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    ぬこです。

    龍如にハマったダメ人間。
    マジで何でも許せる方向け。

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    ぬこです。

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    イチナン。六股事件のあと。

    「痛い!!」
    「.....................。」
    「…なぁ、ナンバ。もっと優しくしてくれよっ…痛ぇっ!!」


    サバイバーの2階に、情けない声が響く。
    六股の被害者である女性陣全員から死ぬほど殴られ蹴られ、最後の最後はマスターにトドメを刺された一番を待っていたのは、どうやら紗栄子から散々愚痴を聞かされて帰宅したらしい、ナンバのじっとりとした瞳だった。



    「……........。」



    一貫して無言。
    人を呪いそうな陰鬱な空気を背負ったまま。
    それでも、手当だけは自分の仕事だと言わんばかりに一番の背中に陣取り、バシッと音を立てて一番の背中に出来た酷い青痣に湿布を貼り付けるナンバは、先程から一番が喚くのも泣くのも全て無視して、敷きっぱなしの布団の脇に広げた救急箱を漁る。


    「……ナンバ、さん。怒ってます?」
    「 ..................。」
    「っで!!いでででっ!いや!すまんかった!!ごめん!!謝るから!!!いたいいたい!!」



    恐る恐る振り向く一番とナンバの目が合う。
    その瞬間、切り傷に遠慮なく消毒液を染み込ませたガーゼをグリグリと押し付けられた一番が、この世の終わりのようにのたうち回る。


    「やめろって!!」


    それでもやめないナンバの手をついに耐えかねた一番が弾くと、吹っ飛んだピンセットがカランと音を立てて畳に転がった。


    「……….......あんたあんまりいい死に方しないよ。」
    「怖ぇって!!!」


    ボソッと小さく呟いたナンバがのそりとピンセットに手を伸ばす。その手を思わず掴んだ一番が、とっさに抵抗しようとしたナンバの目の前で、潔く土下座を決める。


    「すまん!!!許してくれとは言わねぇ!!!でも話を聞いてくれ!!」
    「…離せよ。」


    捕まったままだった手を振り払い、ピンセットに手を伸ばすナンバの背からゆらり重たく鬱々しい怒りのオーラが登る。それを見つけた一番が、畳にめり込まんばかりに額を床に押し付ける。…心なしか、背中に泳ぐ龍魚もしょんぼりとしているように見えた。


    「全員成り行きだったんだ!!!男だったら据え膳食わぬはナントカって言うじゃねぇか!!」
    「…最悪の言い訳じゃねぇか。」
    「ぐっ…!」 



    思わず向き直ったナンバに、一番は二の句を紡げない。上裸で土下座の男と、その正面でそれを見下ろす男。
    非常に分かりやすい修羅場である。


    「ったく…、えーと、さっちゃんにえりちゃんに…あとは…。」
    「数えなくてもいいじゃねぇか。」
    「6人か…ハッ、さっすが、天下の春日一番社長だなぁ。で?」
    「……で?と、おっしゃいますと?」
    「本命だよ。誰なんだ?」
    「えっ…」


    お前だろ、と。
    言おうとして顔を上げた一番は、その目を見開いて固まった。
    見上げたナンバは、諦めとも、悲しいともつかない複雑な顔で笑っていた。

    「…ッチ。こっち見るんじゃねぇ。」
    「ナンバ。」
    「見るんじゃねぇつってるだろ。」


    顔を逸らしたナンバの声に、涙が混じる。震える肩を見つけた一番が衝動で動くのと、ナンバが咄嗟に逃げようとするのが、ほぼ同時だった。


    「離せよ。」
    「ごめん。ほんとに悪かった。」


    背後から抱きしめられたナンバが、必死に顔を伏せる。その頬からこぼれ落ちる涙が、一番の腕に落ちる。
    雷に打たれたような衝撃が、一番に走る。大事な人を、最低な方法で、泣かせてしまった。


    「…女のほうがいいならそう言えよ。」
    「違う。違うぜ、ナンバ。俺が好きなのは女でも男でもねぇさ、お前がいいんだ。」
    「…どの口が言ってんだ。」
    「…もう二度としねぇから…ほんとに、すまんかった…!」


    ナンバの肩口に額を押し当て、きつくその体を抱きしめていた一番が、ナンバの震える肩に手を回し、正面に向き直る。涙で赤く腫れた瞳にまっすぐに射抜かれ、罪悪感が身を焼く痛みを堪えながら、一番はしっかりとナンバを見つめて言う。


    「愛してる。俺にはお前だけだよ。」
    「一番っ…!」



    わぁ、と泣きくずれながら抱きついてきたナンバを受け止めて、その髪をゆっくりと撫でる。額に、瞼に、何度もキスを落として、名前を呼ぶ。


    「ユウ。」
    「一番…。」


    もう、どこにも行かない。
    そう誓いながら見つめ合い、その唇が重なろうとした、その瞬間。
    一番の頬は、全体重をしっかり乗せた渾身の拳を叩き込まれて吹っ飛んだ。



    「っいっ!!え?!なんで!!」
    「んな上手くいくわけねぇだろうが!!とりあえず殴らせろ!!」
    「うわっ待て!!待て待て!だっ!!痛ぇえ!ナンバさん!!傷口開いちゃう!!開いちゃうから!!」


    いつのまにか手にしていた傘で二発目を殴られ、一番の視界に星が散る。
    2度と、2度と浮気はすまいと誓いながら、一番は力一杯叩きつけられたハト豆の痛みにとりあえず歯を食いしばった。
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    Replies from the creator

    ぬこです。

    DONEハン趙。
    えっちなお兄さんは好きですか。①
    イルミネーションが煌めく華やかな横浜の繁華街を、スーツの美青年が駆け抜ける。
    整った顔立ちにめいっぱい期待を浮かべて、桃色の頬をして走る彼の瞳は、街のイルミネーションを反射してキラキラと光って。
    一目で大切な誰かと待ち合わせなのだ、とわかるその様子は、まるでドラマのワンシーンのようで、誰もが思わず振り返る。
    そんなこともお構い無しに、額に汗を浮かべて急ぐ彼が、足早に雑踏を抜けた先。
    観覧車がゆらゆらと水面に揺れる横浜港の夜景を背中に、こちらに向かって手を振る男がいた。


    「ハンくーん、こっちこっち。」


    のんびりとした甘い声が、青年の名前を呼ぶ。
    すると、ハンと呼ばれた青年は、その頬を得意気に綻ばせて、抱きつかんばかりの勢いで名前を呼んだ彼に向かってまた駆ける。


    「趙さん!」
    「はぁい、お疲れ様。」
    「...遅れて、すみま、せん!」
    「大丈夫だよ。俺も今来たトコだし。」


    側によった彼が息も整わないうちに謝罪するのを、趙は優しく受け流す。
    さりげなく背中を撫でる手に、ハンの肩が僅かに跳ねたのも、趙は気づいて見ない振りをした。


    「スーツ、似合ってるね」
    「ありがとうございま 2680