Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ぬこです。

    龍如にハマったダメ人間。
    マジで何でも許せる方向け。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 8

    ぬこです。

    ☆quiet follow

    春趙。

    〇冷やし中華はじめてみますか〇



    買い出し帰りの駅前で、春日くんに見つかった。
    嬉しそうに声を掛けてくるから、丁度いいところに来たねぇと笑って、抱えていたスーパー袋を一つ渡した帰り道。
    夕暮れのオレンジ色に照らされながら、まだ少し冷たい風がふわふわの髪を撫でるのを、背中から見守りながら歩くいつもの帰り道は、なんだか幸せそのものみたいで。

    「春日くん」
    「んぁ?」

    気の抜けた返事と一緒に振り返る顔が可愛いくて、ネギのはみ出したスーパー袋まで愛おしい。
    風に乗って運ばれてくる、かすかに甘い春日君の香りが鼻をかすめるのが、なんだか妙にくすぐったい。


    「おなかすいてる?」
    「すいてる。」
    「何食べたい?」
    「んー…」


    考え込む春日君に追いついて隣に並ぶ。
    今日は少し暑かったから、冷やし中華でもはじめてみようか。












    〇今日はおうちの日〇




    「春日君あのさあ」
    「うん」

    よく晴れた日曜日。
    午後から出かけようかと君が言ったから、洗濯したてのシャツにアイロンをかけたのに。

    「なんでひっつき虫してるの?」
    「んー」

    マニュキュアを塗りなおして、髪形を決めて、あれ、サングラスどこおいたっけ?と家じゅうを歩き回る俺の背中にくっついたまま、長さの違う足の歩幅を器用に合わせてついて来る大きなひっつき虫は、肩口に鼻先を埋めたまま、曖昧な返事しか返してくれない。

    背中から回されて、お腹の前で組まれた手が、時々俺を引き寄せるのがうれしくて、意地悪に歩くスピードを上げてみると、「こら」と叱られて、ぎゅっと抱きしめられた。


    「こら、はこっちのセリフだよ」
    「…いいにおいする。」


    頬にあたるふわふわの髪を撫でると、猫みたいにすり寄ってくる大きな子供。


    「そうだねぇ。同じ匂いだね」


    シャンプーと洗剤と、柔軟剤と。
    洗濯終わりの自分たちは、香水とはまた違う優しい同じ香りの中にいた。


    「ねぇ、春日君」
    「ん。」
    「今ならシーツも同じ香りだけど、どうする?」


    ぴく、と顔を上げた春日君の顔は、子供だけど子供じゃなくて。
    まだ今日は整えてない顎の髭をカリカリと指先で撫でると、耳元で一つ熱い息が漏れる。
    腕の中でくるりと身をよじって振り向けば、優しい不思議な色の瞳の奥に、チリリと理性を煽る火花が煌めいていて。どうやら洗濯物がまた増えそうな予感に、笑いながらその唇を受け入れた。









    〇消毒液〇





    いつからだろうか、今まで気にも留めなかった、消毒液の香りに、眉を顰めるようになったのは。


    「………………怪我したの?」


    帰宅するなり鼻先をかすめた消毒液の香りに、趙の眉間に皺が寄る。
    サバイバーの二階、引きっぱなしの布団の傍で「げっ」と声を上げたのは一番で、つかつかと寄ってくる趙に「いやこれは違うんだその」と慌てた腕には、しっかりと血がにじむ包帯がまかれていた。


    「何があったの」
    「帰宅途中にチンピラに襲われたらしい。」
    「怪我は?」
    「それは大した事ねぇ、ちょっとナイフが掠っただけ。ま、お大事にな。」


    手際よく救急箱を片付け、のんびりと出ていくナンバを見送った趙が視線を一番に戻すと、彼はしょんぼりと顔を伏せて、のそのそとシャツを羽織りなおしていた。


    「大丈夫?」
    「…カッコ悪ぃ。」

    ぶっきら棒に吐き捨てられた言葉に、ため息をつく。

    「そんな事ないでしょ。」

    傍によってそっと頬に触れると、叱られた犬のような瞳がまっすぐに趙を射抜く。

    「お疲れ様。」
    「うん。」
    「…痛い?」
    「いや…大丈夫だ。」

    じくじくと痛んでいたはずの切り傷が、不思議な程に和らいでいく。
    怪我をして欲しくないと心から願う相手ができた事。
    傍にいるだけで痛みすら和らぐ感情を手に入れた事。
    相反するふたつは、体の痛みに慣れて生きてきた二人の世界に、まだ芽生えたばかりで。


    「不思議だね、いままでこんなこと思ったことなかったよ」


    よく見ると、拳が掠ったのかどこかにぶつけたのか、一番の目じりが僅かに赤い。
    ひたりと冷えた趙の手が親指でその目じりを撫でると、一番は気持ちよさげに頬を摺り寄せた。







    〇暑いね〇


    その日は二人して、散々だったのだ。


    「こんな暑いのによ、会社の工事現場の視察に挨拶回りだぜ?
    挙句の果ては帰りによくわからんチンピラを絡まれてよぉ」
    「俺だって大変だったんだよ。猫探しの依頼で一日中駆けまわったのに、めちゃくちゃ辛い麻婆豆腐食べたくなって汗だくで作って食べたんだからね…」
    「…後半は関係なくないか」


    狭い部屋でごろりと伸びる二人は、いつものピリッと決まった装いはどこへやら、片や普段は後ろに撫でつけている長い前髪をゴムで縛り上げ、Tシャツにハーフパンツ、アクセサリーも全部外した元総帥と、もう片方は潔くパンイチを決め込み、あたまにタオルを巻いた大企業の社長である。

    「なのに、なんで冷房壊れちゃうかなぁ…」

    しくしくしく、と背中を丸めて泣く趙をよそに、一番は必死に手に持ったうちわを稼働させる。

    「泣いたって仕方ねぇぞ。最短で明後日って言われたんだろ?」
    「あー…もうダメ…春日君、系列にホテルとかないの?お金なら払うからさぁ…」
    「世間様は夏休みだぜ。うちの系列は全部満室だよ…」
    「八方ふさがりじゃあん」

    ピクリと指を動かすだけでだるい。
    全開にした窓もわずかな抵抗でしかなく、遠くでなく蝉の音すら憎たらしい。


    「とにかく俺…いま汗臭いから近寄らないで。」
    「…………。」


    はぁ、とため息をついた趙に、ごろりと一番が寝返ると、そこにはすらりと通った鼻筋の美しい顔に玉のような汗を浮かべ、気だるげに眉を寄せながらまつ毛を震わせて暑さに耐える趙が、無防備に項や四肢をさらけ出して横たわっていて。普段より少し荒い呼吸に合わせて汗がたらりとその白い首筋を伝う様は、まさしくその最中のようで、一番はゴクリ、と生唾を飲み込む。
    正直、いつもより濃い趙の甘い汗の香りに、脳みその奥がチリチリと煽られているのだ。

    「なぁ…」
    「ダメ。シないからね。」
    「ですよね…。」


    一番が伸ばした不埒な手を、趙は容赦なく叩き落とす。
    自分とて普段の春日よりも濃厚な香りにしっかり煽られてはいるのだが、ここで始めてしまっては明日朝一番で救護班ナンバの世話になることは目に見えていた。
    かといって、隣で一番が身じろぎするたびにその肌が汗で艶めくのが分かるほど、大好きな男のむき出しの体が傍にあるこの状況は、頭で危険性を理解する趙の理性をじわじわと溶かしていくのは間違いなくて。


    「…あーダメだ。このままじゃヤっちゃいそう…俺、ビール買ってくる。」
    「…お、おれも行く。…ついでに銭湯でも行くか」
    「ん…」


    とにかくこの淫靡になりかかった空気を打破するべく、どこかよそよそしく服を着始めた二人が、通り道のラブホ街の存在に気付くのは、もう少し後のお話。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯💯💯👏👏👍👍👍💒💒💖💯😍😍😍👏💖💖☺🙏💖💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ぬこです。

    DONEハン趙。
    えっちなお兄さんは好きですか。①
    イルミネーションが煌めく華やかな横浜の繁華街を、スーツの美青年が駆け抜ける。
    整った顔立ちにめいっぱい期待を浮かべて、桃色の頬をして走る彼の瞳は、街のイルミネーションを反射してキラキラと光って。
    一目で大切な誰かと待ち合わせなのだ、とわかるその様子は、まるでドラマのワンシーンのようで、誰もが思わず振り返る。
    そんなこともお構い無しに、額に汗を浮かべて急ぐ彼が、足早に雑踏を抜けた先。
    観覧車がゆらゆらと水面に揺れる横浜港の夜景を背中に、こちらに向かって手を振る男がいた。


    「ハンくーん、こっちこっち。」


    のんびりとした甘い声が、青年の名前を呼ぶ。
    すると、ハンと呼ばれた青年は、その頬を得意気に綻ばせて、抱きつかんばかりの勢いで名前を呼んだ彼に向かってまた駆ける。


    「趙さん!」
    「はぁい、お疲れ様。」
    「...遅れて、すみま、せん!」
    「大丈夫だよ。俺も今来たトコだし。」


    側によった彼が息も整わないうちに謝罪するのを、趙は優しく受け流す。
    さりげなく背中を撫でる手に、ハンの肩が僅かに跳ねたのも、趙は気づいて見ない振りをした。


    「スーツ、似合ってるね」
    「ありがとうございま 2680

    recommended works