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    しらたき

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    しらたき

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    直感なんてものが働いてしまったせいで過剰にレムナンの方に注意を向けてしまい、目をつけられてしまって最後まで残されて鬱憤を晴らされるラキオ…みたいなのを書きたかったけど思ったより可愛そうなことになってしまったしレムナンがすごいヤバい奴になってしまった…

    なんでも許せる人向け
    暴力表現あり

    「次元波の測定結果……です。ログを見る限り、ラキオさんはグノーシアではありません」

    初日にエンジニアだと名乗り出たうちの1人の何気ない報告。僕を調べて人間だったという報告。それが何故か酷く違和感のあるものに思えた。もう一方のエンジニアからは感じられなかった不自然な感覚。昨日の報告では感じなかった違和感。なんだこの感覚は。確かに僕はただの乗員だ。ルゥアンでグノーシア騒ぎに巻き込まれてこんな船に乗る羽目になった哀れな乗員。この報告は間違ってはいない、真実だ。なのに…この感覚はなんだ?何故この報告は嘘だと、このエンジニアはまがいものだと脳が警報を鳴らしている?まさか、これが直感というやつなのか?ありえない。そんなものは信用に値しない。もっと論理的に、現実的に説明できなければ僕自身が納得できない。こんなものに頼って推理しても何にもならない。信じられるのは、己の頭脳だけ。ただ、レムナンが本物のエンジニアであるという線を追う気持ちは、どうしても湧いてこなかった。




    レムナンは一切ボロを出さなかった。とことん突き詰めて、まがいものだという尻尾を掴んで論破してやろう、そう意気込んで一言一句聞き漏らさないように最大限注意を向けながら議論に挑んだのに、話を聞けば聞くほど本物ではないかと考えてしまうくらい彼の言動はエンジニアそのものだった。初日に唯一名乗り出たドクターの報告と完全に一致していたところを見るに、仲間を売るような真似をしてまで全員の信用を勝ち取ったのだろう。最終日の議論なんて今思い出すだけでも腹立たしい。レムナンがグノーシアだと報告した乗員がそのまま投票で選ばれた。どう考えても残ったエンジニアが怪しいと指摘したのにも関わらず、残された乗員はレムナンが本物だと信じ切っていたらしく、聞く耳を持たなかった。グノーシアを擦りつけられた乗員はここまでずっと潜伏していたAC主義者だったらしく、一切否定することなく最後には人間だと確定していた僕に票を投じて凍っていった。結局最後までレムナンを排除することはできなかった。




    朝、けたたましいアラーム音に叩き起こされなかった時点で察しがついた。やはりレムナンはグノーシアだったのだと。あんな奇妙な感覚さえ抱かなければもっと理性的に議論に集中できたはずだったのに。もっと他の可能性を考えることだってできたのに。だから勘なんてものは嫌いなんだ。後悔なんて何の役に立たないのは十分にわかっているが、どうしてもそんな思いが思考の邪魔をしてくる。せめて最後だけでもこんな雑念を洗い流すため、シャワーでも浴びられたらいいんだけど。そんな暇なんて与えてくれないだろうね…

    じっとしていることも出来ず廊下に出てみたのはいいが、後ろの方からコツコツと足音が近づいてきていることに気づく。最後に残った僕を消しにきたんだろう。AC主義者でもないただの人間を残しておくメリットなんて皆無なんだから。ならいっそ開き直ってやろう。足音の方に目線をやると案の定レムナンがゆっくりと近づいてくる姿が見えた。俯いていて表情は確認できないが、どうせ船を占拠できた喜びでほくそ笑んでいるんだろう。

    どうせ逃げ場はない。足掻いても無駄だろう。こんな惨めな気持ちを味わい続けるくらいならさっさと消してもらう方が賢明な判断だ。少しでもこの状況を打開できる方法でもあればそれに賭けたかもしれないが、僕の優秀な頭脳を持ってしてもその答えを導き出すことはできなかった。

    「僕も他の奴らと同じように消すつもりなンだろう?さっさとしなよ」

    ため息をつき、消される覚悟を決める。しかし、返ってきたのは思いもよらない返答だった。

    「いいえ、ラキオさんは、消しません。だって…まだ謝ってもらってない、ですから」

    理解ができない。そんなことのために僕を残したっていうのか?むしろ僕の方が謝罪される側だと思うんだけど?こんなところで僕の価値が潰されようとしてるんだから。概念伝達でこの思いをそのままぶつけてやりたいが、こういう時に口頭での会話だと面倒だ。仕方なく思ったことをそのまま口に出す。

    「は?謝るってなンのこと?君の方こそ僕に謝るべきじゃない?だいたい…」

    言葉を続けようとした瞬間、乾いた音が廊下に響いた。殴られた…?衝撃で床に崩れ落ちてしまう。遅れて頬がじんじんと痛み始める。とにかく、言い返してやるために早く立たなければ… ふと顔を上げると恐ろしく冷たい表情をしたレムナンと目が合った。そのまま心臓を射抜かれてしまいそうな鋭い視線で睨まれ、思わず腰が引けてしまった。

    「誰が口答えしていい…なんて、言いましたか……?次にやったら…その前歯、一本ずつ折りますからね」

    冗談じゃない、そう言いかけるが理性がそれを静止させた。あれは冗談を言っている顔じゃない。そもそも相手はグノーシアなのだから、何をしてきてもおかしくはない。相手の言いなりになるのは癪だが、話だけは聞いてやることにした。

    「…貴方、議論中ずっと僕のこと…見てましたよね。心の底から…信用できないって目で、ずっと……ずっと!僕、凄く嫌だったんですよ…?だから謝ってほしいんです」

    そんな理由で?あんな状況だったんだから疑心暗鬼になって当然じゃないか。特別君だけを疑いの目で見ていたわけじゃない。謝る気なんてさらさら起きない。

    「謝ってください。全部、不快だったんです。貴方のその態度も…その目も…っ!ずっと僕を侮ってきたことも!全部…全部全部ッ!さあ謝れッ!」

    言い終わらないうちに今度は足蹴りにされ、冷たい床に転がされる。人をなんだと思ってるんだ。ここまでされたら意地でも謝りたくなくなってきた。どうせここで終わるんだ。痛む身体をなんとか起こし、反論するため口を開こうとする。その瞬間、顔面に拳が飛んできた。不快な味が口の中に広がる。口の中を切ってしまったようだ。

    「ああ…その反抗的な目。自分の立場をまだ理解できてないみたいですね…… それなら、ちゃんと貴方にもわかるように、教えてあげますね」

    殴られた痛みで上手く動くことができず、起き上がれない僕の上にレムナンが馬乗りになってくる。そして抵抗できない僕を何度も殴りつけてくる。何度も何度も、何度も。

    「や、やめ…… 、い"っ、…うぁ…… 、っ…」

    「ふふ…… 、あははは…っ、どうですか?わかりますよね?僕の方が上なんです!だって僕はグノーシアで!貴方の命は既に僕のものなんですから!さあ謝れ…っ早く謝れよ!!っはははっ!」

    朦朧とする意識の中、レムナンの笑い声と怒声が頭の中にズキズキと響いてくる。謝りさえすればこの苦痛から解放されるのか?いや、おそらくこの様子ではどんなに言葉を繕っても無駄だろう。それに僕が謝る必要なんてない。

    一向に許しを乞おうとしない僕を見かねてか、僕を殴りつけていた手が今度は首元に伸びる。そのまま物凄い力でギチギチと首を絞めつけられる。なんとか手を押しのけようともがくが、力の差は歴然だった。

    「ぁ、…ぐ、るし…っ… 、は、……っ」

    「はは… 強情、ですね。まだそんな目を僕に向けられる余裕があるなんて。本当に……謝る気がないんですね」

    さらに首を絞める力が強まる。抵抗する気力も無くなってきた。酸素が枯渇していく。頭が回らない。霞ゆく視界。目の前の男がどんな顔をしているかも、もうわからなかった。

    「楽に消えられると…思わないで、くださいね……」

    徐々に薄れゆく意識の中、ぽつりとそう呟く声が聞こえた気がした。
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    しらたき

    TRAINING直感なんてものが働いてしまったせいで過剰にレムナンの方に注意を向けてしまい、目をつけられてしまって最後まで残されて鬱憤を晴らされるラキオ…みたいなのを書きたかったけど思ったより可愛そうなことになってしまったしレムナンがすごいヤバい奴になってしまった…

    なんでも許せる人向け
    暴力表現あり
    「次元波の測定結果……です。ログを見る限り、ラキオさんはグノーシアではありません」

    初日にエンジニアだと名乗り出たうちの1人の何気ない報告。僕を調べて人間だったという報告。それが何故か酷く違和感のあるものに思えた。もう一方のエンジニアからは感じられなかった不自然な感覚。昨日の報告では感じなかった違和感。なんだこの感覚は。確かに僕はただの乗員だ。ルゥアンでグノーシア騒ぎに巻き込まれてこんな船に乗る羽目になった哀れな乗員。この報告は間違ってはいない、真実だ。なのに…この感覚はなんだ?何故この報告は嘘だと、このエンジニアはまがいものだと脳が警報を鳴らしている?まさか、これが直感というやつなのか?ありえない。そんなものは信用に値しない。もっと論理的に、現実的に説明できなければ僕自身が納得できない。こんなものに頼って推理しても何にもならない。信じられるのは、己の頭脳だけ。ただ、レムナンが本物のエンジニアであるという線を追う気持ちは、どうしても湧いてこなかった。
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