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    TakiUroko

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    7月19日🎯🎯🎯🎯さんの #一日1宇悲 投稿を読んでイメージした短いのです
    仕事いそがしくてめっちゃ気が立っていたので落ち着くために書きました(笑)

    #一日1宇悲
    oneDay1uSad

    ねこのおきもの『いつか』への覚悟が見える屋敷であった。
    溜まる一方の給金は、けして豪奢な暮らしに流れる事はなく、家具家財、どれをとっても質素でかつ丁寧に使われている。
    行き届いた掃除。弟子として唯一屋敷に住まう事が許された若い隊士が、時折『どこを掃除していいかわかんねぇ』とこぼしていたという。
    幼くして家族を失い、かといって妻を娶り子を持つことも望まなかったその人の屋敷には、深い孤独が今も静かに漂っている。
    慈悲のない人ではなかった。むしろ深かった。
    多額の給金は早くから産屋敷の家に預かりを頼んでいたらしい。
    それは今、信用のおける団体組織を頼り、何かしらの不遇のうちにあり苦しむ子どもたちを救い日常を支えているという。

    馴染んだ縁側ではなく、鍵を回し玄関からゆっくりと足を踏み入れた。
    「お邪魔するぜ」
    自然、声が出た。
    上がり框から奥へとまっすぐ続く廊下は広い。この屋敷の主であった人が、疲れた体を壁によろけぶつける事がないように、わざと大きく設えられていたと聞く。
    足元にひっかかりそうなものはない。
    極端な程家具も少ない。
    よほどの雨風でなければ、雨戸も閉じない人であった。
    「外の気配が感じ取れないのは困る。それに…」
    縁側には、朝方綺麗な光が射す。
    「朝日を肌で感じ取るのは心地よい」
    『ここ』に寄るのは…そうだ。明け方が多かった。
    鬼を殺し、腐ったような汁を浴び『生きた』のだ。『勝った』のだと確かめるために訊ねた場所だ。
    共同の任務にあたることはほとんどなかった。
    かつて、二人三人と『柱』が共闘し、『上弦』とよばれる鬼たちの犠牲となった隊誌の記録がそれを許さなかった。
    遊び事のように鬼を作り続ける無惨。その無惨そのものと対峙するその一戦までは一人でも多くの『柱』を残したいと言ったのは、当代…いや、もはや先代となった耀哉様であった。
    だが。
    逢瀬を禁じる事はなかった。
    妻はいる。
    だが、
    欲しいのは妻ではなかった。獣や『鬼』に近い自分が恐ろしかった。
    そして、悲鳴嶼も疲れ果て、己の血肉が人のものである事を確かめる術を求める宇髄を、拒絶する事はなかった…。


    あれは、いつだったか。
    「納屋のあたりで猫の声がするんだが…」
    悲鳴嶼の屋敷には野良が時折顔を出す。
    飼っている気配はない。
    珍しく夜着のままそわそわと縁側に腰かけていた。
    「ふぅん」
    代わりに捜してみた。
    野良が三匹ばかり子猫を産み落としていた。幸い母猫は餌でも捜しに行ったのであろう。
    子猫の爪は細く細く、加減を知らないから痛い。
    顔を歪めながら首元を引っ掴み、悲鳴嶼の膝の上に置いてやると、滅多と見せない笑みが浮かんだ。
    「飼ってやるかい?」
    「いや…ダメだ」
    「…なんで」
    「戻れない日がいつ来るかもわからない。それに、ここには鴉たちも来る」
    鬼殺隊は伝令に鴉を使う。賢い鳥であるが、しばしばその黒い嘴で小さな生き物を突いて遊ぶ不心得者もいる。
    「そうか…。なら俺にアテがある」
    その頃出入りしていた遊郭で、女たちが結構猫を欲しがった。
    寂しいのだ。あの女たちは夜に無理やり狂う。昼間はとてつもなく寂しいのだ。
    小一時間ばかり、あの日悲鳴嶼に猫を撫でさせた。
    箱に詰めてそのまま連れて出た。
    あの日の、悲鳴嶼の掌からは乳を吸った子猫の匂いがした…。


    悲鳴嶼が寝所に使っていた部屋には、小さな飾り棚がある。
    かつてはその上に小さな位牌がいくつも並んでいた。ひとつひとつしっかりと名前と年が刻まれ、落命の日は同じ。
    詳しく聞く事はなかったが、ずっとその子供たちと共に悲鳴嶼はあったのだ。
    今はそれらの位牌も産屋敷の家で菩提を弔われている。

    「いくつかの遺品がまだあるそうなんです」

    輝利哉は言った。
    「亡くなった柱達の屋敷を処分するつもりはないのですが。ただ、これからどのような事がこの国に起こるのか…私は父上のようには先を見通す力はありません。なので、生き延びた方たちが安心して使える場所にして残しておきたいのです」
    そうして預かった鍵だった。

    寝所の棚には、小さな引き戸があった。何気なく開いたそこに、小さな『猫』が座っていた。
    「おい…こりゃあ」
    木片を小刀で削って拵えたものだ。
    細工を、覚えている。
    一度仕上げてふたつに割り、中に筝の玄を張り、鹿の骨を削って拵えた小さな撥が添えてある。
    ゆっくりと傾けると、「みょん」とどこか腑抜けたような音を立てる。
    そういう風に作った。
    「こういう猫なら置いていたって構わねぇんじゃねぇか」
    「…」
    閨で受取り、摩り…あの日猫を膝に乗せた時と同じように、…そうだ。悲鳴嶼は、笑ったのだ。

    猫は、もう鳴かなかった。
    とうに弦が切れていたのだ。
    けれど、よく撫でられた背中をしている。艶もあった。
    二つに割った猫の腹に、小さな紙片が折りたたまれていた。
    開くと、かさりと心細げな音がした。あまり字を書くのを見たことはないが、写経もこなすと聞いていた。
    柄に似合わぬこじんまりとした文字。
    するりとその一文を読み
    「あーっ。畜生!」
    宇髄の上げた声が、空になった屋敷に、響いた…

    「おと 恋し」
                              おしまい
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