リンクが先程からそこに立ち、甘い香りを漂わせている。
    トントントンと、素材を切る音。薪の爆ぜる音と共に、クツクツと何かが煮える。
    そして何だか、ザリザリ。ゴンゴンと不思議な音までしてきた。何だか落ち着くと、耳をそばだてていたが、それらが不意に全て消えた。
    「ゼルダ、気分はどう?」
    「だいぶいいようです」
     トレイを手にしたリンクを見て、ゼルダが何とか体を起こした。
    それを助けながら、リンクが彼女の背中に借りていた予備の枕を数個入れてやった。これもまた羽毛のふかふかとしていて、柔らかさに体を預ける。心地よさに城の寝台が偲ばれて、ゼルダは堪らず息を漏らした。その様子を見て、リンクは少しだけ眉根をよせた。
     命に関わる暑さ。それがわかっていたので、ゲルド行きが決まった日から準備を整えてきた。百年前は、用意された薬の数を確認し、それを持って出ればよかったが、今は自分で調達し、調合までしなくてはならない。
     一日に必要な分を計算して、材料を揃える所から始めた。高地を巡り、空を行く昆虫を採った。その過程で、今は数を減らした魔物を屠り、素材とした。全て揃えるまでリンクでも一週間かかった。
     そこから調合にまた数日。なるべく荷物を減らすために、素材のまま携帯する事にしたが、初めの二日分は薬として持っていたかった。
     そんな心配ばかりの支度だったが、いざ出発すると、旅路は順調だった。早朝、ゲルドキャニオン馬宿を発った。用意したひんやり薬を飲んでもらって、ペースも細心の注意を払った。なのに思い出の場所だと話し込んで、勝手に落ち込んだりして、薬を飲んでもらうタイミングを見誤ってしまった。自責の念に、唇を噛みしめる。
    「リンク。私は大丈夫ですから」
     ゼルダが、リンクを気遣って、そっと彼の指を握ってきた。体温があがったゼルダの顔は、リンクが見たこともないくらい真っ赤だった。自分では立ち上がれない程に具合が悪いのに。宿に空きがあってよかった。と、リンクが少し眉間の皺を緩めて、ゼルダの額に手をやった。
    「あっ……冷たい。心地良いですね」
    「そ、そう? でも、ちゃんと冷やさなきゃ」
     リンクは動揺を隠せないまま、トレイの上にあった布を額にのせる。オアシスの水で濡らした布の方が冷たいに決まっている。けれど、ゼルダは彼に触れていて欲しくて、また手をのばす。すると、すぐに握り返して、指が絡んだ。ゼルダの体からふっと力がぬける。
    「薬は飲んだけど、体の熱がひくまで時間かかるそうだから。これ」
    「何でしょう?」
    「冷たくて美味しいよ。外の露天で採れたてのフルーツを売ってて、それをハチミツと一緒に煮込んだんだ。それを凍らせて、砕いてみたんだけど、どうかな」
     一転、わくわくとした表情で、リンクがゲルド模様の土の器と匙を手にする。皿に盛られた薄桃色の物を混ぜると、春先の雪の音がした。
    それをおもむろにすくうと、「はい。どうぞ」とリンクがゼルダの口元へと運ぶ。
    ゼルダは瞳をしばたたかせ、それをまじまじと、みつめた。
    「『城』を思い出すね」
     城。二人の間では、それはもちろん百年前をさす。手を汚さぬようにと、食事は口に運んでもらい、着替えも、体を清めるのすら、人の手で成されていた。やんごとなき身の上。そう言えば当たり前。だが、この時代ではどれだけおかしな事か。聡明なゼルダは痛いくらいに身にしみてわかっていた。
     だから、こうやってリンクに食事を差し出される事はとても久しぶりで、今の自分がとても弱っているのだと思った。その証拠に、感謝の念と気恥ずかしさで、瞳が潤むのが止められない。
    「思い出したのですか?」
    「うーん。どうだろう。ゼルダの事は、結構思い出したいって、そう思うからかな」
     溢れる涙を誤魔化したくて、ゼルダは差し出されたままの匙に口を付けた。
    唇にピリッと冷たく、その瞬間から広がる青い香りに酸味のたった強い甘み。そして最後に少しだけ細かくて硬い、塩気を感じた。
    舌の上で溶けて、広がる。優しい味だった。
     ふふっと、頬を伝う涙をそのままにゼルダが笑う。それを見て、リンクも同じように笑って、指腹でそっと、彼女の顎先に光る雫を拭った。
    それを横目で見守っていた女将のカチューは、仲睦まじい様子に自身の昔を思い出して、こっそり口元に笑みを浮かべていた。
     ゼルダがおかわりまで平らげ、リンクが差し出した布で、そっと口元と目元を拭う頃には、赤かった顔が少し元の白さを取り戻していた。
    「不思議。まるで甘い雪を食べているようでした」
    「でしょ。その土地の物って、美味しいよね。あと甘さを強くするのに、隠し味に岩塩を入れた。ゼルダみたいに暑さで倒れた人にいいって、そこで聞いたんだ」
    「あぁ、それで。とても美味しかったです。食べ過ぎてしまいましたね。何だか、恥ずかしい」
    「嬉しいよ。少し元気が出た証拠でしょ」
     リンクが言いながら、ゼルダを横たえた。
    伺うと、まだ少し熱はありそうだが、汗はひいているようだった。
    「一旦、戻ろうか?」
     小さな疲労のため息を漏らすゼルダに、リンクが言う。彼女がどれだけこの道行を楽しみにしていたか。知っていての提案だ。彼もまた同じ気持ちだったから、残念でならない。しかし、彼女の安全には代えられなかった。
    「いえ。もう街はすぐですし」
     ゼルダは、驚きに息を飲んだ。今までのリンクなら何か行き詰まれば、目的の為に何か違う提案をしてくる。自分では思いつかない方向からのアクセスにいつも感心していた。
     だから、今回の事がどれだけの事だったのか。自分が危険な環境と理解しながら、しでかしてしまった事の重さが、今になって身にしみてきて、余計に意固地になってふるふると首を降る。
    「明日になれば必ず良くなります。だから、お願いです。今のゲルドの街を、この目で確かめたいのです。貴方がとても美しいと言っていた、砂漠の夕日も一目、貴方と一緒に……」
     ゼルダは必死に彼の青い衣をきゅっと握って、引っ張った。揺れる瞳がせわしなく瞬くのは、涙を堪えているから。それを見て、駄目などと言えるはずもない。それに、リンクは嬉しかった。何気ない二人の時間にふと話した事を、とても楽しみに覚えていてくれて事が。
    「……わかった」
     絞り出す様にリンクが言うと、ゼルダはぱっと表情を明るくした。
    「おれももっと気をつける。けど……あと、1つお願いがあるんだ。本意じゃないんだ。けど、また倒れたら危ないから……」
     リンクは珍しく歯切れ悪く言うと、上段に置いてある荷物から何かを取り出した。金属が触れ合う音がシャラシャラと鳴り響き、ゲルドの女性が好む香の香りがふわりと鼻先をかすめた。
    「これ……着てみない?」
     目の前に差し出されたのは、金属細工に縁取られた染柄もはっきりとした白い布だった。ゼルダがそう思ったのは、その面積が明らかに少なかったからだ。
     しかし、すぐにおかしいと気づいた。それを持つリンクの手が小さく震えていたからだ。その表情は、必死に羞恥に耐え、みるみる首まで赤く染まっていった。
     小首をかしげてから、もう一度それをよく見てみる。布は3つに別れていて、リンクから着てみないかと聞かれた。つまりは服らしい。あまりに見慣れぬ為に、そこまで思いを巡らせて、ようやく合点がいった。
    「それは、もしやゲルドの民族衣装ですか?」
    「そうだよ。着るだけで、びっくりするくらい涼しいんだ!あ……えっと。そ……その……仕方なく、その……神獣の開放に必要で!どうしようもなくて、一度だけ……着てみただけだけど……」
     後半、声は尻すぼみ、らしくもなくうつむくリンクを見て、ゼルダはなんと珍しいと、まじまじと彼を見つめた。
     見てましたよ。と、口から出そうになる言葉をこっそり飲み込む。これから街に共に入るのならば、そんな事も考えていなかった二人ではない。
     けれど、同意の元で見るのと、実は見ていたのでは意味合いが異なる。男の矜持は守るべきものと、ゼルダは習ったからだ。
     だから、ゼルダは黙って一人で起き上がり、それを受け取った。
    「そんなに思いつめないでください。わかっています。貴方にこれ以上心配はかけたくありません」
     膝の上に3つの布を並べる。金属細工が縫い付けてあるのに、彼女が思う程、それは重くなかった。1つ1つ手にとってみる。見れば見るほど単純で、覆う所も少なくありながら、難解な作りに思えた。
     頭と顔半分を覆うヴェールは耳にかける金属細工でとめられ、胸を覆う部分は動けばどうなるのか。些か心許ないが、首飾りで留められているのでまだ安心感があった。金色の刺繍と端に付けられたフリルは何ともエキゾチックで可愛らしい。 問題は、はたして頭から被るのか。それとも下から履くのかだと、ゼルダは首を傾げた。袖の部分も単純そうで、上腕と手首にあるアクセサリーは、さっぱりだ。最後のパンツはニ本の帯状のベルトでとめるのだが、それもどちらが上で下なのか検討もつかなかった。
    「ただ、この衣装に袖を通すのは、初めてです。可能であれば手伝ってくれませんか」
    「え?!だめです!……その、問題があります」
    「問題? 食事は手伝ってくれたでしょう」
    「だって……その……そんなっ」
     リンクは、ふるふると顔を降った。まさか喜んでとも言えず、まして潔く否とも言えず、その顔面をますます真っ赤に染めていく。
    「ふふっ」
     それを見て、ゼルダはたまらず吹き出してしまった。止まらぬ笑いを堪えるため両手で口元を覆って、横を向く。
    「ゼルダ?」
     リンクがのぞき込むと、ゼルダは逃げるように顔を反対に向ける。そして、くすくす、くすくすと笑って、その新緑の瞳を細めてリンクを見やる。
    「もしかしてからかった?」
     リンクがゼルダの肩に手を置くと、ゼルダはようやく笑いをおさめて、彼を真っ直ぐ見つめた。
    「ごめんなさい。だって、あまりに可愛くて」
    「男に可愛いって。ひどいや」
     ゼルダの言葉に少し落ち込み、リンクは肩を落として、頬をぶすっと膨らませた。まるで年相応。いや少し幼いだろう、その仕草に、ゼルダははっとして、すぐにふわりとはにかんで笑った。
    また新しい彼を見つけた興奮と愛しさが、彼女の胸にあふれる。
    「リンク」
     逆らえない声音で呼ばれた。それが正解なのだと。確かめる事なく、リンクはそっと顔を近づけた。間違いでない証に、ゼルダは満足そうに笑って、彼の唇にそっと指先で触れた。
    「今の貴方は、本当に……変わらなくて、でも素直で。大変、好ましいと思います」
     唇に触れた指先はもう冷たいくらいなのに、そこから熱をもつ。顔が熱い。赤面する自分を恥じながらも、リンクは蠱惑的な彼女から目が離せなかった。
     知らないけど、知っている。自分の中のゼルダと、目の前のゼルダ。ぐるぐる回る思考の渦の中、全てお見通しですよとばかりにゼルダが微笑む。
    「ほら、可愛い」
     そう言ったゼルダの頬もリンクと同じように染められていた。
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