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    雑文をポイっとしにきます🕊

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    妄想ハテノ村√。しばらくリンクと村人でしたが、今回は王道の姫様とプルアとシモン。やっとリンクとゼルダがいちゃつきはじめます。終わらなかったので、あと一回続きます。

    それはきっとあなたとおなじ 1010

    「姫様、そろそろ終いにしましょう」
     陽の傾きを見て、プルアが言った。穏やかな夕暮れ前の一時、彼女の一声でシモンがお湯を沸かし始めるのが日課だった。
     もちろん研究所は研究第一。24時間、実験機が止まる事はない。実験と実験の合間が人らしい生活の時間になるのが常だったが、ゼルダが通いの日。リンクがそろそろ迎えに来ようかという時間には、ゆっくりと向き合って一時を過ごす。
    「どうぞ」
    「ありがとう、シモン。いい香り。今日はハイラル草に……ポカポカハーブですか?」
    「正解です。今日は風が冷たいですから。どうぞごゆっくり」
    「いただきます」と、一言。ゼルダのほっと寛ぐ横顔に満足気に笑うと、シモンはそっと離れて自分の持ち場に戻る。それもまた日課だった。
    「あたたかい」
    「そーねー。ここ寒い? 姫様?」
    「あ、そんなことは」
    「遠慮しないでねって、言いたいけど。ここ古いからネ〜。扉が開くと一気に外と同じくらい冷えちゃうんだから。夜なんて特にネ」
     外見は幼子なのに、やけに年老いた様子でプルアがぷるりと体を震わせた。
    「今度、何か羽織る物を持ってきます。プルアもほら。せっかくのお茶が冷めますよ」
    「そうそう。あいつ、このハーブを使ったお茶だけは上手でネ。寒さが骨身に染みてきた頃に、研究所に来たの。ここだけの話、だからロベリーのとこじゃなくて私のとこに来てくれてよかった!調子にのっちゃうとあれだからナイショ」
     ぱちんとウィンクする年上なのに、歳が近くて、でも若い。気のおけない大切な仲間にゼルダは屈託もなく笑ってみせた。
    「あの……プルア、今、ちょっと個人的な話をしてもいいでしょうか?」
    「はいほ〜い。珍しいネ。どうしたのかナ?」
    「研究とは関係ない事なのですが……相談させてもらえないかと」
    「どうした、どうした? 夫婦のあれな悩みかナ? ンフ!」
    「なっ?! からかわないでください!」
     その意味に思い当たって、ゼルダは頬をうっすら染めてむっとした表情でツンと顔を背ける。
    昔から変わらない。彼女のそんな仕草を愛しく思い、プルアはニヒヒと笑う。
    「かたじけない。これも私の悪い癖なのネ。それでどうしたのかナ?」
    「っ……私は、このままでいいのでしょうか?」
    「このままとは?」
    「村の方から言われたのです。妻というものは、炊事や掃除に洗濯……その……育児に至るまで家を守ってこそだと」
    「まぁね〜。そう思ってる輩もいるわネ」
     プルアは気のない声で答えると、いい塩梅に冷めたお茶をくっとあおった。
    「このままだと、良くないと……今日もまた忠告を受けました。私、リンクよりも全てにおいて上手くできませんし、得意な事といったらこうして研究をしたり本を読む事ばかりで」
    「いいんじゃないかナぁ。リンクは、好きでやってるんだから」
    「その……私のせいで悪く言われたりしていないでしょうか?」
    「少なくともここではないヨ」
    「それはそうでしょうが……。私は彼の名誉を守れているでしょうか? 傷つけてなどいないでしょうか? そうならないよう、気をつけていたつもりなのですが……」
    「名誉?! やだっ、ひっさしぶりに聞いたわ」
     ゼルダの悩みをとりあえず最後まで聞こうと耳を傾けていたプルアだが、つい堪らず吹き出してしまった。
    「笑わないでくださいっ!……でも、私の感覚がもしこの時代にそぐわないのでしたら、今後もそうして指摘してください……」
    「かたじけない!違うの。違うのよ。違わないけどネ」
     しょぼんとチャームポイントの耳が足れそうなくらいしょげたゼルダに、プルアは慌てて両手を振って意味不明に言葉を重ねる。
    「そーね……私も単刀直入に話をさせてもらっていいかナ?」
     一瞬黙ると、遠い所を見る瞳をしてから、またお茶を一口。ゼルダをまっすぐに見つめた。
    「もちろんです。お願いします!」
    「そう。じゃあネ…………っっっそんなん、っほっといていーのっ!言わせとけばいいのっ!昔も今もおんなじィ!っ、ほんとーに五月蝿いやつはいつの世にも、どこにでもいるもんネ!」
     プルアが一気にまくしたてる。聞き耳を立てまいとしていたシモンはギョッとして振り向き、ゼルダは驚いて、瞬きさえ忘れて瞳を大きく見開いた。
    「かたじけない。つい自分のあれやこれやと重ねて声を荒らげてしまって。……アタシね、あの頃、こうやって許されるなら姫様に伝えたかったんだけど、姫巫女である姫様を悪く言うやつはいたわ。いたわヨ。けどね、努力してる姫様自身を悪く言うやつはいなかった。声が大っきい奴らに限って、姫様の事ちゃんと見てないのヨ。厄災にビビっちゃったネズミちゃんが、ガタガタ震えてちゅーちゅー鳴いてるだけ」
     ま、しかたないけどね。と、プルアはぽそりと漏らす。
    「だから、何か言われても姫様とリンクの事を本当に知らない奴らの事なんてほっとけばいいの。今回の事だって、見られてたのも、言われたのも、『模範的な田舎の夫婦』でしョ。けど、姫様も、リンクも違う。だからね、恥じなくていいの。傷つかなくていいの。
     何を言われようと、姫様にもリンクにも。名誉にも、心にも、どこにも小さなキズ一つつかないんだからネ!」
    「そう、ですね……」
    「姫様、それわかって返事してないでしょ」
    「そう、なのかもしれません。プルアったら、難しい事を言うんですもの」
    「難しい事なんて言ってないわヨ。ほら!頭、動かして!姫様は、本当に頭いいのヨ!」
     プルアは座ったままジタバタと足を動かし、頬に手をやると悔しそうにブンブンと頭を振った。
    「ふふふ。でも、何か……知らなかったとはいえ失望させたり、怒らせてしまったら胸が痛みます」
    「姫様……姫様は女神ハイリアなの?」
    「まさか!?」
    「でしょ! いくらその血をひいてたとしても、姫様は一人のハイリア人。感情があるわ。慈悲深い気持ちでお腹は膨れないし、新しい知識で心弾ませたり、それを解明するときめきや、愛する人とのラブラブ生活だってある。生きてれば、そりゃ誰かをがっかりさせたり、価値観の合わない人から五月蝿く言われたりもある。じゃあ、それでやめちゃうの? リンクを手放しちゃうの?」
    「いいえ。それは決してありません」
     問われて驚いた様子だったが、すぐきっぱりと答えるゼルダに、プルアは安堵した。小さく何度も頷く。
    「そうそう。自分を大切に。自分を大切にしてくれるものを大切にネ。他はそうネー。遺物以下! 新婚生活以下! 何かあっても今日も隣のコッコは元気に五月蝿いわーくらいに思っといていいのヨ」
    「……わかってきたような。そんな気がします」
    「さすが姫様!」
    「ありがとう。プルア」
     ゼルダがそっと手を差し出す。それを見て、プルアは少し躊躇ってから自分の小さい手のひらを重ねる。ふっくらした短い指を、ゼルダは愛しげに包み込んだ。
    「長生きしてみるもんネ。こうやって姫様と恋バナできるなんて」
    「そうですね。私もそう思います。プルア、貴女さえよければ、また研究以外にもこうして教えてください」
    「まかせてー。伊達にこんな格好してないワ」
     ウインク一つ。指を瞳に重ねる。プルアがお得意のポーズをとると、ゼルダと二人涙が出るほど笑いあった。
     あまりに楽しい時間だったからか。いつもは少し前に気づく足音に気づかなかった。突然した玄関扉を叩く来客の音に、二人は振り向いた。
    「姫様。ほらお迎えヨ」
     扉が開くと尋ね人よりも先にするりと冷気が入り込む。温まっていた室温が一気に冷え、とたんに息が白くなった。
     扉が閉まり入ってきたのはリンクだ。いつもならありもしない尻尾がブンブンと振られるのが見えんばかりなのに、今日はどこにも見られない。表情もどこかしょぼんとしていた。
    「聞かれちゃったかナ、あの顔」
     プルアがささやく。
    「朝、ここに来る途中、少し言い争ってしまって……それでかもしれません」
    「うっふふー!こりゃこの後色々大変かナ? 姫様は。そうだ。ずっと言いたかったんだけど、明日に限らずしんどかったら、コッチに登ってこなくていいヨ。体を厭いなさいな」
     ゼルダがささやきかえすと、プルアは両手を頬にニヨニヨと笑う。言われた意味を捉えあぐねて、ゼルダが小首を傾げるが、ツンと肘でつつかれてようやく合点がいくと、彼女の名前を咎めて呼んだ。
    「今日は一段と楽しそうだね」
    「い、色々ありまして、話が弾んでしまいました」
    「そうそう。あ、姫様に持たせる資料忘れてた!アタシとした事が。ちょっと待っててネ」
     プルアが椅子からひらりと飛び降りシモンの所に駆けて行くのを見て、リンクは気まずげに下を向く。
    「石鹸、全部売れたよ」
    「本当ですか。良かった」
    「だから、今夜はご馳走。あとこれ」
     リンクが先程求めた包を差し出した。
    「これは?」
    「ゼルダの石鹸の売れたお金で。今夜は風が冷たいから。その、開けてみて」
     言われて包を開けると、ゼルダの新緑の瞳が輝きを増した。
    「素敵……リンクが選んでくれたのですか?」
     無言で頷くリンクを見て、ゼルダはケープに袖を通そうとボタンに手をかけると、リンクがそれを自然に制して自ら彼女の華奢な肩にかけてやる。
    「あたたかい。ありがとう、リンク」
    「ううん。お金、勝手にごめんね。石鹸の材料、またおれが取りに行くから」
    「いいんです。ちょうど室内で羽織る物が入用だと話していた所です。素敵!とても嬉しい。大切にしますね」
     ゼルダはリンクの胸に飛び込んで、彼を抱きしめた。リンクがそっとゼルダの背を手に抱きしめるので、まだ何も言葉は交わしていないのに心のわだかまりが少し溶けた気持ちになった。
    「ボタンの色、貴方の瞳にそっくりですね」
    「ばれたぁ〜」
     心底恥ずかしいと唸るリンクに、愛しさが溢れてふふふとゼルダが笑った。
    「姫様、お待たせ。やだ、もう〜仲良しさんネ」
     プルアがリンクに資料の入った袋と籠を差し出し、椅子に登ると彼の背中をバシンと叩いた。
    「仕事の進みは順調! 差し入れも美味しかったわ! 明日は特に急ぎの研究はなし! しばらく来なくてオッケ〜! またネ〜」
     プルアが二人を急かすようにして扉を閉めて、足音が遠ざかるのをそっと耳をそばだてる。
    「大丈夫ヨ。姫様。リンクと一緒ならいつかその意味がちゃんとわかるヨ」
    「上手く仲直りできそうですね」
     いつの間にか後ろに立っていたシモン。ずっと邪魔せず控えていて、こいつにしては上出来とプルアはふんっと大きく鼻息を一つ鳴らした。
    「上手くいくに決まってるでしょ。それに百年回生の眠りを経験した男と百年間神の力で年をとらなかった女。その間に子はなせるのか……神話に聞いたわ。女神ハイリアの生まれ変わりが、数千という長きに渡り眠りにつき、その後に子を成して王家の始祖となる。研究テーマとして興味深い。そそられるわ……メモメモ」
    「所長ぉ〜」
     プルアの悪癖を咎めながらも、どこかワクワクする気持ちを抑えきれない研究職の末席の自分を誇っていた。けれど、それと同じくらいに自分の孫ほどの見た目。実際は遥かに年嵩の二人の幸せを心優しい男は祈らずにはいられなかった。

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