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    Na0

    雑文をポイっとしにきます🕊

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    Na0

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    近衛リンゼル。姫様が想いを寄せ、癒しであった近衛。二人ってこんなかなと、急に浮かんだので形にしました。

    眼裏の貴方カシャッ

    (あっ……)

     シーカーストーンが遺物音をさせて、今を切り取った。
    目の前の風景よりもやや青みがかったそれは、確かに私が撮ったもの。

    「どうかされましたか?」

     彼が問う。
    心の声が聞こえてしまったのかと、ついありもしない事が頭をよぎる。
    胸が一つ、大きくなった。

    「いいえ。何もありません」

     言葉の通り装って、私は遺物の画面を閉じた。
    腰のフォルダにひっかけ、彼を見つめる。

    「ここでの調査は、これでいいでしょう。城に戻ります」
    「承知いたしました」

     崩れかけた遺跡を後にする。
    足元にちらばる石の一つを跨ごうとすると、すっと手が差し出された。

    「お気をつけて」
    「ありがとう」

     彼の手に、自分をあずける。
    指先が触れる。
    彼の手のひらと温もり。
    彼の私室にあるであろう、白い皮手袋が恋しかった。
    頬に熱を感じて、タバンタの冷たい風が心地よい。
     そのまま彼の助けを借りながら、白馬に跨る。
    かがんだ彼の手に足をのせ、彼の肩につかまる。
    瞳と瞳を交わし、言葉なくともタイミングを合わせる。
    それだけで、いとも簡単に鞍の上だ。
     最初は、まるで乗馬が上手くなった気持ちになったものだが、今日は少しだけ……そう少しだけもっと馬から離れた遠くまで視察すれば良かった。
     そんな事を考えていたら、馬への労いを失念してしまった。
    それに、どこか馬上でも落ち着かず、彼を目で追ってしまう。
    私の動揺を察してか、だいぶ慣れてくれたと思っていた馬が鼻先を振って嘶いた。
    慌てて、綱を引こうとすると、彼がそれをそっと制した。

    「ほーほー。ん?どうした?」

     彼が馬の頬皮を両手に引いてから、安心させるように鼻先を撫でる。
    岩塩を与え、水をやる。
    そして、またその手で私の馬を撫でた。
     
    「落ち着きましたね。大丈夫のようです」

     そう言って、彼は白馬を見つめながら笑った。
    そう、いつも平行か。やや下がった口角をあげた。
    驚きに目を見張る。
    まるで時が止まったような気がした。

    「参りましょう、姫様」

     こちらを振り向いた顔は、いつもの無表情だった。
    口元も、その眉も、目元も変わらない。
    自分が落胆しているのが、はっきりとわかった。


    * * *


    シャラララン

     閉められた天蓋。寝台の赤い薄闇に、シーカーストーンの音が鳴る。
    近くに控えた侍女に気づかれなかったろうか。
    私はそのまま布団に潜り込む。
     するといつも暗いだけの私だけの世界が、今日は白く冷たい光りで照らされる。
    指で操作して、アルバムを開く。
    ドキドキしながら、今まで撮りためた写真をおくる。
    すると、それはすぐに見つかった。
     青と黒の幾何学模様に、小さく表示された写真の一番最後。
    それにそっと触れる。
    すると、ぱっと画面が切り替わり、今日訪れた遺跡群の写真が大きく表示される。
    息がとまった。
     やや日が傾きつつある遺跡群。苔むした祠。
    その端に写り込んだのは、私の近衛騎士の姿。
    すこし輪郭がぼやけているが、こちらを見つめる青い瞳。風になびく金の髪。
     そう。あの瞬間、風が吹いていた。乾いた空気に土の香りがしていた。
    彼の手はあたたかかった。
    剣を握るからだろう。硬くて、私とさほど背は変わらないのに大きかった。
    触れた肩もそう。私とぜんぜん違う。
    そう思いながら、夜着ごしに自分に触れると、指先に髪の柔らかさを感じた。

    (リンクの髪は触れると、どんな感じなのでしょう……)

     触れてみたくて、画面の写真に手を伸ばす。
    指先が震えるのは、何だかいけない事のようだと感じるから。
    あと少しの所で私は伸ばしかけた手を握りしめる。
     この想いはなんなのか。
    これは物語で知るあの感情なのだろうか。
    わからないし、確かめようもないし、私は役目の途中。
    退魔の騎士たる彼を待たせている身だ。
     瞳を閉じる。
    自責の念に、少しだけ──今日感じた風と彼の温もりが過ぎる。
    眼裏に彼の一瞬の笑顔を切り取る。
     貴方のその笑顔を、私の記憶にとどめましょう。
    私だけの記憶。
    そこに貴方の温もりはないけれど。触れれば、どんな感じか知れないけれど。
    今の私に、それだけを許してください。
     瞳を開く。
    まだ明るく輝く画面に幾度か触れる。
    すると、今日の思い出は、遺物から完全に消え去った。
     青白い光が私の世界に満ちて、それすら厭わしいと電源を落とす。
    貴重な遺物を胸に抱きしめ、私は目を閉じた。
     いつもは一日の終わりに後悔や悔しさが追いかけてくるが、今日は違う。
    このまま眠れば、あの風景が待っていてくれるような気がして、足先からふわりと包まれる様な感覚にただ身を任せ落ちていく。
    あの笑顔を寄り添わせながら。

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